どぶろくのイメージを変えた〈とおの屋 要〉佐々木要太郎さんが、 新作の日本酒、新刊本とともに新宿へ。  

2022.5.31 UP

鮮烈な味わいのどぶろくで日本酒業界や日本酒ファンをあっと言わせた醸造家、佐々木要太郎さんによる新たな発想の日本酒が完成。農家、そして料理人でもある佐々木さんの新刊「遠野キュイジーヌ」も発売され、伊勢丹にて限定セットを販売中!

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佐々木 要太郎さん

 

佐々木要太郎さん。遠野市で100年以上続く民宿の4代目。民宿敷地内に一日一組のオーベルジュ〈とおの屋 要〉を2010年に開業。どぶろくは海外のインポーターや料理人の目にもとまり、世界的に有名なスペインのレストラン〈ムガリッツ〉でも採用された。農家・醸造家・料理人の顔を持ち、その独自な活動が注目されている。

  日本酒のテロワールって何なのだろう?

岩手県遠野市。佐々木要太郎さんがサラリーマンを辞めてどぶろく造りに着手したきっかけは、遠野市で民宿を営む父・優(まさる)さんから「遠野市がどぶろく特区となり、宿でどぶろくを出したい。勉強して許可申請してほしい」という連絡を受けたことでした。2003年、酒造りの経験も発酵の知識も経験もゼロからのどぶろく造りがスタートします。

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どぶろくの製造中。宿の敷地内のラボのような工房で仕込みを行なっている。

どぶろく特区は、ハードルの高いとされる日本酒製造免許の取得に対し、地域構造改革の特例として国が認めた制度で2010年に創設されました。特区でどぶろくを造るには自社栽培の米を使うのが条件。佐々木さんのどぶろく造りは、醸造のみならず米農家としてのキャリアのスタートでもありました。宿の経営者で和食の料理人だった父を持つ佐々木さんは、味覚には自信があったといいます。その分、目指すゴールの味への道のりは長く、納得のいく味が完成するまでに10年ほどの年月を要しました。その間、料理人の父から料理も習います。こうして、農家で醸造家で料理人という類のない佐々木要太郎というクリエイターが出来上がっていきました。

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料理人としても高い評価を受けている佐々木さんの料理は、独自の世界観で地域食材の意外な表情や味わいを発見できる。佐々木さんの発酵技術や経験は、発酵食品や発酵調味料にも遺憾なく発揮されている。

どぶろくが、いわゆる日本酒と大きく異なるのは濾さない酒であるということ。米を粒ごと生かす原始的な酒なので、清酒よりも米の存在を強く感じます。そして、佐々木さんがどぶろくの味わいを追求し、理想の味わいを出すために辿り着いたのは“土作り”でした。土こそ味の源であるという哲学を得たのです。

 

 

伊勢丹新宿店では、2017年より販売している〈とおの屋 要〉のどぶろく。爽やか且つパワフルな乳酸の風味に多くのファンがついています。

「農家でもある私にとって、米を磨き(削って)酒を造るのは、もったいないことです。美味しい酒は、美味しい米からできる。では、美味しくて綺麗な味わいの米はどうすればできるか。結局、土が健全で美しいことが必要なのです。そのためには土壌の微生物が多様で豊富でなければいけない。微生物の活動を妨げる農薬は使うべきでない。結果、自然栽培という農法で、土壌の微生物たちが土の個性をつくり、米の個性、酒の個性になると実感したのです」。

 

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佐々木さんの田んぼと稲。周囲の田んぼと比べて、土の色や状態、稲の生育状況も大きく違います。

今でこそ、日本酒の蔵元が自社で米栽培をするケースは増えましたが、大量生産で酒を造っていた時代、日本酒原料として外から酒米を買うのは当たり前でした。佐々木さんは、どぶろく造りを通じて、自分の米で自分の酒を造るとはどういうことなのかを考え続けます。そして、自分の考える日本酒、すなわち米が育つ土を本当の意味で表現している酒を造りたいと考えます。

 

