2022.7.1 UP
中華圏(中国、香港、台湾、マカオ)を中心に、シンガポールやベトナム、タイなどの東南アジアでも、中秋の名月の頃に大切な人と「月餅」を贈り合う習慣があります。日本人にとっては知っているようで実はよく知らないスイーツ「月餅」。ヨーロッパでもムーンケーキとして次第に存在感を高めています。今回は「月餅」の歴史から地方色、最近のトレンドなどをダイジェストでご紹介。今年は伊勢丹新宿店の月餅にご注目ください。
桃の節句や端午の節句など日本の節句は中国からやってきました。その多くは日本風にアレンジされていますが、オリジンの中国では日本とはまた違った節句ごとの食べものがあります。三大節句の一つである中秋節に欠かせないのが「月餅」です。
「月餅」の歴史をざっと遡ってみると、中国における「月餅」黎明期は唐代(618〜907年)。時の将軍、唐高祖李淵は匈奴(中央ユーラシアで勢力のあった遊牧騎馬民族)との戦いに勝利し、祝いにトルファン人から餅が献上されます。勝利の象徴となったこの餅を、皇帝は群臣たちにふるまいました。これが月餅の原型と言われています。この時代はまだ「月餅」とは呼ばれていなかったようです。
文献で「月餅」が登場するのが宋(960〜1279年)時代に書かれた「夢梁録」。中国は現在も旧暦を採用していますが、旧暦では月が暦の主役です(新暦は太陽暦)。「月餅」は中秋の頃に月の神に豊穣を祈り、捧げられる供物になっていったようです。
明の時代(1368〜1644年)の記録「西湖遊覧志会」には、中秋節に「月餅」を親しい人々で贈り合い、家族で一緒に食べるという現在の風習に近い形になります。「月餅」が円形になったのもこの頃で、円形は完全無欠、完璧など良い意味を持ち、幸福の象徴とされました。円形の満月もまた幸福の象徴。中秋節は旧暦8月15日で、新暦では約一ヶ月後の満月が中秋節とされています(2022年は9月10日が中秋節)。清の時代(1616〜1912年)には「月餅」を贈り合う習慣が定着し、中国の地方各地に郷土色のある「月餅」が生まれました。では、中国の地方別にどんな「月餅」があるのでしょう。主な種類をみてみましょう。
■月餅界のリーダー「広式」
中国南方華南地方は、日本にも多い広東料理が有名なエリア。この地方の月餅は、伝統的には蓮の実餡がたっぷり入り非常に薄皮です。そして月を彷彿とさせるアヒルの卵の黄身の塩漬けが入っているのが大きな特長。台湾も「広式」ベースの「月餅」が多いようです。
■木の実やゴマ餡が多い「京式」
中国北方華北地方(主な都市は北京)の「月餅」。中華街などでもお馴染みのゴマを練り込んだこし餡に胡桃などの木の実が入っています。伝統的なものは五仁チャーシューといって、ピーナッツ、ゴマ、胡桃、アーモンド、ひまわりの種などが刻まれたものがたっぷり入っています。日本でもゴマ餡の「月餅」は最も馴染みがあります。
■皮がサクサク「蘇」式や雲南・貴州の「滇」式
長江河口付近、南北に挟まれた浙江省や江蘇省(主な都市は上海)では小麦粉とラード、蜂蜜で作ったサクサクとしたパイ生地のような皮が伝統です。中身は甘い小倉餡もあれば塩味のミンチ肉も。西南部の雲南省や貴州でも皮は同様のサクサク系で、中には名物の雲南ハムが入った甘じょっぱい味が特長で、ハム月餅として親しまれているそうです。
伊勢丹新宿店では、月餅の予約を三越伊勢丹オンラインストアでは7月6日(水)、店頭では7月13日(水)より開始。
※〈サニーヒルズ〉のご予約は三越伊勢丹オンラインストアのみでのお承りです。
店頭では〈ザ ペニンシュラ ブティック&カフェ〉が8月上旬、〈セゾンファクトリー〉が8月中旬より開始いたします。
また、中秋節の近く8月31日(水)〜9月6日(火)には、<サニーヒルズ>を含めた3ブランドがフードステージにてプロモーション販売も行います。今年発売の月餅について、生地、餡、そして表面の意匠に注目するとともに、各社得意の素材をどのように「月餅」に取り入れているかなどをみてみましょう。
