2022.3.16UP
2022年3月23日、フレッシュマーケットに新しい店が仲間入りします。さつま揚げ・おでん種など練り物製品を専門とする<塚田水産>。戦後、吉祥寺で誕生して現在に至るまで、ローカルな味として愛されてきました。伊勢丹新宿店での開業にあたり、吉祥寺本店を訪ねて人気の理由を探ります。
東京で住みたい街として変わらぬ人気の吉祥寺。南口側には井の頭公園、そして北口側には老若男女に人気の商店街が広がります。商店街の一角は、かの有名なハモニカ横丁。戦後闇市からの雰囲気を残し、小さな店が肩を寄せ合うように並ぶ風景がハーモニカの吹き口に似ていると、この愛称で呼ばれるようになりました。そして、ハモニカ横丁にすぐ隣接するのがダイヤ街商店街です。ここにも、時代の波に揉まれながら、今なお人々の胃袋を掴む実力店が存在します。さつま揚げ、おでん種など練り物を専門とする<塚田水産>もそのひとつ。ご近所には老舗羊羹、メンチカツの行列で有名な精肉店もあり、アーケードはいつも活気に溢れています。
昭和20年、<塚田水産>は現社長、塚田亮さんの祖父浩三さんが創業しました。当初はさまざまな商いを行なっていたそうですが、定着したのが練り物製品でした。手作りと保存料不使用をモットーとし、地元商圏の要望に応えて作り上げた商品の評判は、やがて国にも届きます。昭和59年、そして平成7年、<塚田水産>のさつま揚げ、はんぺんが農林水産大臣賞を受賞しました。
その後、百貨店などからも出店の声がかかり、度々イベント出店を行うようになります。伊勢丹新宿店でも例年イベント出店を行ってきましたが、今年の春、ついにフレッシュマーケットに常設店を構えることになりました。
<塚田水産>の店頭を訪れると、出来立ての臨場感もさることながら、ありそうでないバラエティ豊かなさつま揚げに、見ているだけでワクワクします。常連さんと思わしき方々の迷いのない注文に圧倒されながら、あれもこれもと試したくなってしまいます。
<塚田水産>の魅力は、まずはこのバリエーションの豊かさかと思います。地域の人々や常連さんが、飽きることなく日々のおかずとして食べることができるよう、日々35種類の定番に、期間限定品のコラボ商品や季節限定品が10種類ほど加わり、商品内容は常にリフレッシュされます。代表商品の塚田揚げからして具材がユニークです。
塚田揚げ(1個)242円
創業者の草案で、大人気となったシグニチャー的さつま揚げ。具材は長ネギ、ニンジンに、異色なのが豆もやし。豆もやしの歯ごたえと旨味がユニークポイントになっています。揚げ立ての豆もやしの風味は特に格別です。
岩下の新生姜あげ(1個)378円
<塚田水産>お得意のコラボ商品代表作。浅漬け風の優しい辛味と爽やかさ、シャキシャキした歯切れの良さで全国的に人気の<岩下の新生姜>とイカ、大葉がたっぷり入っています。おかずにも、お酒のお供にも。
揚げボール(1串)270円
可愛らしいサイズ感で長く愛されている揚げボールを、串に刺してお団子風に。おでんの具材にも良さそうです。中の具材はニンジン、イカ、タマネギ、胡椒。しっかりした食感で煮崩れしません。
出汁巻き卵(1枚)648円
砂糖不使用。塚田水産自慢のおでん出汁をたっぷりと使っています。出汁を抱え込んだ卵焼きは、口に入れるとふるふるしっとりとした舌触り。薄味でたくさん食べられます。
そして、伊勢丹新宿店の出店にあたり、新たなさつま揚げも開発されました。
伊勢丹オリジナル海老しんじょう揚げ(100gあたり)756円
伊勢丹新宿店のお客様をイメージして作り上げたという、ちょっとリッチな海老しんじょうは、山芋が生地に練り込まれていてフワフワ食感が他と一味違います。
玉ねぎ天 伊勢丹限定(1個)432円
淡路島産、産地限定の玉ねぎをたっぷり使ったさつま揚げです。伊勢丹新宿店限定。玉ねぎ
そのものの甘みをしっかりと感じることができます。
また、オリジナリティといえば、一連の吉祥寺揚げ。「本店お隣のメンチカツが大人気なので、さつま揚げも衣をつけてコロッケみたいに揚げたらお客様に喜ばれるかもと思ったのがきっかけでした。やってみたら大ヒット。当社の代表商品の一つに成長しました。揚げたては特に美味しいので、伊勢丹新宿店でも店内で吉祥寺揚げをご提供する予定です」。
揚げたて時間をチェックして食べてみたい.。
吉祥寺揚げ(1個)291円
お肉屋さんのメンチカツのような、しっかりとした衣でサクサクと揚がったさつま揚げ。具材はウィンナー、チーズ、ブロッコリー。具材の味わいもしっかりで、おやつとしてそのまま食べられそうです。お子様のお弁当にしても喜ばれそう。今後、季節限定の味も登場する予定です。
美味しさの秘密は、生地作りにもありました。店頭と繋がった工房の中で、手作りの様子を見せてもらい、まず驚くのがすり身の生地に対する具材の量の多さです。
こちらは代表商品の塚田揚げを練るところ。社長曰く「練り物で一番大事なのが加水です。つなぎとなるでんぷんと水を増やせば、練り物の容量は簡単に増やせるし、つなげるのも簡単。でも、当社はそれをしません。なるべく少ない馬鈴薯でんぷんと水分で練り合わせます。生地中の具材の割合が多くなると、火を入れても生地がだれにくく、煮込んでもこしがキープされます」。
すり身に使用する主な魚はイトヨリ鯛。加工作業中は、魚種が生息する温度帯に近い温度環境で作業するのが、より良いすり身づくりの秘訣だそうです。温度調整のために、暑い日は氷水を加えますが、冷やしすぎてもだめ。その逆に温かくなりすぎてもダメ。10年経験している職人さんでも、この温度調整は非常に神経を使うところだそうです。
完成したすり身は、オリジナルの型に入れて抜きます。すり身は水を嫌うので、それを逆に活用し、土台に水分をつけて型から外しやすくします。水分が多すぎると身が崩れてしまうので、その具合の調節も職人技です。
大豆の白絞油を160度から170度に熱して、すり身を揚げます。油に放つとジュワッという勢いのある音と、芳ばしい香りが立ち上がり、すり身がふっくらとしてきます。
すり身には塩が入っていますが、熱が加えられると魚肉のタンパク質に粘りが出ます。これがすり身のモチモチとした食感を生みます。
しばらくすると、素材から水分が抜けて、大きな油の音がだんだん静かになります。そしてすり身に混ぜられた砂糖がメイラード反応を起こし、キツネ色になります。美味しそうに色づいたら完成です。
以上が工房で見せていただいた全てです。コラボ商品も多い<塚田水産>では、これまで吉祥寺界隈の人気商品、例えば<みんみん餃子>とコラボしたさつま揚げなども開発して人気となりました。この先、伊勢丹新宿店でコラボ商品が生まれるとしたら?!例えば人気生産者の野菜とコラボしたさつま揚げや、よく売れている惣菜とのコラボなど、色々考えられそうです。新たな新宿ローカルのさつま揚げ誕生も楽しみにしたいと思います。
お話を伺った<塚田水産>三代目の塚田亮社長。都内では希少な存在となりつつある練り物専門店の陣頭指揮をとる。大ヒットした塚田揚げは、社長のアイデアから生まれた。
Text : FOOD INDEX 編集部
Photo : Yu Nakaniwa