2022.3.8 UP
右から、伊勢丹新宿店「プラ ド エピスリー・シェフズセレクション」バイヤー 五藤久義さん、〈和味 りん〉 芳賀博康さん、〈新宿割烹 中嶋 店主〉 中嶋貞治さん、〈OPEN BOOK〉田中開さん。
五藤 伊勢丹新宿店ではここ数年、「サロン・デュ・ショコラ」をはじめ、モンブランの催事やいちごフェアなどの人気が 高く、個々のコミュニティの力がとても大きな強みとなってきています。この″コミュニティ〟を考えてみた時に、新宿という街には歌舞伎町やゴールデン街、料亭などさまざまな文化が存在していて、この街に構える百貨店として、多様化するコミュニティを上手に発信して、お客さまにも新宿の面白さや未来のお話をお届けできたらと感じました。皆さんは、新宿の食の面白さをどう感じていますか?
中嶋 新宿は間口が広いと言いますか、新しいことを受け入れる柔軟性が高い街です。だからこそ変わっていく面白さがある中で、今は過渡期にあるように感じます。飲食店としてコロナ以前に戻ることはないと思っているので、これからが大変な時期ですが、新宿はターミナルもある恵まれた土地ですし、素晴らしい若い人たちもいるので、新たに生まれる文化にも期待しています。
田中 僕はまだオープンして6年目なのではっきり実感はできていませんが、確かに新参者でも、きちんとお酒を飲んで通えば、受け入れてもらえるという 口の広さは感じています。銀座などと比べて、新宿は人種や年齢、性別も多種多様なぶん、礼儀正しさやマナーよりも、どれだけ通って、付き合いを作れるかが大事な街だと思います。
芳賀 私もお店を始めた頃は口下手でお客さまとの会話が苦手だったのですが、ある方からご紹介いただいた新宿二丁目の老舗バーに足を運び、会話の勉強などいろいろ教えていただきました。気遣いからボケ・ツッコミまで、新宿ならではの飲食店の流儀と言うんでしょうか。
中嶋 そうそう(笑)。新宿で飲食店を営業するなら、二丁目に通って接客や会話を学ぶべきですね。
田中 皆さん本業の料理があって、次に会話があると思うのですが、うちは飲み屋なので、どこのお店もお酒を提供する中では、会話で差をつけるしかない。それこそ、二丁目の偉大なママさんたちを目の前にしたら「こんな面白いお店があるなら、僕らは変わったことをしないと!」と、何か柱となる商品を求めてたどり着いたのが、レモンサワーでした。
五藤 同業の方々で飲みに行くことも多いですか?
中嶋 昔は西口の方に花柳界があって同業者も多かったですし、随分飲み歩きましたね。「歩けるうちはもう一軒行こうよ」って(笑)。
全員 かっこいい!
中嶋 銀座よりもやんちゃしやすいの、新宿は(笑)。割烹は敷居の高いジャンルに思われがちですが、うちは京都風や銀座風でもない。なんでもアリで個性を出しやすいのも、新宿の街ならではでしょうか。
五藤 確かに三代続く割烹というと、昔ながらで厳しそうに感じます。
中嶋 そうですね。店側がどんなに頑張っても、お店の半分はご常連がお店作りをしてくれるものなんですよね。それこそ、お客さまの中には伊勢丹さんの役員の方々もいらっしゃって。当時は「ニットの神様」とか「何々の神様」と呼ばれているようなファッションバイヤーの方などもいらして、僕らの業界とは全く異なるお話をたくさんしてくださって、楽しかったですよ。
五藤 面白い時代ですね!