また、最近の傾向として月餅はミニサイズ化しています。かつては贈られた月餅を家族団欒の席で切り分けて皆で一緒に食べるのが伝統的でした。近年は、企業間での贈答も多く、どんな環境でも食べやすいミニサイズが増えてきています。
■洋菓子技術の融合とティー文化
<ザ・ペニンシュラ ブティック&カフェ>
<ザ・ペニンシュラ ブティック&カフェ>ミニエッグカスタード月餅(8個入)5,888円
伊勢丹新宿店本館地下1階 プラドエピスリー/フードステージ
※伊勢丹新宿店先行受注
※店頭販売期間:8月上旬頃より
※フードステージ販売期間:8月31日(水)〜9月6日(火)
香港の<ザ・ペニンシュラ>の月餅は、広式をベースに1986年にオリジナルレシピが開発されました。この時に誕生して定番となったのが、カスタードパウダーに伝統のアヒルの塩漬け卵黄が練り込まれたエッグカスタード餡です。古くから西洋との窓口であった香港やマカオにはイギリスのティー文化やポルトガルの菓子文化も根付いているため、紅茶やエッグタルトの要素が中国伝統の「月餅」と融合したのは自然な形なのでしょう。
生地はバターをたっぷりと使ったしっとりした食感で、表面は美しいキツネ色に焼き上げられています。生地に対して餡の割合が多いのも広東の伝統。ミニサイズでは、高さ2cmにしめる餡の高さが1.6cm。薄い皮に空間を作らず餡を密着して焼き上げるのも高度な技術です。伊勢丹新宿店では、香港の<ザ・ペニンシュラ ブティック>から直輸入の「月餅」を販売いたします。
サイズ:(ミニ)直径 約4.5cm × 高さ 2cm
※レギュラーサイズ 直径約7cmx高さ3.5cmの伝統的な蓮の実あんと塩漬け卵黄の月餅のご用意もあります。
表面意匠:半島(ペニンシュラ)
餡:アヒルの塩漬け卵黄を混ぜ込んだカスタード餡
<ザ・ペニンシュラ>といえば紅茶も有名。オリジナルのエッグカスタード餡に自慢の茶葉を練り込んだティーセレクションは、それぞれの茶葉の風味が餡の甘さとともにしっかりと香る贅沢さです。「月餅」に練り込まれたティーは、茶葉だけの購入もできるので、それぞれのフレーバーティーと同じフレーバーの月餅を合わせてみるのも贅沢な体験となりそうです。
<ザ・ペニンシュラ ブティック&カフェ>ミニ月餅ティーセレクション(8個入)6,288円
左からペニンシュラブレンドティー、アールグレイティー、ライチブラックティー、鉄観音 各2個ずつ
※伊勢丹新宿店先行受注。
※店頭販売期間:8月上旬頃より
伊勢丹新宿店本館地下1階 プラ ド エピスリー/フードステージ
ティーセレクションの月餅の断面例。(左)ペニンシュラブレンドティー(右)鉄観音。
サイズ:(ミニ)直径 約4.5cm × 高さ 2cm
※レギュラーサイズ 直径約7cmx高さ3.5cmの伝統的な蓮の実あんと塩漬け卵黄の月餅のご用意もあります。
表面意匠:半島(ペニンシュラ)
餡:アヒルの塩漬け卵黄を混ぜ込んだカスタード餡+茶葉
<ザ・ペニンシュラ>では「月餅」全般に合うドリンクとして、プーアル茶をおすすめしています。<ザ・ペニンシュラ>のプーアル茶は雲南省の厳選した茶葉を用いて7年間熟成。高貴で力強い味わいが濃厚な口当たりの月餅とよく合い、食べた後に口中をスッキリとさせてくれます。
香港では新たなフレーバー「月餅」が昨今のトレンド。今年の新作は〈ザ・ペニンシュラ〉を代表するブレンドティーを練りこんだペニンシュラブレンドティーエッグカスタードとソルティレモンやゴマと緑豆のフレーバー月餅です。
■四川料理店老舗の技あり月餅
<四川飯店×セゾンファクトリー>
<四川飯店×セゾンファクトリー>月餅(6個入)4,860円
左上から時計回りに 伍仁(ナッツ&フルーツ)、椰蓉(ココナッツ)、苺(いちご)、藍苺(ブルーベリー)、豆沙(あずき)、桃(もも)
※店頭販売期間:8月下旬頃より
※フードステージ販売期間:8月31日(水)〜9月6日(火)
伊勢丹本館地下1階 シェフズセレクション/フードステージ
サイズ:直径 約5.5cm × 高さ 2.5cm
表面意匠:四川飯店、セゾンファクトリーのブランドを象徴する2社のロゴ
餡:伍仁(ナッツ&フルーツ)・・・数種類のナッツとフルーツを合わせました
