フィンランド・ヘルシンキで1852年に創業のベーカリーカフェ<Ekberg(エクベリ)※以下エクベリ
>。ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソンも愛したことで知られるこのカフェが、北欧のカフェ文化を日本に届けます。
フィンランド国民にとって特別なベーカリーカフェの歴史
日本人にとっては親しみのある北欧の国、フィンランド。観光でも人気が高く、首都・ヘルシンキの美しい並木道に佇むベーカリーカフェ<エクベリ>は、訪問先として人気のある目的地の一つです。店は朝早くから地元の人々で賑わい、慌ただしい朝食の時間が終わると、午後はカフェをゆっくりと楽しむ人々が続きます。通りに面した大きな窓越しに、いつも活気ある店内の様子が見てとれます。
<エクベリ>本店の外観。1940年、三代目のラーシュ・エクベリがウィンドウディスプレーを一新
店舗の内装は昔のデザインを継承している
<エクベリ>の始まりは1852年、元時計職人であったフレデリック・エクベリが約10年のパン修業を経て開業したベーカリー。その後カフェをオープンし、1860年代後半、フィンランドが大飢饉に見舞われた時には蒸溜所も開設して徐々に事業を拡大。1915年に現在の場所・ブレヴァルディ9番地へと移転しました。ロシア帝国の支配下にあったフィンランドは、1917年にようやく独立。<エクベリ>は、苦難の時代も、幸せな時代も、常に人々のささやかな幸せを支えてきたフィンランドの人々にとって特別なカフェです。
往時の外観と内観。クラシックな雰囲気が今もに引き継がれてるのがわかる
<エクベリ>は国内の常連客のみならず、海外の観光客もまた温かく迎えてきました。このカフェベーカリーを訪れた多くの日本人がファンとなり、やがて北欧展などの催事で日本へも招かれるように。その度に熱い歓迎を受け、日本で北欧のカフェ文化を伝えることが<エクベリ>の夢の一つになりました。
伊勢丹新宿店からフィンランドのカフェタイムを提案
その夢が、伊勢丹新宿店の洋菓子エリアのリフレッシュオープンを機に実現。きっかけは、洋菓子担当で今回の改装を牽引する弓納持清美バイヤーからの一通のメールでした。弓納持バイヤーは以前、日本で行われた<エクベリ>の製パン講座に参加し、その時に試食した「コルヴァプースティ」(シナモンロール)の味が忘れられなかったといいます。
「伊勢丹新宿店では、北欧菓子の店<Fika(フィーカ)>も親しまれ、北欧デザインも愛されているなど、北欧ファンのお客さまが根強くいらっしゃいます。<エクベリ>が催事で来日した時にもファンの厚みを実感しました。フィンランドの老舗カフェが本場のカフェ文化を伝えるショップができたら、今回のリモデルで大切にしたいと考えている“各国の食文化やその精神性を伝えること”が体現できるのではないかと思いました」(弓納持バイヤー)
3月某日、この日はフィンランドからエクベリ・ファミリー五代目でとして経営に携わるマーティン・チャクジックさん、オペレーション・ディレクターを務めるサイラ・ヴオリさん、シェフベイカーのハネス・トッピさんが来日し、レシピやベイクの指導にあたっていました。
<エクベリ>のファミリーを代表して来日したマーティン・チャクジックさん(中央)、ディレクターのサイラ・ヴオリさん(右)とベイカーのハネス・トッピさん(左)
<エクベリ>のシグネチャー「コルヴァプースティ」の試食では一同真剣な表情。ディスカッションを終えて和やかな笑顔が戻りました。
ミーティングの様子。日本での製造を担うメトロ製菓株式会社代表の両角幸寛(もろずみさちひろ)さん(左)と弓納持バイヤー(右)
マーティン・チャクジックさんに、<エクベリ>の名前の由来や同社のシナモンロールの特徴を伺いました。
「”Ekberg”は、スウェーデン語でEk=Oak(樫の木)、Berg=Mountain(山)という意味です。フィンランドはロシアの 支配下になる前、約600年にわたりスウェーデンの一部でした。文化的な繋がりが強く食文化にも共通点があります。シナモンロールもその一つですが、フィンランド独立後は独自性を求め、『コルヴァプースティ』(平手打ちでつぶれた耳)という名の、耳の形をしたデザインが定着しました。渦巻き状のシナモンロールはアメリカンスタイル、ねじり巻き型のシナモンロールはスウェーデンスタイルで、コルヴァプースティの形はフィンランドにとって大事なデザインです。そして<エクベリ>のシナモンロールの特徴は、バターをたっぷりと使うこと。バターと同じくカルダモンやシナモンといったスパイス、砂糖の品質・種類も重視します。」
「コルヴァプースティ」の成型。うまく潰すには力、特に親指の力の入れ方にコツがある。同じ形に仕上げるのは熟練の技
焼き上がったばかりの「コルヴァプースティ」
焼きたてのコルヴァプースティからは、小麦とシナモンの芳香が立ち上がり、割ったとたんにカルダモンの清々しい香りに包まれます。フィンランドの人たちは、カルダモンをこよなく愛しています。国民食ともいえるシナモンロールは、スーパーでも手軽に買うことができますが、<エクベリ>のシナモンロールは、素材と技術に支えられた品格があります。マーティンさんが続けます。
「フィンランドでは、コーヒーとプッラ(甘いパン)というのは絶対にセットです。アメリカのハンバーガーとポテトみたいにいつも一緒。これはぜひ日本のお客さまにも体験していただきたいですね」
この日もコーヒーと一緒に。続いて供されたのが、パンの中央の“おへそ”のようなくぼみにバターを落として焼いた「ヴォイシルマプッラ」(フィンランド語で「バターの目玉パン」)です。焼き上がり直後に割るとバターが流れ出してしまうので、少し温度が落ち着いてバターがやや固まってきたら食べごろです。好みの“瞬間”を見つけるのも楽しみの一つ。こちらもカルダモンの香りがしっかりします。
焼きたての「ヴォイシルマプッラ」。中央のくぼみに黄金色のバターの海が輝く。通称“バターの目玉パン
左からエクベリ・ファミリー5代目のマーク・エクベリさん、4代目のマイレン・エクベリさん、5代目のニナ・エクベリ=チャクジックさん、5代目のマーティン・チャクジックさん
エクベリ・ファミリーは、長い歴史の中で常にオープンマインドかつ創造的であり続けてきました。フィンランドを代表として食文化を伝えるべく自ら外に出る一方、赴いた先の土地の文化にも寛容で、そこから得るインスピレーションが自分たちの新たな力になると語ります。日本での出店を心から楽しみにしてきた<エクベリ>。北欧と日本の新たな絆が、新宿から生まれようとしています。
コルヴァプースティ(1個/日本製)540円【伊勢丹新宿店限定】
フィンランドのシナモンロール。潰れたような耳の形がフィンランドのシナモンロールの特徴。カルダモンの香る生地にたっぷりのシナモンがまぶされている。選び抜いた素材と引き継がれた技術で上品な仕上がり。
ヴォイシルマプッラ(1個/日本製)486円【伊勢丹新宿店限定】
パンの中央にはバターがたっぷり。フィンランドの代表的なプッラの一つ。カルダモンとバターのコクがたまらない組み合わせ
他にもフィンランドの食文化に欠かせないシーズナルな商品も準備中とのこと。北欧好きな人には待ち遠しいですね。
Text : ISETAN FOOD INDEX 編集部
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