おせちの基本「祝肴3種」は自分で作れる!樋口直哉さんの『料理のツボ』 

2021.12.11 UP

毎年のおせち選びが恒例となった昨今ですが、買ったおせちに加えて、いくつかは自作して新しい年を迎えたい。そんな時、おせち料理のどれを作ったら良いのでしょうか?「この三つが揃えばおせちの形を成す」とされる祝い肴の3種を樋口流でチャレンジしてみましょう!

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もう、いくつ寝ると……一年が経つのは早いもので、もうすぐお正月。あたらしい年のはじまりです。

 

お正月に欠かせないのが「おせち」。もともと、お正月は来客が多いことから、作り置きできる料理として成立していったのが、おせち料理です。今は豪華絢爛なおせち料理が売られていますが、華やかになったのは最近のこと。もともと重詰に入っていたのは数の子、田作り、たたき牛蒡、黒豆といったところで、幕末の江戸の風俗を記録した「絵本江戸風俗伝来」にも「重箱の品は田作、数の子、座禅豆(黒豆のこと)の3重なり」とあります。

 

つまり、田作り、数の子、黒豆の3つがおせち料理に欠かせない祝い肴です。関西では数の子が外れ、たたき牛蒡が上げられますが、とりあえずこの3種類を作り、あとはお雑煮を食べればお正月はOK。というわけで今日は「祝い肴3種類」の作り方をご紹介します。

 

とはいえ、それだけでは寂しいのでおせちの定番「炒り鶏」の作り方もあわせてご紹介します。というのも炒り鶏は買ってくるより自分で作ったほうが断然おいしいからです。その理由はのちほど。

黒豆は、赤ワインで色艶よく炊く。

伝統的な黒豆の作り方は「重曹を加えた水などに豆をつけて吸水させ、そのままつけた水(つけ水)でやわらかく煮てから煮汁を捨て、もう一度新しい水で煮直して、豆が十分やわらかくなったら砂糖を入れて煮上げる」というもの。この方法のメリットは古い黒豆でも重曹の力でやわらかく炊けることです。

 

もうひとつの定番は「熱くした調味料(と錆びた釘)を加えて黒豆を戻し、そのまま長時間(8時間)炊き上げる」といもの。こちらは料理研究家の土井勝氏が確立した方法で、釘を入れると鉄分で黒豆の色素が安定し、色が黒く仕上がり、また、はじめに薄い糖濃度で加熱をはじめ、加熱するに従って徐々に糖分を上げていくことで、豆の皮を破けたり、シワが入ったりしないのです。この方法のデメリットは加熱時間がかかること。つけ汁に砂糖を入れることで若干硬めになるので、その分加熱時間を伸ばして、やわらかくする必要があるからです。

 

いずれにせよ、どちらの方法でも求めているのは「皮が破けたり、荷崩れるのを防ぎつつ炊く」ということ。また、どちらも砂糖がたくさん入って甘いのが特徴です。おせち料理に砂糖をたくさん使うのは甘みがぜいたくだった時代の名残でしょう。

 

砂糖をたくさん使った味付けは現代的ではないのも事実。そこで考えたのが今回のレシピです。砂糖をぐっと控えて、黒豆を赤ワインで炊くのです。もともとサビ釘を入れずに炊いた黒豆を「葡萄煮」と呼びますが、今回のレシピではアントシアニン系の色素を持つ赤ワイン=葡萄酒で風味と酸味をつけます。この方法のメリットは皮が破けても気にならなくなること。

 

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(材料)作りやすい分量

黒豆 100g

水  600ml

砂糖  20g

赤ワイン  200ml

砂糖   40g

 

(作り方)

1     黒豆はザルを使い流水で洗い、砂糖20gを溶かした水600mlで一晩戻す。

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2     鍋に移し、強火にかける。沸騰してくると泡が浮いてくるので、お玉やアク取り網などですくって捨てる。蓋をずらした状態でごく弱火で45分間煮る。

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3     赤ワイン200mlを加え、さらに15分煮る。ここで硬さをチェック。やわらかくなっていれば砂糖40gを加え、火を止めて甘みを馴染ませる。冷蔵庫で一晩経った頃が食べ頃。冷蔵庫で5〜6日は保存できるが、長期間保存する場合は冷凍庫で。

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黒豆調理法のアプローチについて

豆類を料理する際の基本は「ゆっくりと加熱すること」です。例えば沸点では早く調理できますが、ぐつぐつ煮ると皮が破れて崩れてしまいます。弱火でゆっくりと気長に煮るのがコツ。

 

黒豆の料理法には様々なアプローチがあります。例えば塩を加えた水で戻し、そのまま加熱すると調理時間は短くできます。細胞壁=ペクチンのカルシウムやマグネシウムイオンがナトリウムに置き換わり、ペクチンが溶けやすくなるから、と考えられますが、黒豆の場合は早く煮上がると中身が膨張し、皮が破けてしまうリスクもあります。重曹を入れても早くやわらかくなります。重曹はナトリウムを含むうえに、アルカリ性なので、ペクチンやヘミセルロースが溶けやすくなるからです。一方重曹には「まずい」という弱点があります。

