2024.10.7 UP
左から、<セゾンファクトリー>開発室 チーフマネージャー・村上千鶴子さん、伊勢丹新宿店生鮮・グローサリーアシスタントバイヤー・新夕温子さん、<セゾンファクトリー>SHOP運営グループマネージャー兼伊勢丹新宿店店長・髙橋信晴さん。
日本海に浮かぶ佐渡島の南端。たらい舟が有名な港町の小木地区に、“黒いダイヤ”と称される香り高い果物がある。特徴は濃い紫色の皮。果肉をかじると蜜のような甘みと爽やかな酸味が感じられる。ビオレ・ソリエスという、フランス生まれの黒いちじくだ。栽培が難しく、その希少性から幻のいちじくとも呼ばれる。小木地区で収穫される「おぎビオレー」もまた、大半が地元の直売所や島外の高級レストランなどに卸される。
ビニールハウスで育つ「おぎビオレー」。完熟すると糖度は20度にもなる。
夏は緑、冬は雪景色が広がる本社工場。近隣には段々畑があり米の名産地でもある。
秋に<セゾンファクトリー>から届く「I.SPEC 黒いちじくのコンポート」は、その貴重な「おぎビオレー」を果実丸ごと使った伊勢丹新宿店の限定商品。熟した黒いちじくを崩さぬよう、小さな鍋に赤ワインを入れてゆっくりと煮込み、砂糖とレモンピール、シナモン、クローブを加えて甘さと香りを引き立てる。出来上がったコンポートはスタッフの手作業でひとつずつ瓶詰め。今回はシーズン前のため開発室での撮影となったが、実際の製造現場の工程もほぼ同じだ。まるで果物農家の台所のような、温もりを感じる光景がそこにあった。
皮が破れやすいため、人の手でやさしく洗浄する。
開発室で製造工程を再現。爽やかなスパイスを加えて煮詰める。
煮詰めすぎないのが形を保つコツ。製品は瓶詰めにして風味を守る。
すべての製品はここで試作を重ね、素材の魅力を最大限に引き出す。
「当社の製造ラインの特徴は、少量多品種。ジャムもドレッシングも、基本的には家庭のキッチンと同じようなプロセスで、職人たちが毎日ハンドメイドしています」。そう教えてくれたのは、山形県・高畠町にある本社の常務取締役、小住朋彰さんだ。各地の旬の果物を使用したジャムやデザート、味の濃い地物野菜を使ったドレッシングなどでおなじみの<セゾンファクトリー>は1988年に同地で創業した。山の麓にある本社工場には、幼い頃から山形のおいしい米や果物を食べて育ってきた地元出身者が数多く勤務する。
伊勢丹新宿店の限定商品「I.SPEC白い人参ドレッシング」の主原料・白人参と出来たての同ドレッシング。
原材料をひとつずつ加えて、丁寧に作り上げる。
ドレッシングに使う生茎わさび。すべての野菜は人の手で洗浄・カットされている。
「私も山形の生まれ。もともと農産物や食育に興味があって入社しました」と語るのが、今回の商品を開発した村上千鶴子さん。果物を使った商品の開発担当で、福岡県産のあまおうを使った同社一番人気のいちごジャムを手がけたのも村上さんだ。
「生食用いちごをどうしても使用したくて、生産者さんとの交渉を含め商品化まで約3年かかりました」。果物の魅力を最大限に活かした果肉感、香り、みずみずしさが際立つもの作りは、同社の得意とするところ。ギフト需要も高い高品質の決め手は、各担当部門の連携プレーにあるという。第一に、全国の優れた生産者と繋がる原料調達担当の目利きとコミュニケーション力。良質な素材の味を引き出す商品開発力。そして、少量多品種のハンドメイド。原料の野菜や果物は、その日使うぶんだけ人の手でカットし、職人が釜やミキサーで調理する。「大きな機械がなくて、想像していたよりも製造スペースがコンパクトです。それぞれの製造のプロが品質や鮮度を見極めながら作り上げていく流れに、加工技術の高さを感じました」と、アシスタントバイヤーの新夕温子。
八丈島産レモンを下処理。
開発室でドリンクを味見。村上さんを囲んで、右は原料の買い付け担当の白幡樹弘さん、左は“味の番人”と称される開発室の長谷部祐人さん。
「黒いちじくのコンポート」は伊勢丹新宿店のみで販売される「I.SPEC(アイスペック)」シリーズの商品で、同シリーズでは希少な果物や野菜がしばしば使用される。商品を届ける最後のプロフェッショナル・店長の髙橋信晴さんも、その味には自信を持っているようだ。「伊勢丹新宿店のお客さまは、背景のストーリーまで興味を持って商品を選んでくださる方が多い。一般にはなかなか出回らない佐渡島の黒いちじくは、そんなお客さまにこそ召しあがっていただきたいんです」。
コンポートは冷やして食べてもいいし、生ハムを巻けばワインのお供にもなる。今年の秋の味覚リストに、ぜひ加えておきたい。
<セゾンファクトリー>I.SPEC 黒いちじくのコンポート(270g)3,240円【伊勢丹新宿店限定】
本館地下1階 シェフズセレクション
写真:太田隆生
取材・文:小堀真子