2023.3.25 UP
デパ地下は昔から大好きでした。たとえば中学生のころ。自分で高級レストランには行けなくても、デパ地下なら数百円で由緒あるお菓子が買えるじゃないですか。お饅頭とかを気になるお店でばーっと買って、友達と半分こして食べるのが楽しくて」
放課後はファストフード店よりデパ地下。幼少期から食べ物への好奇心をふくらませ、大学在学中に綴った食ブログを機に文筆活動を始めた平野紗季子さん。
「伊勢丹新宿店とご縁ができたのは、2014年に初めて本を出版したころ。当時から、少なくとも月に1度は食料品フロアへ足を運びます。催事のキュレーションなどがいつも興味深いのですが、特に<貝印>さんがやっている「キッチンステージ」が大好きなんです。なかなか予約が取れないような話題のレストランの味を、パスタなど気軽なひと皿で味わえてしまうのが本当にすごい。今週のシェフは誰かなって、いつも気になっています」
最もよく行くのは<中国飯店 富麗華>。伊勢丹新宿店では一流の味をお惣菜として買える。
「ミシュランの星も獲っている、安心と信頼の中国飯店グループ。そこのお惣菜が1パック単位で買えちゃうっていう驚きが、まずありますよね。食料品フロアに来たら、ほぼ毎回『黒チャーハン』を買って帰ります。お醤油をしっかり使って香ばしいところに、松の実が過剰なまでに入っていて、それでいて味が強すぎない。ほかのお店も見て回るのです
が、結局迷った挙げ句<中国飯店 富麗華>に来てしまいます。もはや、帰るべき港みたいな存在です(笑)」
<中国飯店 富麗華>「黒チャーハン 大」(1パック)972円
新宿店本館地下1階 旨の膳
東京・麻布十番にある本店の名物としても知られる、中国たまり醤油を使った黒い炒飯。牛挽肉と松の実、卵が入っておりコクがあるのにあっさりとした味わい。
豊かな表現力。そんな彼女のセンスを“味”で楽しめるのが、自ら監修する菓子ブランド<ノー・レーズン・サンドイッチ>。
「実はこの春、食料品フロアでポップアップストアを出店します。お店の周りにはなんと<ジャン=ポール・エヴァン>さんも。とても目立つ場所なので、今から緊張しています」
レーズンは苦手。でもバターサンドは食べてみたい…という思いから発想し、自社工房まで設立。以前は、自分が食品を“作る側”になるとは想像もしていなかったとか。
「そもそも本を出したときも、文筆家になりたくて食のブログを書いていたわけではなく、気づいたらそうなっていたようなところがあって。興味を持ったら、何でもやってみたくなるタイプなんだと思います」
大胆な行動力の源泉は、食への尽きない探究心。平野さんの冒険は、これからもまだまだ続く。
今回は都内にある<ノー・レーズン・サンドイッチ>の工房にお邪魔。ミーティングルームには平野さん私物の本や雑貨を陳列。
炒飯を盛った器は、作陶家・吉野千晴さんの作品。「<中国飯店 富麗華>の『黒酢豚』も大好き。『黒チャーハン』とセット買いして、勝手に“黒黒セット”と呼んでいます」
今年最初に販売したサンドは、平野さんたっての願いで実現した<トラヤあんスタンド>とのコラボだった。
和菓子が好きで、最も好きな食のジャンルも実は日本食だそう。歴史や風土に根ざした日本料理を学びたいという。
サンドのパッケージ。3月29日(水)からは伊勢丹新宿店の食料品フロアで、ポップアップストアを出店。
サンド菓子を持つぬいぐるみ(中央)は、作家・大嶺かすみさんの「マーニー」シリーズが大好きでオーダーしたという。
保育社のカラーブックスから文庫本まで、収集した食に関する本の中でも、「スタッフに読んでもらいたいもの」を置く。
海外のアートな大型本と、お気に入りのポットを配置。
平野紗季子
フードエッセイスト
幼少期から食日記を記録。著書は『生まれた時からアルデンテ』(平凡社)、『味な店 完全版』(マガジンハウス)など。ラジオ/Podcast番組「味な副音声」(J-WAVE)にも出演。代表を務める<ノー・レーズン・サンドイッチ>は洋菓子エリアにて1週間出店。3種の春味が登場する予定。
写真 太田隆生
取材・文 小堀真子