 

反対に豆を硬くするのは「酸、糖、カルシウム」です。ここでは薄い砂糖水に漬けることで皮がはじけるのを防ぎつつ、しっかりと吸水させ加熱時間を短くしています。逆に豆がやわらかくなってきたら赤ワイン=酸を加えることで、煮崩れるのを防ぐというアプローチをとっています。赤ワインの酸味が加わると甘酸っぱい風味になるので、現代的なおいしさが出せますし、ワインなどとの相性もよくなります。余った黒豆はアイスクリームに添えたり、ヨーグルトとあわせるのもおすすめです。

樋口家「田作り」のレシピ公開!

豆類を料理する際の基本は「ゆっくりと加熱すること」です。例えば沸点では早く調理できますが、ぐつぐつ煮ると皮が破れて崩れてしまいます。弱火でゆっくりと気長に煮るのがコツ。

 

黒豆の料理法には様々なアプローチがあります。例えば塩を加えた水で戻し、そのまま加熱すると調理時間は短くできます。細胞壁=ペクチンのカルシウムやマグネシウムイオンがナトリウムに置き換わり、ペクチンが溶けやすくなるから、と考えられますが、黒豆の場合は早く煮上がると中身が膨張し、皮が破けてしまうリスクもあります。重曹を入れても早くやわらかくなります。重曹はナトリウムを含むうえに、アルカリ性なので、ペクチンやヘミセルロースが溶けやすくなるからです。一方重曹には「まずい」という弱点があります。

 

反対に豆を硬くするのは「酸、糖、カルシウム」です。ここでは薄い砂糖水に漬けることで皮がはじけるのを防ぎつつ、しっかりと吸水させ加熱時間を短くしています。逆に豆がやわらかくなってきたら赤ワイン=酸を加えることで、煮崩れるのを防ぐというアプローチをとっています。赤ワインの酸味が加わると甘酸っぱい風味になるので、現代的なおいしさが出せますし、ワインなどとの相性もよくなります。余った黒豆はアイスクリームに添えたり、ヨーグルトとあわせるのもおすすめです。

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(材料)

田作り   20g

醤油    小さじ1/2

七味唐辛子 少々

 

(作り方)

1     フッ素樹脂加工のフライパンに田作りを入れ、中火にかける。かき混ぜながら熱して、香ばしい香りがしてきたら火を止め、醤油小さじ1/2を加え、全体を混ぜる。

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2     バットなどに移し、冷ます。七味唐辛子を少量振り、香りをつける。

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田作りカタクチイワシの稚魚ですが、田作りと煮干しの違いはご存知でしょうか?煮干しは名前の通り、魚(主にカタクチイワシ)を煮てから干したものですが、田作りはそのまま素干しにしたものです。見分けるポイントは目の色。目が黒いのが田作りで、白くいものが煮干しです。生の魚を干したものなので、炒らないと食べられません。

 

昔、田作りを炒るときはフライパンに懐紙を敷き、その上でゆっくりと加熱したものでした。しかし、それは鉄のフライパンの時代の話。フッ素樹脂加工のフライパンであればフライパンの表面に馴染んでいる油が移る心配はないので、そのまま炒って大丈夫です。

 

一般的な田作りは炒ってから醤油、砂糖などで作ったたれを絡めたもの。やはり砂糖が贅沢品だった時代の名残なので、ここでは醤油だけで軽い味付けにしています。これは我が家の田作りの作り方。これを作るたびに父が台所で田作りを炒っていた光景を思い出します。

 

子持ち昆布のコツは、塩抜きの仕方。

もう、いくつ寝ると……一年が経つのは早いもので、もうすぐお正月。あたらしい年のはじまりです。

 

お正月に欠かせないのが「おせち」。もともと、お正月は来客が多いことから、作り置きできる料理として成立していったのが、おせち料理です。今は豪華絢爛なおせち料理が売られていますが、華やかになったのは最近のこと。もともと重詰に入っていたのは数の子、田作り、たたき牛蒡、黒豆といったところで、幕末の江戸の風俗を記録した「絵本江戸風俗伝来」にも「重箱の品は田作、数の子、座禅豆(黒豆のこと)の3重なり」とあります。

 

つまり、田作り、数の子、黒豆の3つがおせち料理に欠かせない祝い肴です。関西では数の子が外れ、たたき牛蒡が上げられますが、とりあえずこの3種類を作り、あとはお雑煮を食べればお正月はOK。というわけで今日は「祝い肴3種類」の作り方をご紹介します。

 

とはいえ、それだけでは寂しいのでおせちの定番「炒り鶏」の作り方もあわせてご紹介します。というのも炒り鶏は買ってくるより自分で作ったほうが断然おいしいからです。その理由はのちほど。

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(材料)

子持ち昆布 180g

糸カツオ   3〜4g

醤油     小さじ1

 

(作り方)

