2023.9.14 UP
知る人ぞ、知る。伊勢丹新宿店のルーフトップでは、試行錯誤を重ねながらかれこれ2年間養蜂が行われてきました。このプロジェクト「MIEL ISETAN SHINJUKU©︎」は、伊勢丹新宿店と新宿区障害者福祉事業所等ネットワーク「しんじゅQuality」がタッグを組んで実現しました。新宿育ちのミツバチたちが集めてきた花蜜は、ハチミツとしてはもちろん、スイーツや飲料など様々な形の商品として発表されてきました。新宿という街のネットワークからクリエイティブな活動を行ってきたこのプロジェクトもいよいよ3年目。今年は伊勢丹新宿店の新宿出店90周年(伊勢丹創業は神田)でもあり、ますます力が入ります。
今年の秋、新たにリリースされるのはクラフトビール。しかも、日本ではまだまだ馴染みがありませんが、海外ではひとつのカテゴリーとして認知されているハニービールです。コラボレーションしたのは、クラフトハニービールを専門に醸造する日本で初めてのブリュワリー<ハニカム&ホップワークス>です。
新宿区上落合の住宅街の中にできたブリュワリー<ハニカム&ホップワークス>は、築70年を超える古民家を改造したレトロなスペースに、ビールの醸造所とタップルームも備えています。
伊勢丹新宿店からバスで約10分。最寄りのバス停は上落合一丁目。電車の場合は、大江戸線中井駅、東京メトロ東西線落合駅、JR総武線東中野駅の3駅が徒歩圏内。
ハニービールを用いたフードメニューなども味わうことができる店内。
同社の代表で、ヘッドブリュワー(醸造責任者)でもある木下祐斗さんがハニービールに出合ったのは、前職のT.Yハーバー ブリュワリー時代でした。その時のヘッドブリュワーの造るハニービールの美味しさに開眼した木下さんは、ある時からハニービール醸造担当に任命されます。年に1〜2回、木下さん自身が新作のハニービールのレシピを開発することになったのです。
「ハニービールを醸造するようになって、ハチミツの面白さにも気づきました。世界には千種類以上ものハチミツがあります。クラフトビールにする場合、それだけ原料としての選択肢、幅が広いということです。ハニービールというと、とても甘い味を想像するかもしれませんが、私たちが造るハニービールは実は逆なんですね。ハチミツの糖分は酵母が分解するので、香りにはハチミツ由来の甘さがありますが、味わいはすっきり。ビールの主原料である麦芽糖よりも、むしろさっぱりしていると思います。そのギャップが面白いし、もっと多くの人にハニービールを知って欲しいんですよね」
海外では一つのカテゴリーとして認知されているハニービール。歴史の古いのはヨーロッパですが、近年、新進国の米国やカナダでは、ハチミツと相性の良いフルーツやスパイス、野菜といった副材料を加えた個性的なレシピが人気です。木下さんが取り組むのも、まさにそういった新しいハニービールです。
醸造所を訪れた日は、ちょうど「MIEL ISETAN SHINJUKU©︎」ハチミツでビールを仕込む日でした。今回のハニービールプロジェクトのために準備されたのは約5kgのハチミツ。それにしても、なぜ、木下さんと「MIEL ISETAN SHINJUKU©︎」は繋がったのでしょうか。きっかけは、毎年行われている中央線沿線のビアフェスタで伊勢丹新宿店のバイヤー長谷川豊康が木下さんに声をかけたことからでした。しかし、その時はまだ商品化の話にまでは至りませんでした。
その後、伊勢丹新宿店で販売されていた海外のハチミツブランドが木下さんとコラボ。木下さんが醸造したハニービールが商品化されました。そして、この度新宿開業90周年という機会に、新宿地区をクローズアップした商品企画の話が立ち上がり、同じ新宿区でビール醸造を行う<ハニカム&ホップワークス>と伊勢丹新宿店とのコラボレーションが実現することのなったのです。
今回の企画を仕掛けたバイヤーの長谷川は「伊勢丹新宿店らしいハニービールをどこかのタイミングで造りたいと思っていました。今回の90周年は良いタイミング。今年2月に伊勢丹新宿店のクラフトビアバーをオープンしたのですが、バーの利用者は実は女性のお客様が多いのです。百貨店という場所柄、ビールマニアだけでなく、より多くの方に楽しんでもらえるビールを紹介したい。「MIEL ISETAN SHINJUKU©︎」はハチミツの香りも味わいも繊細なので、アルコール度数も抑えて、女性やクラフトビールの入門者にも楽しんでもらえるものが造れないだろうかと木下さんに相談しました」と話します。
