2021.09.27 UP
(左)丸政 取締役 生産管理 部長・櫻井剛敏、(右)伊勢丹新宿店 旨の膳バイヤー・久保田浩之。
駅弁を極めて100有余年。お弁当作りのプロが挑む、食文化の新境地。
中央線小淵沢駅の目と鼻の先。駅を見守るように工場を構える〈丸政〉は、大正7年(1918年)の創業。山梨県を中心に〝中央本線小淵沢ふもとの駅弁丸政〟と謳われるほどその歴史は古い。
清水で知られる小淵沢。近くに大滝湧水も。
小淵沢駅と小諸駅を結ぶ小海線。小淵沢駅を出るとすぐに名物「大曲り」がある。
中央本線富士見駅の構内の立売業者として発足し、小海線の開通に先立って1929年、現在の小淵沢駅近くに工場を移転。駅弁では珍しい生野菜を使った「高原野菜とカツの弁当」(1970年)や、テレビ番組『愛川欽也の探検レストラン』の企画により誕生した、京都と江戸の料亭の味が詰め込まれた豪華な二重の折弁当「元気甲斐」(1985年)、プリプリの海老天を木耳ごはんで包んだ一口サイズの「そば屋の天むす」(2013年)など、主力駅弁が目白押し。そして2020年には、伊勢丹新宿店本館地下1階に常設店舗として入店し、新ブランド「丸政商會」を立ち上げている。それらのお惣菜を手作りし、手詰めしているのが、ここ小淵沢の工場だ。
中央本線と小海線が乗り入れる小淵沢駅。1階には直売店〈MASAICHI〉もある。
小淵沢駅の売店には〈丸政〉の駅弁が集結。
駅の改札を出てすぐにある〈丸政そば〉。そばはちょっと歯ごたえのある乱切り太麺。
「〈丸政〉さんとは、駅弁の催事やフードコレクション(食品催物場)などを通じて15年来のおつきあいですが、名取政義社長のおいしさへのこだわり、食文化への貢献という理念にとても共感しています。おいしさの追求、日本の食文化の発信というのは私たちが掲げるミッションの一つであり、大切にしているフィロソフィーでもあります。駅弁という枠を超えて、地域の食文化を伝えるプレイヤーとして共に成長できるよきパートナーです」と、〈旨の膳〉バイヤー・久保田浩之の想いも熱い。
歴史を刻んだ建物は、掃除も行き届く。厨房内は油汚れもなくステンレスもピカピカ。
そしてこのたび、〈丸政〉との新たな試みとしてオンリー・エムアイで冷凍弁当5種セットを販売する。「最新の冷凍技術がなければ、伊勢丹への出店は叶わなかったと思います」と、名取社長が話すように、〈丸政〉では数年前に最新の冷凍・解凍機を導入している。「冷凍食品」と聞くと、いまだにあまり良いイメージが持たれていないかもしれないが、最新の冷凍技術は驚くほど進化しており、「冷凍食品のイメージが一変する」、「作りたてと食べ比べても、どちらが冷凍かわからない」といわれるほど、鮮度や食感、食材本来の味わいがキープされている。
国内外を食べ歩き、おいしいものには目がないという4代目社長の名取政義さん。
「作りたてのおいしさを瞬時に止めるので、例えば作ってから時間が経ったお惣菜よりおいしい、なんてこともある。冷凍することで安心・安全に東京へお弁当を届けることもできますし、売れ残って破棄されることもないのでフードロスへの対策にもつながると考えています」と、名取社長。一方で、老舗の弁当店ゆえの思わぬ壁にぶつかったことも。
「元来駅弁屋ですので、追求してきたのはできたてのおいしさではなく、〝冷めてもおいしい〟というお弁当としてのおいしさです。ですからそのまま冷凍・解凍するだけでは、我々が目指すおいしさとはズレてしまう。解凍したときにおいしいお弁当にするには、これまでと同じ味付けや水分量ではダメなんですよね。揚げ物を冷凍すると食感が損なわれてしまったり、逆に魚の煮付けは冷凍との相性がよかったり、お米は冷凍したほうが甘みが強く感じられることなどもわかってきました。冷凍技術の革新により、我々弁当屋だからできる新たな商品開発や、冷凍弁当ならではの可能性に、ワクワクしっぱなしです。食材は、調理したあとも生き続けているのだと、日々実感しています」
あまごはたっぷりのレーズンと共に甘辛く煮付ける。
名物駅弁の一つ「元気甲斐」は豪華な2段重ね。栗おこわ、くるみごはんの折に、合わせて20種類ものお惣菜が。
しっとりが魅力の天むすだけど、揚げたての海老天もカリッと香ばしくおいしそう。
お惣菜は一つ一つすべて手作り。流れ作業で、経木の折に丁寧に手詰めされていく。
「とにかく試行錯誤です。名取は常においしいものを探すアイデアマンです」と、生産管理部長・櫻井剛敏さん。新作の発想も尽きないのでは?
「冷凍技術によって弁当では叶わない炭火焼や高級肉も取り入れたいですね」と、名取社長はニヤリ。
かつては列車旅の特権だった駅弁も、今やデパ地下で出会える時代。伊勢丹新宿店本館地下1階の〈丸政〉には今日もおいしいお弁当が並ぶ。
〈丸政〉MI限定冷凍弁当5種セット 5,801円
【WEB/冷凍便】
写真: 太田隆生
取材・文:西野入智紗