1     子持ち昆布はたっぷりの水に20〜30分漬け、塩抜きをする。ボウルが小さい場合は途中で一度水を捨て、新しい水を足すとよい。端を切って食べてみて、塩加減を確認する。

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2     適当な長さに切ってから7〜8mm幅に切る。キッチンペーパーでしっかりと水気を拭き取り、ボウルに入れ、糸カツオと醤油で和える。

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子持ち昆布は数の子をと昆布をあわせたもの。名前の通りの縁起物で、関西でとくに珍重されます。数の子でもいいのですが、子持ち昆布には昆布のうま味があるので、上手に塩抜きするだけでおいしく食べられます。

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伊勢丹新宿店地下1階食料品売場にある魚勢には味付けされた子持ち昆布が売られていたので、それと糸カツオをあわせるだけでもOKでしょう。

 

子持ち昆布のコツは数の子とまったく同じで“塩抜き”です。,多くの料理本では数の子の塩抜きに塩を用いることを薦めていますが、その理由は「塩を抜きすぎない」ためです。塩を抜きすぎると一緒にうまみ成分であるアミノ酸まで抜けてしまいますし、苦味も出てきます。苦味が出てくる理由としてプロテアーゼが働き、苦味成分である疎水性のアミノ酸まで増える、というのが挙げられます。また、塩味には苦味を抑える効果もあるので、やはり塩を抜きすぎると苦くなりがちです。

 

コツは様子を見ながら水の量を加減すること。外側の塩分濃度よりも塩気は薄くならないので、20分ほど経ったら塩気を確認し、濃ければ少しずつ水を足し、30分を目安に塩抜きをしてみましょう。今回はかんたんに醤油と鰹節で和えていますが、もちろん薄口醤油で味付けしただし汁に漬け、調味してもかまいません。また、子持ち昆布にはマヨネーズもあうので、お子さんがいる家庭などはマヨネーズで和えるのもいいでしょう。

 

買うより作ったほうが断然美味な、炒り鶏。

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(材料)

鶏もも肉 200g

サラダ油  大さじ1

こんにゃく 150g

ごぼう   100g

にんじん  150g

れんこん  200g

干ししいたけ  4枚

しいたけ出汁 200ml

酒     100ml

砂糖    大さじ4

醤油    大さじ3

 

(作り方)

1      干し椎茸は1カップの水を加え冷蔵庫で一晩置き、戻しておく。

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2  鶏もも肉は3.5cm角に切り、こんにゃくはスプーンなどで一口大にする。にんじんはピーラーで皮を剥き、乱切りにする。ごぼうは包丁の背などで皮を剥き、乱切りにし、れんこんもピーラーで皮を剥き、4等分にしてから斜めに切り、それぞれ水にさらす。

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3  フライパンにサラダ油をしき、鶏もも肉を皮目から焼く。焦げ目がついたら裏返し、その他の材料を加えてざっくり混ぜる。

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4  酒、しいたけ出汁(1の戻し汁に水を足して1カップにする)、砂糖を加えて蓋をして、5分煮る。

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5  蓋をとり、醤油を加え、キッチンペーパーやアルミホイルで落し蓋をして、10分間中火で煮る。水分が少なくなってきたら出来上がり。

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炒り鶏もまた正月料理に欠かせない定番。買ってくることもできますが、自分で作る価値がある料理です。おせち料理は製造オペレーションの都合で冷凍することも多いですが、こんにゃくは冷凍に適していませんし、根菜は冷凍するとやわらかくなりがち。かんたんなので自分で作ったほうがいい料理です。おいしく作るコツは二つ。一つは地鶏を使うこと。

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スーパーで売っている若鶏はブロイラーと呼ばれるとおり、ブロイル=焼くのに適した鶏です。一方の地鶏は飼育期間が長く、身質がしっかりとして味や香りが濃いので、こういった料理には最適。

 

普段の料理ではニンジンやごぼうの皮を剥く必要はありませんが、お正月なので皮を剥いてから水にさらしきれいに仕上げます。また、こんにゃくは下茹でするのが普通ですが、最近のこんにゃくは製造工程でアク抜きがされているので、そのまま使ってもいい製品が多いです。袋の裏を確認して「アク抜き不要」か「アク抜きが必要か」は判断しましょう。

 

もうひとつのコツはフッ素樹脂加工のフライパンを使うことです。炒り鶏は煮物ではなく、炒る料理。普通の鍋だとくっついてしまったりしますが、フライパンであれば問題ありません。中火で水分を飛ばすようにして炊いていき、最後は炒り上げるようにします。

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レシピにはよく水分がなくなるまで煮る、とありますが、実際には少し水分が残り、全体につやよく絡まった頃が出来上がりの目安です。冷めてもおいしくするために味付けはしっかり目に。お正月だけではなく、普段のお弁当に入れてもおいしいレシピです。

今年、一年も残りわずか。みなさま健康には気をつけて、健やかにお過ごしください。それでは、また。

 

Text&photo:Naoya Higuchi

 

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