2021.7.6 UP
〈ツオップ〉でシュトレンが最初に販売されたのは、約30年ほど前。井原伊原さんがドイツから帰国後、「本場から輸入しなくても日本で食べられるように」とシュトレンの販売を開始したところ、初めの年に売れたのはたったの3個だったそう。
「今も鮮明に覚えていますが、10個作って、7個残りました(笑)。その頃から比べると、10年ほど前から日本でも“シュトレン”の認知度は上がってきて、最近ではクリスマスまでの期間を愉しむアドベントカレンダーなども見かけるようになりましたね。夏用の“サマーシュトレン”が出始めたのは、4年くらい前からでしょうか」
〈ツオップ〉店主 伊原靖友さん
パン職人だった父の跡を継ぐ形で2000年、千葉県松戸市に〈ツオップ〉をオープン。行列絶えず、売り場8坪の小さなベーカリーながら1日6,000個以上のパンを販売。
〈ツオップ〉でも4年ほど前からサマーシュトレンを作るようになり、今夏は三越伊勢丹オンライン限定で販売される。
「サマーシュトレンを楽しみにしているお客様は年々増えていますね。クリスマススイーツはもともとキリスト降誕を待ち望むための食べ物なので、日本でもお祝いのイメージが定着して“少し贅沢なお菓子”として認知されてきたのがきっかけだと思います。この時季オンライン購入できるのも便利ですし、日持ちして手土産にもなるので、当店でもギフトボックス入りにしたり、外装を工夫するお店も増えました」
〈ツオップ〉のシュトレンは、しっとりとした口当たりと、口の中でホロホロとほどける食感がポイント。かわいらしい化粧箱入りなので、贈り物にもぴったり。
40名前後のスタッフが、毎日、約300種類のパンを焼成。通常、一つの生地から10種くらいのパンを作るお店も多いが、〈ツオップ〉では48種類もの生地を仕込んでいるそう。「効率化を求めるなら単一生地にすれば楽にはなるけれど、一つ一つパンの味が違うのだから生地もそれによって変えないと」と伊原さん。
シュトレンに限っていうと、日本では抹茶味やコーヒー味など独自で進化しているのも特徴といえるそう。
「ドイツでは材料の何は何%、何は何%と基本配合を守らないと「シュトレン」という名前をつけられないという厳格なルールがあるんです。例えば“シュトレン発祥の地”とされるドレスデンでは、資格を持った職人が分量や配合の厳しい基準を守って作ったもののみ「ドレスデン・シュトレン」と名乗ることができる。それゆえ日本独自の進化を遂げたとも言えますし、逆にいうとお客さまがどういう味を想像して“シュトレン”を買いにいらっしゃるかがわかりにくい商品なのですが、一つ言えることは、日本人はやはり“しっとり”が好きで、固くパサついたものは苦手ということ。
そこで、ドイツでは“クヴァルク”という乳脂肪のない軽い口当たりのフレッシュチーズを使うのですが、当店ではより“しっとり”感が増すように、脱水した濃縮ヨーグルトを使用しています。それにより最初からしっとり感が生まれるため、一般的な“寝かしてしっとりさせる”という工程を踏まず、購入後すぐに食べていただけるのも特徴だと思います」
「ツオップ」のシュトレンには、サルタナレーズン、クランベリーなどのドライフルーツに加え、カシューナッツやピスタチオクラッシュ、皮を刻んだオレンジピール、レモンピール、果皮を削りおろしたライムゼストとレモンゼストなどが入っており、豊かな味わいとともに、食感も愉しめる。
また、バターを多用するシュトレンを、暑い日にもさっぱりおいしく食べていただく工夫として、夏は柑橘類をふんだんに使うのもポイント。
「当店では今夏から、既存のレモンゼストに、皮を削りおろしたライムゼストも加え、よりすっきりと爽やかな味わいに仕上げています。レモンをたくさん入れると酸っぱさと同時に甘みも感じるようになるため、ライムで爽やかさの方向性をプラスしました。柑橘がたくさん入ったことで、香りもポイントになっているので、少し酸味のあるタイプなど、キリッと冷やした白ワインとも相性抜群です。今年の夏は、こういったハレの気持ちになれるお菓子をゆっくり愉しんでもらえたら嬉しいですね」
ドイツ語で“Backstube=パン焼き小屋”という意味を店名に冠する〈バックシュトゥーベ ツオップ〉。二階にはカフェも併設。
〈ツオップ〉サマーシュトーレン(約縦13.4×横9×高さ7.7㎝/1個)3,240円 150点限り
仕込みに脱水した濃縮ヨーグルトを使うことでしっとり滑らかさが増し、爽やかな味わい。クリスマススイーツは、一日ずつ“薄く、薄く”カットして食べるものとされているが、「シュトレンはナッツ類も入っていてボロボロになりがちなので、そんなに薄く切らなくても口溶けは悪くならないはず」と伊原さん。
※WEB販売期間:~7月21日(水)
※三越伊勢丹オンライン限定
写真:福田喜一
取材・文:藤井存希(FOODIE編集部)