〈鎌倉紅谷〉が伊勢丹新宿店にオープン。人気のクルミッ子を主軸に、新たな生菓子も登場。

2022.02.18 UP

幅広い年齢層に愛される代表菓「クルミッ子」で知られる〈鎌倉紅谷〉。2022年2月25日、伊勢丹新宿店にオープンします。オープンに際し、これまでの軌跡やクルミッ子誕生秘話、そして新宿店での新たな取り組みについて有井宏太郎社長に伺いました。

 

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和菓子職人の初代と洋菓子職人の先代の出会い

愛らしいリスのイラストでお馴染みのクルミッ子。クルミがたっぷり入ったほろ苦いキャラメルを、バターが香る生地で挟んだ佇まいは瀟洒です。これは和菓子?それとも洋菓子?三代目の有井宏太郎社長は「祖父、有井鉄男は和菓子職人、父、有井弘臣は洋菓子職人でした。そんな二人で生み出したのが〈鎌倉紅谷〉。二人で納得できる菓子作りをしてきた結果、こだわるのは和・洋ではなく美味しさになりました」と話します。

 

初代、有井鉄男氏は〈菓子舗紅谷〉の出身。腕の良い菓子職人が集まると評判の店でした。やがて〈菓子舗紅谷〉出身の菓子職人たちは各地で独立し、紅谷の名前を名乗ります。有井鉄男氏は、弘臣氏と共に1954年(昭和29年)鎌倉市雪ノ下で〈鎌倉紅谷〉を創業しました。

 

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創業当時の店舗外観。

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発売当時のクルミッ子の掛け紙には、先代が尊敬していた源頼朝が守り神のように描かれていました。

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クルミッ子(8個入)1,167円

現在のクルミッ子のパッケージ。一筆書きのような素朴な線画のリスがトレードマーク。リスのイラストは発売当初から存在していたが、原画の作者は不明。自家製キャラメルとクルミ、そしてふんだんなバターを練り込んだ生地が決め手です。

 

鎌倉という土地に由緒ある美味しい菓子。これが〈鎌倉紅谷〉のモットーとなり、創業時から人気を博したのが「大いちょうサブレー」でした。鶴岡八幡宮の象徴であった大いちょうの葉をモチーフにしたサブレーは、初代鉄男さんが配合を工夫し、パキッとした小気味よい歯応えが今も健在です。

 

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発売当時の「大いちょうサブレー」のパッケージ。こちらにもやはり源頼朝の姿があります。 

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鎌倉だより(6枚入)540円

「大いちょうサブレー」は、2015年に「鎌倉だより」としてリニューアル。基本のプレーン味に加えてあずき、抹茶の三つの味わいに。新たに加わったあずきは、小豆風味を生かすため、あえて材料から卵を外して繊細さの中でしっかりと小豆が香ります。抹茶は愛知県・西尾の抹茶を使用し、練乳とブレンドすることで苦味を和らげ、丸みのある味わい。

 

そして次の大ヒット作が「あじさい」です。この菓子は昭和55年、第13回神奈川銘菓展菓子コンクールで最優秀賞を受賞します。

 

 

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あじさい(3枚入)454円

3日間かけて作られるラスク。パンではなくバターケーキを焼き、一晩かけてさらに乾燥させます。生地の上には練乳ソースが上掛けされ、懐かしさを誘う味。食感は予想を裏切り、密度のあるサクサクとザクザクの間。「思ったより歯応えがあると思います」と有井社長。重ならないよう丁寧に配されたアーモンドは鎌倉の初夏の風物詩、あじさいがモチーフです。

 

創業当時は焼き菓子だけではなく、餡を炊いて饅頭やケーキの生菓子も作っていました。観光客の多い鎌倉では、土産として日持ちの良いサブレーとラスクの人気が定着します。ところが「父は店の安定のためには三本柱が必要だと考えていました」。

 

 

工房裏に遊びに来るリスをヒントに「クルミッ子」誕生

大銀杏、あじさいに続き、先代が三つ目の鎌倉菓子モチーフとして白羽の矢を立てたのがリスでした。「雪ノ下の工房裏には、よくリスがいました。リスの好物はクルミ、クルミの菓子、という連想が父の頭に浮かんだようです。その頃の父には、なんとかできないかと考えていたものがもう一つありました。銀杏型に抜いたサブレーの余り生地を、他の菓子に生かせないかと考えたのです。サブレーの余り生地でクルミの入ったキャラメルを挟んだ。これが『クルミッ子』の誕生につながりました」

 

 

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3本目の柱としてクルミッ子が登場したのが昭和59年頃。発売当初は「あじさい」の方がまだまだ人気でしたが、平成20年にデザインリニューアルすると、徐々に人気に火がついていきます。女性誌やカルチャー雑誌で頻繁に取り上げられるようになり、客層も変わりました。「それまでは鎌倉観光客のメインである中高年層中心でしたが、さまざまな年齢の方が店を訪れてくれるようになりました」