オファーを受けた木下さんは「新宿で作られたハチミツを試食させてもらいました。とても気品のある繊細なアロマだなと思い、これを生かした設計にしようと思いました。ビールのレシピでは、麦芽とホップの味・香りをベースに副材料(今回のハチミツやスパイスなど)と合わせた場合の味の設計をするわけですが、麦芽やホップが強すぎるとせっかくのハチミツの風味に勝ってしまう。「MIEL ISETAN SHINJUKU©︎」の持つフラワリーなアロマを生かすホップを選択し、苦味も抑えめにしようと思いました」。
新宿で活動するミツバチたちは、季節によって様々な花蜜を集めますが、中でも特徴的なのが春の桜やユリといった花々です。
<ハニカム&ホップワークス>代表でヘッドブリュワーの木下祐斗さん(左)とバイヤーの長谷川豊康さん(右)。今回の商品企画について対話を重ねてきた二人。
やがて店内に、麦汁の甘い香りが立ち込めてきました。「そろそろハチミツを投入しますね」と木下さんが、醸造所と移動。まずは、風味を引き立てるアロマホップを投入します。今回のビールに選んだのは、ゼラニウムやグレープフルーツのようなニュアンスのある米国産のホップ」。その後、何度も温度を確認しながら、5Lのハチミツを一気に麦汁の中に注いでいきます。
ホップは主に苦味を利かせるタイプとアロマをつけるタイプがあり、両方を利用。ホップは粉状に粉砕して圧搾し、タブレット型にしたペレットで流通するものが多い。苦味や香りの他に、殺菌性を高めたり、泡もちをよくしたりする役割もある。
タンクごとに温度管理されている。ハチミツの投入は煮沸後に温度調整を行い一気に行われた。
「ハチミツは単糖類。二糖類や三糖類の糖類と比べてゆっくりと発酵が進み、仕上がりはさっぱりした味わいの傾向になります。ハニービールの場合、ハチミツの糖が入るので麦芽の量は減らします」(木下さん)タイプの違う糖を合わせると、糖の調整は難しくなる。
この後、加水、そして酵母を加えるとアルコール発酵が始まります。ハニービールは、後半から発酵速度が落ちて、麦芽中心のビールよりも発酵に時間がかかるそうです。香りが豊かなビールなので、冷やしすぎず、8〜10℃が適温。ワインのような楽しみ方もできそうです。
「アルコール度数は5〜6度の予定です。少し低めの方が繊細な香りとのバランスが良いと思うので。ビールの苦味が苦手、クセの強いクラフトビールが苦手というような方達にも飲んでいただきたいビールになると思います」と木下さんが言えば「炭酸も抑えめなので、口の中でゆっくり含み、香りを楽しめます」と長谷川さん。二人が同じ方向性のビールを目指してきたことが対話から伺えます。発酵前のハチミツ入りの麦汁を試飲させてもらいました。
発酵前の麦汁。黄金色。
なるほど。まだ発酵前ではありますが、ホップの苦味とハチミツの甘味が互いを譲歩するように、甘くもあり苦くもある、ですが実に心地よい塩梅。酸味もあるのでこのまま煮詰めたら、肉料理のおいしいソースになりそうです。
エチケットのデザインも特長的。近所のギャラリーと組み、新進デザイナーの作品発表の場でもある。
今回のハニービールが出来上がるのは約1週間後。発売後は、イセタンクラフトビールバーに木下さんも登場される日があるそうなので、これを機会にハニービールの扉を開けてみてください。
bouquet(1本/330ml)962円
販売期間:9月27日(水)~10月3日(火)
新宿はちみつ自体に「花のような気品のある香り」を感じ、飲み手に花を連想させるような印象があることと、この度伊勢丹が90周年という節目の年なので、お祝いという意味も込めて「花束」の意味であるbouquetに。また、bouquetの「qu」の箇所を90周年に因んで90に見えるようデザインにも拘りました。
「MIEL ISETAN SHINJUKU©︎」の繊細でフラワリーな香りを生かした、アルコール度数低め(5~6%)、優しい炭酸でクラフトビール入門者からマニアの方まで幅広く楽しんでいただける味の設計です。
【イセタンクラフトビアバーにて有料試飲も開催】
・伊勢丹新宿店 本館地下1階 和酒・粋の座 イセタンクラフトビアバー
・営業時間:午後3時~午後8時(午後7時30分ラストオーダー)
Text : FOOD INDEX編集部
Photo : Yu Nakaniwa