2021.11.03 UP
新春を寿ぐ清々しい空気の中、宮中では「歌会始(うたかいはじめ)」が催されます。「歌会始」は天皇皇后両陛下を筆頭に、皇族、国民の詠進歌、2万首あまりから選抜された和歌が披露される文化行事です。そしてこの「歌会始」の御題をテーマに創作された和菓子が「御題菓子(おだいがし)」または「御題菓(おだいか)」と呼ばれ、多くの和菓子店が渾身の力を込めて創作します。
例年お正月に開催されてきた「歌会始」も、2021年はコロナ渦により3月まで持ち越されました。2022年は穏やかな日常が回帰し、「御題菓子」と共に迎春をお祝いしたいものです。少し早いですが、2022年の「御題菓子」をご紹介いたしましょう。
雅な響きのある「歌会」ですが、人々が集まり共通のお題で短歌を詠むというもので、奈良時代には始まっていたようです。その年最初に催される歌会を「歌会始(うたかいはじめ)」といい、鎌倉時代の中頃には文献に記載が見られ、江戸時代はほぼ毎年催されていました。明治7年(1874年)には、それまでのように皇族・貴顕(きけん)・側近といった方だけでなく、一般国民も参加が認められ、歌を詠進(えいしん)することのできる貴重な年中行事となりました。
連綿と続いてきた、この美しい日本の伝統文化に和菓子の世界も共鳴し、明治21年(1888年)京都の上菓子屋が集まり「歌開始」の御題をもとに菓子を創作したところから「御題菓子」の風習が広まりました。
御題は、その年の「歌会始」の終わりに翌年のテーマが発表されるため、和菓子職人はそこから1年近い時間をかけて「御題菓子」を準備するのです。2022年の御題は「窓」。内から、外へとつながるイメージを持つ言葉です。各店それぞれの解釈を紐解きながら、「御題菓子」をご紹介致します。
<とらや>
御題羊羹 光さす (1本)3,888円
販売期間:2021年11月20日(土)~2022年1月中旬(なくなり次第終了)
伊勢丹新宿店本館地下1階 茶の道
夜が明け、少しずつ明るくなっていく窓辺の様子を白道明寺羹(a)で、部屋に差し込む朝の光を薄紅色(b)と薄黄色(c)の煉羊羹で表しました。うららかな朝の窓辺を思い起こさせます。
<両口屋是清>
御題菓 窓の梅 (半棹)972円
販売期間:2021年12月上旬~2022年1月上旬
伊勢丹新宿店本館地下1階 茶の道
「窓は外の風景を切り取った、1つの景色でもあります。木々の枝を窓枠に見立て隙間から見える新春の古都に、雅に咲く梅の花の風情を表現しました」。金粉(a)は、光さす古都の雅びさを、表面に描かれた波の紋様と梅の押し印は、梅の香り届けられる様、動きを捉えた意匠となっています。朱色、桃色、白、黄緑、橙色の村雨生地の重なり(b)が、新春の華やかさを表現。ほろほろとした口溶けの村雨生地が挟むのは、しっとりとした栗入りの小豆粒餡(c)です。
<鈴懸>
御題菓子「窓」 (1個)400円
販売期間:2021年12月25日〜2022年1月3日(予定)
伊勢丹新宿店本館地下1階 甘の味
「平で真白い薯蕷生地(a)は外と内の境となる窓です。生地とあんの間に紅色の梅(b)と黄色の柚子(c)の羊羹を包み蒸しあげる『すかしの技法』で窓の内側の灯、外側の陽だまりがやさしく浮かぶ様子、其々に存在する温もりや暖かさを表現しました」。山芋がふわりと香る薯蕷饅頭の中餡にはさらりとしたこしあんが包まれた上品な味わいです。
<老松>
北窓開く (1個)2,160円
販売期間:2021年12月1日〜2022年1月上旬(無くなり次第終了)
伊勢丹新宿店本館地下1階 甘の味/茶席菓子
表面の金箔(a)は、新春の祝賀とともに、窓の外の輝く世界を象徴しています。上段、白小豆の紅色の練羊羹(b)は春の陽気を、下段、緑色の練羊羹(c)には、丹波大納言鹿の子(d)と割れ栗(e)を散らし、春の芽吹きや生き物の躍動感を表現しています。もちろん色味や食感のアクセントにもなっています。二層の色を重ねで表現された華やかな練り羊羹は、吉事の贈り物にも好適です。
意匠を紐解くことで、「お題菓子」を食す楽しみが増えますように。
Text: Yukako Yasuda