2021.12.03 UP
全国一の取扱高を誇る、品川の東京都中央卸売市場食肉市場。「どんな工程を経て、〝ブランド牛〟が我々の元に届くのか自分の目で確かめるために、私も何度か足を運んでいます」と語るのはフレッシュマーケット アシスタントスーパーバイザーの寺島朝輝。この日は、肉の仲卸として88年、精肉ショップとして伊勢丹新宿店に出店して10年の〈小島商店〉の小島康成さんと、〈日山畜産〉の村上聖さんを訪ねた。〈小島商店〉が東京市場で競り落とした肉の加工を〈日山畜産〉が手がけているのだ。同社はこの東京市場内に加工場を構える、その道100年以上の老舗だ。
ともに上質なプレミアムビーフを主に扱い、中でも雌牛を得意とする。「確かな目利きと繊細な技術が必要とされる雌の牛さんの加工をお願いできるのは、うちとポリシーが近いからなんです」と小島さん。セリではそれぞれが自社のために枝肉を競り落とす。現場では、まず格付員が枝肉の断面を見て等級を付け、そこからセリ人がそれぞれの目にかなったものを応札していく流れだ。〈小島商店〉が買い付けの基準として大事にしているのは、味が良い肉かどうか。
同じ銘柄であってもひとつひとつ形も重さも異なる枝肉。格付員が等級を決め、枝肉の表に結果を刻印する。さらにそれを競り落とした会社名が書き入れられる。
「どこを見て判断しているかは企業秘密ではあるのですが、体つきや肉付きを見ればだいたいわかります。あとは農家さんがどういう方針で牛さんを育てているか、その考えを聞くことも大切ですね」と小島さん。「ライトを当ててサシのまわり方や色を見ています」と言う〈日山畜産〉の村上さんももちろん目利きだ。好みが似ているだけあって「セリで競合していることもあるかもしれないね」と笑い合う2人。
ライトを当てて、枝肉の状態を入念にチェックしていく村上さん。
そうして買い付けられた肉は、枝肉庫と呼ばれる冷蔵庫へと運ばれる。お客さまの要望に応じてすぐに加工されるものもあれば、ここで時間をかけて熟成されるものもある。枝肉庫から加工場へと枝肉を移して、いざ、加工へ。〈小島商店〉の「カット指示書」でトリミングする脂や厚みがミリ単位で記載されており、この指示に沿って〈日山畜産〉が正確な保存や加工を施す。この連携が、おいしさの秘訣である。
¼にカットされてもなお巨大な枝肉から骨を抜き、脂をトリミングしていく職人の鮮やかな手捌きに「個性の違う枝肉を、スピーディーに美しくカットしていく様子に思わず見入ってしまいました」と寺島も惚れ惚れ。村上さん曰く、「うちや〈小島商店〉が扱っているような肥育年数の長い雌牛は、筋肉やそれを取り囲む筋膜が柔らかくやぶれやすいデリケートな肉質です。傷がついてしまうと見た目も美しくないですし、空気に触れて劣化もしやすくなるので、的確に素早く加工するのが大切。そのためには経験による目利きと技術が欠かせません」。〈日山畜産〉で一人前と呼ばれる加工技術を身につけるには、5年ほどの修業がいるのだとも教えてくれた。
「カットされたお肉の断面を見てください」と小島さん。ベルベットのような深い小豆色に、繊細なサシが走っている。
美しい小豆色とキメの細かいサシは上質な肉である証拠である。
「肉色を鮮やかにするために、牛さんに負担がかかる不自然な肥育をされることがありますが、そのようにせずに育てられた牛さんの肉は、朱色にならずにこのように美しい小豆色になります。赤身が詰まっていて、水玉のようにサシが入っていると脂っこく感じない。
〈小島商店〉のモットーは〝牛と共に〟。牛さんが健康的に生きられる飼育方法で時間をかけて育てることが、おいしい牛肉を作るのに重要なんです」
部位ごとにカットされた肉のほかに、骨を抜かずにそのまま出荷されようとする大きな塊が目に入った。「布を被せて熟成をさせています。〈小島商店〉のお客さま自らが整形
されるそう。上質な肉を提供し続けているからこそのオーダーですよね」と村上さん。お互いをリスペクトする信頼関係もおいしさの礎だ。
壁にずらりと掛かるのは銘柄を識別するための番号札。
個体の取り違えを防ぐため、番号札を使い枝肉から加工まで管理を徹底している。
肉の加工を自店で行う顧客に向けて大きな塊の状態で出荷する。同時に熟成も進む。
キメの細やかなサシが入った上質なもも肉。丁寧にカットをして美しい状態に仕上げる。
加工を終え、真空パックされた状態で出荷を待つ肉が並ぶ冷蔵庫。端正な姿は圧巻だ。
写真:太田隆生
取材・文:平井莉生