〈新宿割烹 中嶋×セゾンファクトリー〉【伊勢丹新宿店限定】
(右)匠 中嶋 旨塩ねぎだれ 100g/1本 1,026円
(中)匠 中嶋 玉葱ドレッシング 160㎖/1本 1,026円
(左)匠 中嶋 タルタルソース(和風) 110g/1本 1,026円
伊勢丹新宿店本館地下1階 シェフズセレクション
長ねぎに合う旨み塩に隠し味のごま油を加えた「旨塩ねぎだれ」。玉ねぎの甘みを活かした「玉葱ドレッシング」。みじん切りにした玉子の食感を残した「タルタルソース」。中嶋“60年の歴史”をご自宅で。
※販売期間: 3月9日(水)〜
中嶋 僕が幼稚園の頃は、制服も伊勢丹製でしたし、その頃は伊勢丹さんのスケート場で遊んでいました。
芳賀 スケート場まであったんですか!?うちのお店も伊勢丹さんの社屋前なので、社員の方とのお付き合いは多いのですが、忘れもしないのは東日本大震災の時です。満席だった予約が全部キャンセルになり、自分も動揺していた時に、常連の伊勢丹の社員さんから 電話が入り、「大勢の社員が帰宅できないから、芳賀ちゃん何か作ってくれないかな」と。仕込み用の食材で何十個もおにぎりを握ってお届けしたところ、とても喜んでいただきました。外の方からは意外かもしれませんが、新宿はご近所付き合いが多いんですよね。自分も伊勢丹さんにはかなりの頻度で仕入れに伺ったり、上の階に器を見にいくこともあります。
中嶋 僕らも地下の食品街にはしょっちゅう行きます。気になる催事も多いので見に行ったり、足りない食材は、だいたい地下にすべて揃っているので。サッと行って、パパッとアイカード出してね(笑)。
五藤 田中さんは、お酒のフロアには相当詳しいですよね?(笑)
田中 はい(笑)。伊勢丹さんのお酒のフロアは、世の中でどういったお酒がマスなのか、マーケティングとしても重要で、うちで新規のお酒を扱う時も、それがどれだけ珍しいものかは伊勢丹さんが指標になると言っても過言 ではない。逆に伊勢丹さんに並んだお酒は、いい意味で既に良いものと認定されたということなので、うちみたいな小さい店では、さらに皆さんが知らない銘柄を発掘することが存在意義だと思っています。でも最近は、伊勢丹さんが珍しい銘柄を見つけてくるペースがより早くなってきた気がしますね。こんな小規模生産の焼酎まで!?とびっくりします。
五藤 早くなっていますね(笑)。
田中 あと、僕らは国産の農薬不使用のレモンしか使用しないのですが、いろいろ試してみた結果、8月の間は伊勢丹さんで仕入れています。夏季のレモンの仕入れは単価が大幅に上がるため、その高まった単価にプラス面倒な手間も考えると、その日の営業分を伊勢丹さんの地下で買った方が効率がいいという結果にたどり着いたんです(笑)。
五藤 皆さんの台所にしていただき、ありがたいです!(笑)それこそ今回の商品企画は、そんなご近所付き合いから生まれたものもあります。〈新宿割烹 中嶋〉さんの名物の一つ「イワシフライ」に常連さんのご要望でお付けしているというタルタルソースも、セゾンファクトリーさんとのご協力のもと、商品化することができました。自分は、それだけでお酒のアテにもなると感じたほど具沢山なタルタルソースで、自宅でハーブをあしらったり、アレンジもしやすいんです。
中嶋 夜のお客さまでご要望があればお出ししているタルタルソースです。夜は常連さんのご希望でラーメンやオムライスを出したこともありますし、素材と時間の余裕があって、お客さまのご要望がある限り、やれることはやりたいですよね。〈割烹中嶋〉60年の味は、変わらないことを良しとしているわけではなく、時代によってお客さまの好みや反応も変わるものですし、調味料や調理器具なども変化しているので、〝60年でたどり着いた味〟と言えます。
五藤 いいものは残りますし、そんな柔軟なところも新宿らしさでしょうか。芳賀さんからは2,3年前から、八方だしにかける想いを伺っていて、「次世代に和食を繋げていこう」という取り組みを、伊勢丹新宿店としてどのように伝えていけるか、これまで何度もご相談しており今に至ります。これまで、だしは調味料として〝味を重ねる〟という概念でしたが、「凛とした八方だし」を試食した時に、初めて〝素材の味を引き立たせる〟だしに出会いました。その先には、和食をもっと手軽においしく食べてもらいたいという想いがあって、自分の担当もグローサリーを扱うデイリー商材の部門なので、生活に密着しただしをどう伝えていくかを、改めて考えました。
芳賀 今は、お袋の味がない時代になってきていると思うんです。夫婦共働きも当たり前になりましたし、ランチタイムに来てくださる働く女性の方々からお話を聞いていると、お袋の味そのものを知らないお子さまも多いのだとか。そこで、家庭でも手軽に使いこなせるように、比率を守って薄めるだけで活用できるだしを作りました。
田中 うちも中嶋さんがおっしゃっていた「お客さまが喜んでくださることはなんでもやりたい」に近いのですが、お客さまがうちのレモンサワーを家で飲みたいと言うなら、家で飲めるようにしたいじゃないですか。 2020年のコロナ禍でレモンサワーの素を開発したのですが、広く販売するためにはどうしたら良いかと常連のお客さまとお話をしていたところ、その方が伊勢丹さんに繋いでくださったんです。
五藤 田中さんの想いや経緯も感じましたが、レモンサワーの素を作られるにあたり、焼酎自体をオリジナルで作ったと聞いて、「え!?すごい!」と引き込まれましたね。
〈OPEN BOOK〉
(右)伊勢丹のリアルレモンサワーの素 200㎖/1本 1,980円【伊勢丹新宿店限定】
伊勢丹新宿店本館地下1階 和酒/シェフズセレクション
※販売期間:3月9日(水)〜
(左)伊勢丹のレモンサワーシロップ 200㎖/1本 1,485円【伊勢丹新宿店限定】
伊勢丹新宿店本館地下1階 シェフズセレクション/本館1階 SEED
※販売期間:3月9日(水)〜
田中さんのこだわりをギュッと濃縮した、家庭でも楽しめる究極のレモンサワーの素と、ノンアルコールのシロップを商品化。蔵書に囲まれた〈OPEN BOOK〉をイメージした原稿用紙ラベルは、伊勢丹新宿店限定仕様。
五藤 飲食のプロとして、皆さんは食の未来をどう考えていますか?
