樋口直哉さんの『料理のツボ』 〜ザワークラウトで発酵食品入門!〜

2021.5.1 UP

人気の発酵食品を自分で作って、料理にも使ってみませんか?料理家で作家の樋口直哉さんに、今月は初心者でも作りやすい発酵食品の作り方とその使い方を指南してもらいました。樋口さんのおすすめは、ザワークラウトです。

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ここ数年、レストランで流行しているのが「発酵」というテクニックです。素材から別の表情を引き出せるとして、世界中のシェフたちが取り組んでいます。とはいえ発酵自体は伝統的なもの。わたし達、日本人は醤油やみそといった発酵食品を日常的に食べていますし、欧米でもチーズやワインなどでお馴染みです。

 

発酵はもともと、保存を目的としたもの。例えば日本の醤油が発達したのは江戸時代の後期。農業生産が発達し、余剰の農産物を加工できるようになった、という背景があります。発酵食品の存在感が薄くなったのは、冷蔵庫が普及したことで、保存のために加工する習慣が失われたからでしょう。

 

発酵食品というと難しそうで、安全性など不安・・・という方もいますが、昔はごく普通につくられていたもの。前提となる知識さえあれば簡単です。今日は乳酸発酵の基本である「ザワークラウト」(キャベツの塩漬け)を家で作ってみましょう。ご家庭で余ったキャベツを仕込んでおけば数日後には楽しめます。

ザワークラウトの作り方

ザワークラウト(キャベツの塩漬け)

(材料)

キャベツ   1/2玉

塩       キャベツの重量の2%

水       100ml

塩       2g

 

(レシピ)

1 キャベツは芯を取り除き、1/4の大きさに切り、千切りにする。ボウルに入れて重量をはかり(今回は423g)、その2%の塩(キャベツの重量÷100×2)を手でもみこむ。

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2 瓶などに移し、上から強く抑えてなるべく空気を抜く。

 

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3 水100mlに塩2gを溶かし、2%の塩水をつくり、注ぎ、さらに空気を抜く。

 

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4 ビニール袋に水200mlを入れ、重しにする。蓋をゆるくしめ、常温で4〜5日(冬場なら1週間ほど)発酵させる。味見をして好みの酸味になれば冷蔵庫に保存する。

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乳酸発酵の基本

ザワークラウトはドイツの漬物。フランスではシュークルートと呼ばれ、北欧、東欧、ロシアやアメリカなど世界中で食べられています。ビタミンCを含んでいるので、長い航海における壊血病の予防食としても重宝されました。

 

発酵は不思議な現象です。例えば牛乳を放置しておけばすぐに腐ってしまいますが、乳酸菌を入れてヨーグルトにすれば悪くなりません。煮た大豆もそのまま放置すれば腐ってしまいますが、納豆菌をつければ保存が効きます。これは有益な菌が増えることで、有害な菌の増殖が抑えられるからです。ザワークラウトの場合は雑菌よりも先に乳酸菌を増やすことで、他の菌の増殖を抑えます。

 

有益な菌が増えると他にもいいことがあります。微生物がビタミンやアミノ酸などをつくるので、栄養価が高くなり、独特の風味も出るのです。つまり、余計な雑菌を増やさず、有益な菌を増やすことが発酵の目的となります。

 

発酵という単語を辞書で引くと「微生物が酸素の存在しない状態で、糖類を分解してエネルギーを得る過程。酒、みそ、醤油、チーズなどの製造に古来利用されてきた」とあります。この「酸素の存在しない状態」というのが重要です。日本人に馴染みの深いぬか漬けを毎日かき混ぜるのも、空気に触れている表面を内部に移動させ、嫌気的な環境をつくるためです。

 

発酵が失敗する原因はほとんど空気によるもの。ザワークラウトの場合はまずキャベツを塩で揉み、細胞を壊し、水分を引き出します。こうすると組織から空気が抜けますし、水によって嫌気的な環境をつくることができます。

 

キャベツから出る水分だけでも充分なのですが、今回はさらに安全策をとって塩水を足しています。塩水を足すとキャベツの風味が薄くなるというデメリットがあるので入れすぎには注意が必要。キャベツが持っている水分によっても差が出るので、加える水分はぎりぎり表面が出ないくらいの量に調整しましょう。

 

漬物につきものの重しも同様に空気を抜くための道具。今回は水(穴が空くこともあるので、その場合は入れる水も2%の塩水にしておくと安心です)を入れたビニール袋を重しにしています。水+ビニール袋であれば形が変わるので、しっかりと蓋をすることができます。

 

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この時、四隅から空気を抜くようにしましょう。ビニール袋の隙間に水が上がってくるので、空気が抜けることが目視で確認できます。発酵という調理法の基本は「微生物が活動するのに適した環境」をつくることです。手や道具はきれいに洗い、嫌気的な環境をつくりましょう。

 

発酵食品でよくある質問が「出来上がりの目安の判断は?」というもの。Phを計って、乳酸が増えたことを確認する方法もありますが、確実なのは「味見」をすることです。はじめはただの塩漬けキャベツの味が、徐々に酸味が出てきます。伝統的な作り方では24℃で14日〜18日、20℃であれば18日〜25日かけて発酵させますが、それより手前で食べるほうがおいしいですし、毎日変わる味も楽しめます。好みの味になったら冷蔵庫に保存すると、味を保てます。(ただ、乳酸菌のなかには低温耐性を持つ種類もあるので、冷蔵庫でも発酵は進みます)

ザワークラウトの食べ方

基本的な食べ方は「焼いたベーコンやソーセージに添える」というもの。ザワークラウトの酸味がよくあいます。

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発酵が進んでいない状態であれば一緒に煮込むのもオススメ。鍋にベーコンとザワークラウト、水を入れて火にかけ、顆粒のブイヨンで味を補い、塩と胡椒で味付けします。

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もうひとつのオススメはカレーに添えること。カレーにはらっきょうや福神漬といった酸味の効いた漬物がよくあいますが、ザワークラウトも抜群の相性です。

 

発酵食品は微生物という生き物の力を借りて、つくる味です。発酵が注目された背景には人工物に囲まれた都市の生活のなかで、少しでも自然を身近に感じたい、という点もありそうです。毎日変わっていく味を楽しみながら、目には見えない生き物の存在を感じてみてください。発酵食には味だけではない、つくる喜びがあるのです。

Text & Photo Naoya Higuchi

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