クルミッ子の人気により、先代の願いだった三本柱が揃います。

 

 

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谷戸めぐり 3,240円

クルミッ子(8個)あじさい(5枚)鎌倉だより(12枚)

〈鎌倉紅谷〉の代表的な焼菓子の詰合せは土産、贈答菓子に人気。大小さまざまなサイズの詰合せが用意されている。

 

クルミッ子が出来るまで

この日は、2019年にオープンした工房と店舗一体型の「鎌倉紅谷 Kurumicco Factory」(横浜・みなとみらい)を訪れ、クルミッ子の製造工程を見せていただきました。

工房内には鍋が並び、キャラメルが手作りされていました。

 

 

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空気を抜きながらうまくキャラメルが伸びるように鍋の中で捏ねます。キャラメルが出来上がると大量のクルミを投入し、キャラメルとクルミが均一に絡み合うよう、さらに練ります。

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下に敷いたサブレ生地の上に、冷やしてシート状にしたキャラメルをのせ、上からさらに生地を被せます。

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上生地と下生地は微妙に厚みを変えているため、生地は手作業で行います。

 

ベースの生地はたっぷりのバターに少しハチミツが入っているのがポイント。焼き上がったクルミッ子は1日寝かせて落ち着かせます。

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カットして完成。このサイズ感がクルミッ子らしさの重要ポイント。上生地と下生地の厚みの違いにご注目ください。

洋菓子にエンガディナーという、バターたっぷりのサブレ生地でキャラメルを挟んだ菓子があります。スイスのエンガディン地方の伝統菓子で、この地方の菓子職人が隣国のフランスやイタリアに伝え、ヨーロッパ菓子として定着しました。おそらく日本人がこの菓子を見るとクルミッ子みたい、と思うかもなのですが、食べてみると生地やキャラメルの重さが全く違います。ヨーロッパのエンガディナーは、体の芯に沈んでいくような重さがあり、サイズも大きい場合が多いです。対して、クルミッ子は小ぶりなサイズで、苦すぎず甘すぎないキャラメル、重すぎない生地。繊細なトータルバランスは、日本人感覚の菓子だと確信します。

 

「クルミッ子の生地は上生地と下生地で若干厚みを変えています。上生地は最初に歯にあたる部分なので薄く、そして下生地は歯応えを楽しめるようにやや厚く。微妙な差なのですが、そんな絶妙な調整の積み重ねがクルミッ子の美味しさの秘訣なんです。手作業でないとその微妙な調整は効きません」。

 

 

 

新たな生菓子への挑戦

ここまで〈鎌倉紅谷〉の歴史と代表菓を紹介してきましたが、伊勢丹新宿店での新店舗では定番菓子に加え、これまでカフェでのみ提供されてきたチーズケーキをテイクアウト可能な形で発売されます。その開発に当たったのが、シェフパティシエの河口幸宏さんです。

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写真右が河口幸宏さん。大阪あべの辻製菓専門学校を卒業後、大阪リーガロイヤルホテル内の製菓課で働き、神戸のパティスリーを経て東京・四谷のオテル・ドゥ・ミクニでスーシェフを務める。ヴァローナジャポンの技術シェフ、イグレックプリュス丸の内でのシェフパティシエを経て6年前に〈鎌倉紅谷〉のシェフパティシエに就任しました。

 

河口さんの開発したチーズケーキは、カフェでの提供からスタートしましたが、テイクアウト可能なようにテクスチャーを工夫しています。白餡とメレンゲが生み出す、雪のような軽さとしっとりなめらかな食感は、和菓子の浮島の手法に倣ったものです。そして、このチーズケーキのアクセント役を担うのがクルミッ子。「キャラメルとチーズケーキの相性はとても良い」と河口さんは話します。

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フロマージュ浮島・YUKI(1個)(約直径11×高さ4.6cm)2,430円

上にクルミッ子が配されたチーズケーキ。テイクアウトが可能なギリギリの柔らかさに食感を調整している。

 

 

有井社長は「伊勢丹新宿店のお客様と出会うことで、また新たな菓子の発想が生まれるかもしれません」と話します。

和菓子・洋菓子の垣根を超えたその先へ。菓子の本質は、美味しさの先に生まれる人の嬉しい気持ちや安らぎ、感謝の気持ちなどに寄り添うことであり、それが使命だという〈鎌倉紅谷〉。目指すのは、和菓子・洋菓子などのカテゴリーに縛られない、自由に美味しさを追求する“地球菓子”を作り続けることだそうです。

 

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話を伺った有井宏太郎社長。平成20年、社長就任と同時にブランドリニューアルを行う。「味には自信があったので、私が力を入れたのは主にデザイン面とブランディングです。デザインの刷新によりファン層が広がりました」。

 

 Text : FOOD INDEX 編集部

 Photo:Yu Nakaniwa

 

 

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