おいしさを創る。 おいしさを届ける。「クルミッ子」で知られる〈鎌倉紅谷〉の想い。

見て楽しい、 食べておいしい、ファクトリー＆カフェの心意気。

ザクザクのクルミがぎっしり詰まった甘くほろ苦い自家製キャラメルを、サクッと軽やかなバター生地でサンド。確かな甘みの中に広がる上品なほろ苦さ。小ぶりながら食べ応え十分。それでいてくどくない仕立て。生地、クルミ、キャラメルの3つの要素を絶妙なバランスで組み合わせ、愛らしいリスくんのフィルムで包みこんだ『クルミッ子』は、〈鎌倉紅谷〉の定番にして超がつくほどの人気商品。

「菓遊庵での1個包装からのお付き合いが続く『クルミッ子』は、お客さまからのご支持を圧倒的に集めています。アイテム＝ブランドが明確に伝わり、単品から支持があるブランドはとても心強いです」と、バイヤーの弓納持清美も絶大な信頼を寄せている。そんな人気アイテムのおいしさの秘密を探るべく、横浜にあるファクトリーを訪問した。

2019年にオープンしたＫＵＲＵＭＩＣＣＯ ＦＡＣＴＯＲＹは、窓越しに横浜みなとみらいの港を一望するカフェを併設し、限定スイーツはもちろん、今までの店舗では見ることのできなかった職人たちの製造風景を間近で楽しむことができる新感覚のショップ空間だ。ガラス張りのファクトリーからは、キャラメルの甘い香りに包まれて心地よい作業 が届く。カットされた『クルミッ子』がベルトコンベアの上を規則正しく、ゆっくりと運ばれていく。見て、香って、味わって、感性を刺激する工夫がいっぱいだ。

「“見せる”工場は、いつか実現したいと思っていた夢のひとつです。作っている職人さんたちが主役ですから。ガラスに鼻を押し当てるように、目を輝かせて夢中で見入る子どもたちの眼差しは、ここで働くスタッフたちの励みにもなっているようです」と、社長の有井宏太郎さん。

製造工程をこれだけオープンにできるのは、菓子作りに対して絶対の自信があるからこそ。昭和29年（1954年）、鎌倉の北条泰時小町邸跡地で創業以来、職人の手仕事に支え続けられた味と心意気は、時代を超えて受け継がれているのだ。

「『クルミッ子』が誕生したのは約38年前。サブレを作る際の二番生地を無駄にしないように、スイスのエンガディーナというお菓子をヒントにしたと伝え聞いています。よく

『こだわりの手作り』と表現されることが多いのですが、私たちが重きを置いているのは、“手作り”ではなく“おいしさ”です。手作りは、おいしさを追求する中でたどり着いた手段のひとつにすぎません。おいしい『クルミッ子』を、安定的により多くのお客さまにお届けするために、機械で賄える工程は機械に任せ、その分ベストを引き出すために職人の手と心と頭を集中させる。やり方は異なっても、本質的なところは何も変わりません」

〈鎌倉紅谷〉が大切にする心得のひとつに、「『おいしい』の先にある気持ちを一番大切にする」がある。

「味だけでなく、デザインやしつらえといった見た目の美しさ、さらには『クルミッ子』という名前の語感もふくめて、五感で楽しんでいただける商品でありたいと思っています。『クルミッ子』をアルファベット表記にしたとき、『ＫＵＲＵＭＩＫＫＯ』ではなく『ＫＵＲＵＭＩＣＣＯ』としたのにも、そんな想いが込められているんです」と、有井社

長。またギフトとしても楽しんでいただきたい、とも。

「自分が食べておいしい、嬉しいという気持ちを贈る相手と共有できる。ギフトとは、そんなふうに喜びをシェアできるものだと思います。『クルミッ子』で、気持ちを届けるお手伝いができたら嬉しいですね」

そんな〈鎌倉紅谷〉のスイーツが勢揃いする新店が伊勢丹新宿店 本館地下1階に登場。 贈り物はもちろん、毎日のおやつに、通ってしまいそう。

写真：太田隆生　

取材・文：西野入智紗