おいしさを創る。おいしさを届ける。

2023.12.1UP

雪解け水の清流に恵まれた中山間地、新潟県東部の奥阿賀で挑む米作り。秋の実りを迎えた<越後ファーム>の棚田を訪ねた。

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左から、越後ファーム株式会社<お米場 田心>伊勢丹新宿店 店長・秋山 舞さん、伊勢丹新宿店 生鮮・グローサリーアシスタントバイヤー・頼 豪志さん、越後ファーム株式会社CEO・近正宏光さん

毎日の“ 観察” がいい米を育む。 どこで、誰が、どんなふうに育てたか。その積み重ねにおいしさの本質がある。

店頭精米する量り売り玄米が好評を博す<お米場 田心>。

農業生産法人<越後ファーム>が手がける同店には、自社生産米を中心に、日本各地から個性豊かな米が集まってくる。「私たちは、こだわりある生産者と“農家の言葉”で話すことができます。そこに、当社が全国の希少な米をお届けできる理由があると思っています」。そう語るのは、店長の秋山舞さん。間もなく収穫を迎えるという彼らの田んぼへ、その“言葉”を探しに行った。

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<お米場 田心>雪蔵今摺米 特別栽培 新潟県奥阿賀産 こしひかり(5㎏)5,703円

伊勢丹新宿店 本館地下1階 シェフズセレクション

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<お米場 田心>新潟県上越産 天日干し特別栽培米 雪蔵こしひかり(1㎏)1,318円

伊勢丹新宿店 本館地下1階 シェフズセレクション

新潟市から東へ車で約90分。狐の嫁入り行列で知られる津川を経て、阿賀町の最奥、通称・奥阿賀へ。冬は深い雪に閉ざされ、山の雪解け水が江戸の昔から豊かな棚田を育む中山間地だ。「当社は17年前、奥阿賀の平瀬(びょうぜ)地区で3反の田んぼから始めた会社です」。CEOの近正宏光さんは、以前勤めていた会社の事業拡大に伴い就農。新潟出身だが農業は未経験だった。「田んぼを借りようにも、新規就農の余所者なんて門前払い。県内で唯一話を聞いてくれたのが、わずかな高齢者が暮らす平瀬集落のお爺さんでした」。預かったのは山間の荒れた棚田。幾人かの仲間を募り、1年目の稲を実らせたとき、集落から「うちの田んぼも貸したい」と声が上がった。経験を重ねながら、奥阿賀米の味の良さに確信を持つようになる。

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水沢地区近辺の清らかな沢。現在は阿賀町内の5カ所で、計20ヘクタールの田んぼを手がける。

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中村地区の棚田で育てる「ミルキークイーン」。

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阿賀町の伝統行事に用いる“鍾馗様”を祀る。

「山なので寒暖差が激しく、真夏でも朝晩は冷え込みます。人間と同じで稲もぐっすり眠れるのか、澱粉を溜め込んでおいしくなるんですよ」。そう教えてくれた生産責任者の若月豊和さんは、毎日のように田んぼを観察し世話している。同社では、棚田の環境を守るべく農薬や除草剤も極力使わない。元の土壌が肥沃ゆえ、肥料を与えすぎてもいけないとか。加えて、近正さんは言う。「かつて田んぼを探して新潟中を回っていたとき、あるご高齢の生産者の言葉に感銘を受けました。『俺の作った米は、親族以外においしいと言われたことがねぇ』と。どんなに丹精込めて作ったコシヒカリも、一般的な流通に乗ったらよその米と同じ扱い。自分で米作りをして初めて、その思いがわかったんです」。奥阿賀の米を自分たちの手で広めたい。しかし、おいしいだけの米ならほかにもある。そこで思いついたのが米のモミ貯蔵だ。モミのまま貯蔵した米は鮮度を長く保てる。いわば新米のぴちぴち感とひね米の旨みのいいとこ取り。

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年中15℃に保たれる玄米の倉庫。<お米場 田心>で店頭精米する量り売り玄米はここに貯蔵。全国の生産者から大切に預かった米がひしめく。

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籾の貯蔵庫は常時5度。「雪蔵今摺米」はここで生まれる。

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籾の体積は白米の約2倍。貯蔵量は限られるが、米を鮮度高く保てる。

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精米しながら傷んだ米や異物も除去。精米機は米の種類ごとに必ず清掃。

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工場の各作業場は壁で区切り異物混入を防ぐ。

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昔ながらの米袋は人の手で梱包。頼もチャレンジした。

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「空気を抜きながら手早く包むのは難しい。経験が必要ですね」

そして奥阿賀米ならではの付加価値として、10年前から雪蔵貯蔵も始めた。雪で作る天然の冷蔵庫は、隅々まで均等に冷気が届き、雪が発する湿気が米の水分量を適度に保つ。5℃の貯蔵庫でモミに触れたアシスタントバイヤー・頼 豪志は、そのずっしりとした重みに感嘆した。「モミ貯蔵は、<越後ファーム>さん以外での導入例を知りません。米作りの背景も含め、この手間暇から生まれる価値を店頭でいかにお客さまへお伝えできるか。それが我々の役割だと思っています」

かくして生まれた「雪蔵今摺米」は、<越後ファーム>の看板商品に。次第に全国の優れた米の買い付けも行うようになり、現在に至る。味が落ちにくい雪蔵貯蔵は、各地の熱心な生産者に喜ばれているとか。

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断熱構造の倉庫内に大量の雪を積んだ雪蔵。米を貯蔵する各庫へ一年中冷気が届けられ、電力の消費も抑えられる。

 

「今年の夏は気温が高くて、米作りには厳しい気候でした。でも、こういう年ほど作り手の腕が味に出ます。米農家をやっているなら、本当は誰だって『俺の米はうまい』と言いたいんですよ。我々がお届けしたいのは、そういう米なんです」と近正さん。本物の“農家の言葉”が伝わってくる今年の新米たちを、どうぞお楽しみに。

 

写真:内藤雅子

取材・文:小堀真子

 

 

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