中嶋 「和食離れ」を感じることもありますが、コロナ前は海外のお客さまで埋まっていた予約も、今は日本人の若いお客さまにたくさん来ていただくようになりましたし、店側も基本に忠実に続けていくことが大切なのだと感じています。今回のタルタルソースを手にしていただくことで、自宅でアジフライを作ってみようかなとか、旨塩ねぎだれを使って魚を焼いてみようかなと、和食を作ってみるきっかけになることを期待しています。
芳賀 子どもたちの和食離れもありますよね。今回の八方だしは、「子どもに伝えるだし」というコンセプトがあり、おせちを嫌がる子どもたちが増えていることが、開発に至ったきっかけです。このままでは、おせちでお正月をお祝いする文化がなくなってしまうし、子どもたちが喜んで べてくれるようなおせちを作りたいという想いが原点でした。
五藤 おせちは味が濃いから嫌がる子どもたちも多そうですが、保存のためにはどうしても味を濃くするのは仕方ないですよね。
芳賀 そうなんです。でも「仕方ない」と諦めては負けなので、なぜ腐敗するのか?という根本の原因を突き詰めて、毎日、仕込みで扱う食材でさまざまな試行錯誤を繰り返したことで、素材の味を活かせる八方だしの比率と調合が完成しました。今では親御さんから、子どもたちが率先しておせちを食べてくれるようになったという声をたくさんいただくようになりました。結局、家でおいしい和食を食べていない限り、外で和食を食べようという気にはなりませんよね。家で食べておいしければ、さらにおいしいものを食べたいと考えて、お店にも来ていただけると思うんですよ。
田中 僕らにとっては、和食離れというより、どちらかというと若い人たちのお酒離れが深刻ですね。
中嶋 今はほんとに飲まない人が増えてるよね。
田中 そうなんです。昔もお酒が苦手な人はたくさんいたと思うのですが、いわゆる〝酒場〟とは、きらびやかな場や、先ほど中嶋さんと芳賀さんがお話しされていたような二丁目の老舗のバーだったり、お酒を飲む場所に行くことで何かを体験できたり、お酒を通じたカルチャーがあったと思うんですよね。お酒を飲めない人でも酒場に行きたいと感じる何か。ですから、お酒そのものよりも、お酒に至る導線的なものを、もっとお店からだけではなく、今回のようなプロダクトやコミュニティを通して発信していかないと、と感じています。導線といっても、誰が売って、誰が手に取るかということが大事なので、やみくもに量販店で売りたいわけではないですし、やはり僕らのお店に興味を持ってくれるようなお客さまと繋がる導線であってほしい。レモンサワーの素を100本作ってコンビニで売りたいわけではなく、1本でも、いつか〈OPEN BOOK〉に来てくださるようなお客さまに届いてくれることが必要だと思うので、そこはやはり食に関して〝突き抜けている〟伊勢丹さんが最も適した場所だと感じました。
〈和味 りん〉
(右)凛とした八方だし(500㎖/1本)1,296円
※販売期間:3月9日(水)~
(左)炊き込みご飯の素(真鯛・筍)(各2合炊き用/1パック)各1,620円
【伊勢丹新宿店限定】 ともに20点限り
※販売期間:3月9日(水)~
伊勢丹新宿店本館地下1階 シェフズセレクション
砂糖・塩を使わず、昆布・ 油・みりん・酒のシンプルかつ独自の配合で仕上げた「八方だし」。このだしを使用し、旬素材を家庭で簡単に味わっていただくため、神経〆めした真鯛と筍の「炊き込みご飯の素」もご紹介。
五藤 最後に、皆さんが今後取り組んでいきたいことはありますか?