「日本酒は醸造過程がワインより複雑で、原料による味わいの差異が出にくいと言われてきました。米ではなく、水こそ酒のテロワールを決める要素という考えもあります。でも、米を栽培してきた僕にとって、それは違和感でした。日本酒は、米の酒だと思います。米を表現するためには、米の栄養や味わいの多くの要素を持つ外皮の部分を、酒の一部として生かすことが自分にとっては必然でした。ワインだって、ぶどうの皮も使いますよね。日本酒は、ワインに倣ってテロワールということが言われるようになりましたが、結局、米を削って造っている。僕は削らないで目指す味を造りたい。実は、以前に玄米でどぶろくを造ったことがありました。その時は、玄米だと米が発酵過程で溶けにくく、目指す味わいにはならなかったんです。それでも米の外側、ぬか部分を生かした酒を造れないかと考えてきました」。

 

  ひらめきは、2年前にやってきた

「2年ほど前、ぬか床を触っていた時にふと思ったんです。玄米で食べるぬかの感じと、ぬか床のぬかの味は違うなと。うちのぬかは、きな粉みたいに美味しいのです。だったら、玄米の状態でなく、一度精米して出たぬかを精米した白米と一緒に再び合わせて醸造したらどうだろうと」。

 

税務署に相談したところ、ぬかを日本酒の原料として添加した前例はなく、それ故の苦労はありましたが、製造確定申告書を通して商品化の目処がつきました。

 

こうして他に例のない、ぬかと白米を再度一緒にして醸造する、佐々木さんの日本酒「PEAT(ピート)」と「MARO」が誕生しました。

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新たに誕生した日本酒。左がPEAT(ピート)、右がMARO(マロ)。ともにアルコール度数は12%の低アルコール。日本古来の無添加の水酛造りで豊かな酸がある。原材料は、白米、麹、米ぬか。PEATには稲藁も使用されている。

「『PEAT』は、稲藁の香りを生かしました。秋になると、遠野の田んぼで稲藁を焼く香りがするのですが、これが田舎らしい香りで郷愁を誘います。田舎に住んでいる僕らでもそうなのだから、都会の人たちにとってはさらに懐かしいと感じてもらえるのでは。稲藁の香りごと味わっていただけると良いなと思います。『MARO』は、不思議な酒で、ちょっとシェリー酒のような風味がありますね。通常、日本酒の酒母作りは25日間ほどですが、うちの場合は150日間かけます。この時間が豊かな乳酸菌を育み独特のニュアンスが出ます」と佐々木さんは話します。

 

佐々木さんが、どぶろくや日本酒に使用している米は「遠野1号」。1935年に遠野市で育種された飯米品種(酒用の酒米ではなく食用)です。〈とおの屋 要〉の宿では、朝食のお米も「遠野1号」。現代のもちもちで甘味が強いタイプの米ではないのですが、高貴ですっきりとした香り、そしてサラリとした品の良い味わいです。

 

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〈とおの屋 要〉の朝食は純和食。お米「遠野1号」はお粥もしくは炊飯した白米で供されます。

〈とおの屋 要〉のどぶろくが生まれた当時、世の中的には清酒と比較してどぶろくは日陰の存在でした。日本酒の蔵元が力を入れるのはあくまで清酒。しかし、佐々木さんはどぶろくで最高の味わいを最初から目指し、海外に輸出することも考えて保存性の高い水酛という醸造方法を選びました。水酛造りのどぶろくは、当時例がありませんでした。

 

そしてまた今回も、白米を中心に考えれば、ぬかは脇役です。しかし、佐々木さんの日本酒の発想は、ぬかこそ本来味わいの主役というとところからスタートしています。米と徹底的に付き合った結果、考えの起点そのものが違い、独自の酒が生まれます。

 

「今、海外でも日本酒造りが始まっています。協会酵母を購入して米を削って、ミネラルウォーターで醸せば、日本にもあるような綺麗な酒ができます。これまで、日本酒の価値は、均質で精製度の高いものを造ることでした。結果、土地の表情を削ぎ落としたものになってしまったのではないかと思います。僕が価値だと考えるのは土地。つまり土です。しっかりとした影の仕事があるからこそ、そこにある食材たちは、想像もしない味で生まれてくるのだと思います」。

 

土づくりはまさに影の仕事です。しかし、〈とおの屋 要〉の醸す酒、料理には圧倒的な個性には、見せないたくさんの仕事の気配を感じます。その土地の芯、真実が出てしまうような味。おそらくは、どぶろくの時と同じく、今回新作の日本酒は日本酒業界へ酒とは何か、米とは何かを問う一石となるように思います。

 

Text : FOOD INDEX編集部

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