2021.08.20 UP
焼肉は夏に食べたい料理の代表格。パーッと外食で食べるのもいいですが、時節柄お家で楽しみたいところ。焼肉屋さんは「最終的な調理をお客さんに委ねる」という特殊な業態。それはつまり「それ以前の準備で味が決まる」ことを示しています。
焼肉屋さんの技術は「肉の仕入れ」と「肉のカット」です。仕入れは長年の業者との信頼関係がものをいう世界。仕入れた極上の肉から余分な部分を取り除き──肉を「磨く」といいます──線維を見極めながらカットする技術は素人が真似できるものではありません。
しかし、逆に言えばいいお肉屋さんで焼肉用に切ってもらった肉を使えば家でおいしい焼肉を作ることは十分可能ということ。今回は伊勢丹新宿店地下食品売り場の<アイズミ―トセレクション>で調達した肉で最高の家焼き肉を作ります。
(材料) 2人前
黒毛和牛 カルビ 100g
黒毛和牛 もも肉 100g (今回はトモサンカクを使用)
黒毛和牛 ショウチョウ 100g
黒毛和牛 レバー 100g
<アイズミートセレクション>国内産黒毛和牛 トモサンカク焼肉用(モモ)(100g)あたり 1,480円
【左】<アイズミートセレクション>国内産黒毛和牛 レバー焼肉用(100gあたり) 540円
※毎週金曜日入荷。時期により入荷がない場合がございます。
【右】<アイズミートセレクション>国産黒毛和牛 ショウチョウ焼肉用(100gあたり) 540円
※毎週木曜日入荷。時期により入荷がない場合がございます。
国内産黒毛和牛 バラ焼肉用(100g)あたり 1,512円
【焼き肉のタレ】(かけだれ、つけだれ共通)
しょう油 大さじ4
砂糖 大さじ2
酒 大さじ1
みりん 大さじ1
りんごジュース 大さじ2
にんにく 小さじ1/4 (すりおろし)
玉ねぎ 1/4個(すりおろす)
【もみダレ】(肉100gあたり)
ごま油 大さじ1
にんにく 小さじ1/4〜1/2(すりおろし)
塩 小さじ1/4
胡椒 適量
青ネギ 大さじ1(小口切り)
すりごま 小さじ1
野菜 玉ねぎ にんじんなど
コチジャン 好みで
(手順)
1 焼き肉のタレを作る。小鍋にしょう油、砂糖、酒、みりん、りんごジュース、にんにくと玉ねぎのすりおろしを入れ、ひと煮立ちさせる。火を止めて、そのまま冷ます。
2 ボウルにもみダレの材料(ごま油、にんにくすりおろし、塩、胡椒、青ネギ、すりごま)を混ぜ、レバー、ショウチョウをそれぞれ和える。カルビともも肉には大さじ1ずつ1のタレをかける。
3 焼きながらそれぞれ食べる。好みでつけダレにコチジャンを加えてもよい
焼き肉はシンプルに肉を焼いて食べる料理です。そこには肉をおいしくたべるための科学が詰まっています。
そもそも、なぜ肉は焼くとおいしいのでしょうか。肉を高温で熱すると、いわゆる「肉らしい香り」が出てきます。この香りは生肉にはないもので、いかにも食欲をそそる匂いです。
次に馬刺しを思い浮かべるとわかりやすいのですが、生肉の歯切れはあまりよくありません。一方、肉を熱するとタンパク質が固まりはじめ、歯切れがよく、ジューシーになります。
肉らしい香りを出すために、表面は高温で焼く必要がありますが、一方肉は焼きすぎると固くなります。肉のタンパク質が固まりはじめる温度はおよそ50℃。55℃から弾力が出てきますが、60℃から収縮がはじまります。タンパク質が縮むとなかの水分が押し出されるので、徐々にジューシーさは失われていくので、中心温度は60℃くらいで加熱を止める必要があります。
一方、ステーキのような分厚い肉であれば表面にしっかりと焦げ目をつけつつ、なかの温度を55℃〜60℃までに収めることができますが、焼き肉のような薄切り肉の場合は焦げ目がつく前に内部温度が上がりすぎてしまいます。
そこで焼き肉の場合は醤油や砂糖などが入った「たれ」をつけて焼くのです。たれのような糖類と一緒に加熱すると、焦げ目が早く付くので、火が通りすぎる心配もなく、ジューシーに焼き上がるというわけ。
お家焼き肉の極意は大きく2つ「いい肉を買ってくること」と「焼きすぎないこと」です。
このところ脂肪交雑、いわゆるサシが入った霜降り肉は敬遠されがちですが、焼き肉には最適。というのも肉のタンパク質が収縮しても、脂肪は溶けるだけなので、肉がやわらかく、ジューシーだからです。タレに加えたりんごの酸味が後味をさっぱりさせますし、薄切りなので焼いているうちに適度に脂肪が落ちるので、くどく感じないはずです。白いご飯やビールと最高の相性。
家、焼き肉で注意すべきは衛生面です。盛り付ける時はレバーやショウチョウといった内臓肉と生肉は別の皿に盛り付けるようにして、内臓肉は中心部までしっかりと加熱しましょう。衛生的な問題もありますが、それよりも内臓系はちゃんと加熱した方がおいしく食べることができます。
忘れがちですが焼くときに使うトングや箸と食べる箸は別のものを使いましょう。簡単なことですが、これだけで食中毒の危険性を大幅に下げることができます。
今回はカセットコンロの上に置くタイプの焼き肉プレートを使っていますが、ホットプレートで焼く場合は火力が足りず、焼肉店のような美味しさが出ない、と思っている方も多いでしょう。しかし、最近のホットプレートは200℃まで上がるので、ちょっとした工夫で焼肉店のおいしさに近づけます。
それは「肉を動かしながら焼く」というもの。
肉を置いたところの表面温度は下がるので、肉をトングで動かしながら、温度の低下を抑えつつ、均等に焦げ目をつけていきます。また、プレートの上に肉から落ちた脂とタレの焦げが残って、味を損ねるので、キッチンペーパーなどでこまめに拭くだけでも、家焼き肉のおいしさは格段に上がります。
焼く温度は「油はね」と「匂い」にも関係してきます。家で焼き肉をすると油はねと匂いが気になりますが、プレートの表面温度が220℃を超すと、肉の脂が霧状になって空気中に漂い、それが汚れの原因となったり、匂いとして残ったりします。
解決策はプレートの表面温度を180℃〜200℃に保つこと。ホットプレートの場合は自動で調整してくれますが、カセットコンロの場合は火加減に注意し、あまり強すぎない火で料理しましょう。強火でなくてもタレをつけた肉には充分な焦げ目がつくはずです。
また、部屋全体の空気を換気するためには肉を焼く10分前には換気扇を回し、対角線上の窓を少し開けておくだけでもだいぶ違います。注意をしてもある程度は仕方がないですが、ホットプレートの下に新聞紙を敷くなど、とれる対策はしておくのが懸命。前知識を頭に入れておいてから家焼肉を楽しみましょう。ちなみにこの焼肉のタレは結構自信作です。ぜひ、お試しください。
Text & Photo :Naoya Higuchi