椰蓉(ココナッツ)・・・白餡ベースにココナッツミルク風味のココナッツ餡
苺(いちご)・・・白餡をベースにいちごジャムとドライフルーツを合わせたいちご餡
桃(もも)・・・白餡をベースにももジャムともものドライフルーツを合わせたもも餡
豆沙(あずき)・・・小豆使用の定番の黒餡
藍苺(ブルーベリー)・・・白餡ベースにブルーベリージャムとベリーのドライフルーツを合わせたブルーベリー餡
日本における四川料理の父、陳建民氏が日本で<四川飯店>を創業したのは1958年。その伝統的な料理と技術は3代目の陳建太郎氏に受け継がれています。四川料理を現代の食卓にもよりそうべく、日本の今の食材や調理法にも関心を寄せている陳建太郎氏と日本の四季をテーマにおいしいものにこだわり続ける<セゾンファクトリー>が、双方のもの作りの姿勢と食に対する思いに共鳴。伝統的中秋節に一家団らんの象徴である食文化の大切さを、もの作りを伝える2社によって誕生した月餅です。
コラボレーションした「月餅」でまず注目して欲しいのが皮の焼き色と食感。狐色の表皮は、糖蜜等を用いることでしっとりとした食感と香ばしさを出しています。生地は薄すぎず、餡の甘さのバランスを考え、仕上げております。<セゾンファクトリー>おすすめのジャムやドライフルーツの味わいを生かすため、餡のベースに採用したのは白餡です。フルーツの酸味や上品な甘さを活かし、年代問わず楽しんでいただける味わい。合わせるドリンクとしては、ジャスミン茶、ウーロン茶、紅茶などがおすすめだそうです。
■シグニチャーのパイナップル餡が自慢
<サニーヒルズ>
<サニーヒルズ>ムーンケーキ(6個入/パイン、りんご各3個)5,888円
※常設ショップはございません
※フードステージ販売期間:8月31日(水)〜9月6日(火)
伊勢丹新宿店本館地下1階 フードステージ
台湾生まれのパイナップルケーキを、今の人たちの食嗜好に見事にマッチさせた<サニーヒルズ>。台湾でも中国や香港同様、中秋節には友人や仕事の取引先などお世話になった方達に「月餅」を贈って感謝の意を伝える習慣があります。<サニーヒルズ>では、感謝の気持ちを包む「月餅」を自分たちらしくアレンジ。シグニチャーであるパイナップルと、日本の素晴らしいフルーツである紅玉りんごのジャムをバランスよく組み合わせることで、フルーツの魅力が掛け合わされた新しい月餅となりました。
サイズ:直径 約6.5㎝ × 高さ2.5㎝
(左)パイン(右)りんご
表面意匠:パイナップルの花とリンゴの花
餡:パイナップルジャムとカスタード、紅玉ジャムとさつまいもペースト
パイナップル餡は、まずは手作業で酸味が強く繊維質なのが特徴の台湾原種のパイナップルをひとつひとつ皮剥きし、煮詰めたものを数か月熟成させてできたもので、濃厚かつ甘酸っぱい風味は台湾で<サニーヒルズ>の名を一気に上げた傑作。このジャムにアヒルの塩漬け卵黄とカスタードの甘じょっぱさが加わり、新しいのにどこかホッとする懐かしさのある味わいになっています。紅玉りんごの月餅は、青森県産の紅玉の繊細な酸味としゃくしゃくとした食感を生かすために開発された独自製法で作られたジャムに、さつまいもの甘味を加えました。
繊細な彫り物のようなパイナップルとりんごの花の意匠も縁起物として現地で好まれています。
合わせる飲み物としては、パイナップルカスタード月餅にはウーロン茶、紅玉りんご月餅には紅茶が合うそうです。
甘くて重いスイーツという印象だった「月餅」が、近年自由に表現されていることが少しお分かりいただけたでしょうか。各社それぞれに餡の工夫、そして生地も餡とのバランスでボリュームや食感が工夫されています。餡の材料としては甘さだけではない酸味のあるフルーツが人気。そして独自のフレーバーを与える様々な食材がチャレンジされているようです。今年の中秋節は9月10日。いつものお月見団子に加えて、色々な月餅を食べ比べてみるのも楽しそうです。
Text: FOOD INDEX編集部
Photo:Yu Nakaniwa(<ザ・ペニンシュラ ブティック&カフェ><セゾンファクトリー>)