2021.3.5 UP
地球がかつてない危機に瀕し、食を取り巻く問題が深刻さを増す今、未来を生きる子どもたちのために「未来につなぐ食」の在り方を真剣に考えたいものです。そこで、この度、伊勢丹新宿店は特別座談会を開催。本物の味を届け続ける〈東京𠮷兆〉の日本料理店『正月屋𠮷兆』の岡田康平料理長と佐々木光顕副料理長、安心して食べさせられるおいしい幼児食の普及に取り組む〈子どもの食卓〉の代表・権 寛子さんを交えて、子どもの食についてのお考えと、両者のコラボレーションによって誕生した注目のオンリー・エムアイ商品「富喜寄せ弁当」に対する想い、そして食の未来への展望をたっぷりお話しいただきました。
左から、無添加の幼児食ブランド〈子どもの食卓〉を率いる代表・権 寛子さん。『正月屋𠮷兆』の料理長・岡田康平さんと副料理長・佐々木光顕さん。
——〈東京𠮷兆〉と〈子どもの食卓〉がコラボレーションした「富貴寄せ弁当(大人/お子さま)セット」が、伊勢丹新宿店限定でいよいよ販売されます。子ども向けのお弁当というとかわいらしい見た目のものを想像しがちですが、大人向けと遜色ない本格的な仕上がりで思わず目を奪われました。
伊勢丹新宿店地下1階・食料品フロアにて、3月3日(水)から3月9日(火)まで各日20点限りで販売される〈東京𠮷兆〉×〈子どもの食卓〉の「富喜寄せ弁当(大人/お子さま)セット」5,940円。
岡田:ありがとうございます。〈東京𠮷兆〉の定番商品である「吹き寄せ弁当」をもっと多くの方に味わっていただきたい。日本料理の美しさをお子さまたちにも伝えられないだろうかと考えていたところ、幼児食を専門に手がけていらっしゃる〈子どもの食卓〉の権さんと知り合う機会があり、副料理長の佐々木と共に何か一緒にやれないかという話になりました。
権:子どもって、大人が食べているものを見てよく言うんですよね。「パパやママと同じものが食べたい」って。でも、親の立場からすると「それはダメ」になる。幼少期は食の土台を作る大切な時期であり、素材本来の味を食べて、味覚を適切に発達させることが望ましいからです。ただし、親子が同じものを食べて感動を共有することも大切。家族みんなで楽しく食卓を囲んだことが、食の原体験になっている方も少なくないのではないでしょうか。それで言うと、このコロナ禍はおうちごはんの機会を増やしたわけですが、子育てと仕事を両立するお母さんは、いつも以上に食事の用意に追われることになってしまった。そこで、この一年を乗りきってきた親子をねぎらいたい。おいしいものを食べて、純粋に幸せを感じられる時間を作ってあげたい。私からは〈東京𠮷兆〉さんへそんな想いをお伝えいたしました。
権さん(写真左)は証券会社に勤務後、第一子の妊娠を機に専業主婦に。自らの経験を通して働くママの安心を増やしたいと思い、5歳の女の子と3歳の男の子の母親であると同時に、〈子どもの食卓〉の代表として、子どもに安心して食べさせられるおいしい幼児食の普及にも取り組んでいる。
——では、肝心の「富喜寄せ弁当セット」のこだわりを教えてください。味覚の発達を考慮するとなると、大人向けはともかく、子供向けに対する味付けの工夫が気になります。
佐々木:最大のポイントは、〈子どもの食卓〉が展開しているだしを使っていることです。
権:子ども向けなので、鰹節と昆布の基本のだしに、成長に必要な栄養たっぷりのいわしを増量。椎茸も加えています。食品添加物や食塩を使わずに作っているのもこだわりです。
佐々木:だしは日本料理の味わいを決める要。うちの店が普段からひいているものとは異なる味わいだったので、実は少し戸惑いましたが、むしろ違って当たり前なんですよね。
権:そうなんです。大人は積み重ねてきた経験がある分、味覚のみならず視覚などにも頼りながら、おいしいかおいしくないかを判断しますが、子どもはそうではありません。味覚や嗅覚に左右されます。実際、味蕾の数が大人よりも多いので、味を感知する力が強いんです。なので、味覚を形成する幼児には、より自然に近い味、簡単に言うと薄味の方が適していると言えます。
佐々木:「子どもが好きな味とはこういうものだったのか」と目が覚めたような思いがして、学びにもなりましたね。また、ちらし寿司の鶏肉と、鱒の揚げ物にも権さんのところのたれを使わせていただきました。漬け込むだけで手軽に味がきまる。よく考えられていますよね。
権:ありがとうございます。「やさしい万能だれ」は添加物を一切使っておらず、日持ちがしないため、30mgずつ小分けにした使いきりのタイプにしました。お子さんの消化吸収に配慮するがために、国産小麦を炒って麹にし、木桶の中で発酵熟成させてから搾るという丁寧な工程を踏んでいます。そうそう。鱒の揚げ物はうちの3歳の息子にも大好評でした。茶色がかっていることもあって「鶏のから揚げが入っている!」とはしゃいではしゃいで(笑)。
佐々木:たしか、あれは試作の段階では火を入れていなかった。「お子さんのために生ものを敬遠される親御さんもいらっしゃるから」と権さんにアドバイスを頂戴し、あの形に落ち着きました。それから、ちらし寿司にトッピングしている椎茸も、当初はどんこを使う予定でしたが、「お子さんが食べると固く感じられるかもしれない」と手を加えたんですよね。
今回の取り組みの陣頭指揮を執った〈東京𠮷兆〉の佐々木副料理長。子供向けに作られたたれを用いて調理したことで、「おいしい」と感じられる味には食べ手の年齢によって違いがあることに気づかされたという。
権:僭越ながら、いろいろなことを申し上げてしまいましたが、完成したお弁当を自分の子どもたちがうれしそうな顔で食べているのを見て、よかったなあと思いました。苦手な青菜まで残さなかったので、本当においしいものは子どもたちにも伝わるのだと実感しました。
岡田:そう言っていただけるとうれしいです。今までこれほどまで子どもを意識した料理を提案してこなかったので、〈東京𠮷兆〉としてもこれからを考えるきっかけになりました。
佐々木:本当にそうですね。メニューを考えるうえでも、子どもだから大人よりも料理の数を少なくするのではなく、一品一品の量は少ないけれど品数は一緒にするとか、いろいろなやり方が考えられると思いました。
岡田:今回の「富喜寄せ弁当」は、まさにその発想で作ったもの。
佐々木:ええ。料理人は食べてくれる人がいて初めて成り立つ職業だと、コロナ禍を経て感じています。この「富喜寄せ弁当」を通して、大人の方もお子さんも本物の日本料理に関心を持っていただけたら、〈東京𠮷兆〉の料理人としては本望。未来につながる食になってくれたらありがたいかぎりですね。
写真:和田裕也、福田喜一(商品)
スタイリング:chizu(商品)
文:甘利美緒
構成:神保亜紀子