中嶋 続けられる限り続けていきたいですし、次にお店を切り盛りしてくれる世代や人物を応援していきたいですね。食の未来は、次世代をどう育て、どう残していくかが最大のテーマだと感じていて、これは飲食店だけでなく、人間の原点でもある気がしています。それこそ田中さん世代の若い方々がどんどん発信して、変わっていく新宿を、僕は見届けていきたいなと思っています。
芳賀 来年は、八方だしと京野菜をセットで販売していきたいと考えています。京野菜はおいしいのに使い方が難しいと感じている方は多いので、このだしを使うことで手軽においしく食べられることを知ってほしいですし、オンラインで京野菜を使った料理教室などの話もいただいています。また、わずかな傷や形の問題で廃棄されていたような食材も、この八方だしを使うことで活かせますし、フードロス問題にも積極的に取り組んでいきたいですね。
五藤 〈りん〉には、伊勢丹新宿店でこの八方だしを使った、「旨の膳」の惣菜ショップと、プラントベースフード 代替肉をおいしく食べるためのコラボレーションも予定していただいていますよね。
芳賀 正直なところ、これまで大豆由来の代替肉をおいしく食べるのは難しいと感じていましたが、肉の代替えとしてではなく新たな大豆食材として捉えれば、八方だしでシンプルに〝大豆の旨みを引き出す〟ことができて、おいしく仕上がります。
五藤 伊勢丹新宿店でも、代替肉という概念ではなく第三の選択肢として注目しているので、まさに芳賀さんのお考えとマッチしています。田中さんは、新たな店舗展開も考えていらっしゃるんですよね。
田中 来年あたり、本格焼酎しか使わない缶チューハイの新店を作って、祖母のレシピで作る料理も提供できたらなと思っています。人が集まるための面白い空間としてお店の営業は安定させつつ、常に商品開発も行っていきたいですね。特に、焼酎にフォーカスしたモノ作り。先ほどの酒離れの話からさらに半歩先のお話になりますが、今は国内の焼酎がすごく面白いのに、焼酎離れが進んでいるという現状に向き合っていきたいと思っています。
五藤 今回「粋の座」では、4種類の焼酎別に〈OPEN BOOK〉のレモンサワーを飲み比べる企画も予定しています。今後もこういった新たな取り組みや面白いコミュニティをお客さまへ伝えていくことが、僕らバイヤーの愉しみでもあります。伊勢丹新宿店としては、食の最先端を発信し続ける役割があると同時に、自分はさらに〝食の楽しさ〟も伝えていきたいと感じています。食の最先端と楽しさを両軸で考えた時、お客さまの日常にちょっとした刺激や面白さをご提供するのが、伊勢丹新宿店としても個人としても求められている姿だと思うんです。
中嶋 今回、新宿という街の文化を背負った3店舗が開発した商品はどれも、ご自宅で手軽に使っていただける商品ばかりですし、伊勢丹の地下にあれば、ちょっと手を伸ばしてみようか?というきっかけにもなりますよね。五藤さんたちが一生懸命発信してくださることで、和食やお酒の素晴らしさを改めて味わっていただけたら嬉しいですね。
〈OPEN BOOK〉焼酎別レモンサワー飲み比べ
米・麦・芋焼酎、泡盛の4種から2種以上 1,001円から【伊勢丹新宿店限定】
伊勢丹新宿店本館地下1階 粋の座・和酒/おもてなしカウンター
田中さんが伊勢丹新宿店で販売中の焼酎の中から、レモンサワーに合う焼酎をセレクト。「豊永蔵(米)」「ちんぐ黒麹(麦)」「大和桜(芋)」「春雨カリー(泡盛)」の4種で〈OPEN BOOK〉のレモンサワーを味比べ。
※販売時間:各日午後1時〜7時(ラストオーダー午後6時30分)
※20歳未満の方の飲酒は法律で禁止されています。
※お酒やオートバイなどを運転される方の飲酒はご遠慮いただいております。
〈新宿割烹 中嶋〉
住:東京都新宿区新宿3-32-5 日原ビルB1F
☎:03-3356-4534
〈和味 りん〉
住:東京都新宿区新宿5-17-6 中田ビルB1F
☎:03-3205-7252
〈OPEN BOOK〉
住:東京都新宿区歌舞伎町1-1-6
☎:050-3708-4392
写真:和田裕也(人物)、福田喜一
スタイリスト:chizu
フード:尾身奈美枝、木村遥
文:藤井存希
撮影協力:花園神社