2021.6.15 UP
奥多摩山域に端を発する美しい渓流・日原川(にっぱらがわ)が、深い緑の山間を縫うように流れていく。ここが東京なのか、と目を疑うほど豊かな自然に囲まれた奥多摩町。そんな最高の環境を生かしたクラフトビールを醸造している〈VERTERE〉はJR青梅線の終着駅、奥多摩駅からわずか徒歩30秒のところにある。東京農業大学出身の同級生のふたりが古民家を改装してはじめた小さなブリュワリーには、常時10種類ほどのクラフトビールが揃う。
右:馬場 桂 伊勢丹新宿店 粋の座・和酒バイヤー ※2021年3月時点
左:辻野木景 VERTERE 醸造長
「奥多摩へはキャンプをしによく訪れていたんですが、ここで飲むビールがとても美味しくて。こういう気持ちの良い自然環境の中でビールが造れたらいいな、と思ったんです」と、醸造長の辻野木景さんがこの土地を選んだきっかけを話してくれた。設立以来大切にしているのは、「誰とどこでどうやって飲むか」という想いだ。小さなブリュワリーとはいえ、現在は500Lのタンク6機と1000Lのタンク4機、合計10機がフル稼働で醸造を行なっている。長らくは併設するビアカフェで楽しめるだけだったが、2019年10月より待望の缶製品のリリースがスタート。伊勢丹新宿店本館地下1階[粋の座・和酒]にも、この〈VERTERE〉の缶ビールがラインナップされている。
常時10種のビールを醸造。そのラインナップは1カ月ごとに変わっていくそうだ。
駅前の大通りから細い路地へ進む。緩やかに蛇行する路地を挟んでカフェと醸造所が佇む。
土日は生ビールを楽しめるカフェを営業。
タンクで出荷すれば生ビールも楽しめる。
発酵する過程で発生する二酸化炭素を排出して、タンク内部の圧力を下げる。加熱した麦汁を熱交換器を通して冷却し、発酵の適温度にしてから発酵タンクへ送る。
比重計を使って発酵具合をチェック。水と比較して重いか軽いかでアルコールの比重を測る。
「〈VERTERE〉さんのビールは飲みやすくて美味しいのはもちろんなんですが、缶のビジュアルやネーミングのセンスも素敵だな、と思っていたんです。この『マグノリア』もかっこいいですよね」と、[粋の座・和酒]バイヤーの馬場桂もファンのひとり。「パシフローラ」「シラー」「カシミロア」「アルピナム」……。それぞれの缶には、あまり聞きなれない呪文のような名前がつけられている。実はそこにも、〈VERTERE〉のビール造りへの熱い想いが込められている。
「ネーミングは、ラテン語の植物の学名から取っているんです。いまでは母国語として使われていない言語なので、感覚で手に取れると思うんですよね。僕たちは、デザイン、商品名、ビールスタイルに対して極力関連性を持たせていません。情報を減らすことで先入観なくビールを飲んでいただき、また、飲んだ時の印象をより強く感じてもらえたらな、と思っているんです」
原材料の保管庫。ベースモルト(右上)、香ばしく焙煎したスペシャリティモルト(下)。
モルトを細かく粉砕するためのミルマシン。レトロな機材が味わい深い。
そんな〈VERTERE〉のビールは、味わいも実に個性豊か。例えば、人気が高まっているIPAを飲み比べてみても、苦味を抑え果実味のアロマが香るジュースのような味わいのものや、甘くやわらかい舌触りと程よい苦味のなかに南国を思わせるフレーバーが余韻を引くもの、濃厚な飲み口で口の中で弾けるホップを感じさせるもの、などなど。一口にIPAと言っても、ホップの使用量に応じてダブルIPAからトリプルIPA、ニューイングランドIPAなど、ビアスタイルは細かく分かれるのだが、製造方法や小難しいうんちくは抜きにして、「ビールに詳しくない人でもとことん楽しめる一杯を」というのが〈VERTERE〉のスタイルだ。
1週間前に仕込んだ「ブラックIPA」。発酵具合を確認するためのサンプリング作業。
味の大枠が決まれば、同じ商品であってもレシピはあえて固定せず、マイナーチェンジを重ね、“進化”し続けているのだそう。「そういう意味では、これまで150種類くらいの味を作ってきているかもしれません」と、辻野さん。ファンのなかには同じ銘柄を飲み続け、季節や年度による微妙な変化を楽しむようなツウもいるのだとか。その味わいは、もちろん、飲んだ人それぞれの印象なのだが、五感をフル稼働させることで、飲んだ場所や一緒に飲んだ相手、季節や空気感と共に立体的に記憶に刻まれる。まずは先入観を抜きにして、お気に入りの1本と出合いに、伊勢丹新宿店本館地下1階[粋の座・和酒]クラフトビールコーナーへGO!
缶の蓋をしっかり閉めて美味しさをお届け。
定番のダブルIPA。苦みを抑えたジューシーな味わい。「マグノリア」 500ml 875円
※20歳未満の方の飲酒は法律で禁止されています。
※製造状況によって入荷時期が変更する場合がございます。
※2021年3月時点の情報です。
写真:太田隆生
取材・文:西野入智紗