2024.9.13 UP
1998年、日本の洋菓子界に変革を与え、“パティシエ”ブームを根付かせた<ピエール・エルメ・パリ>上陸のニュース。すでにフランスで<ラデュレ>のシェフ・パティシエとして成功をおさめ、世界中から注目を集めていたエルメ氏が、一号店の場所として選んだのは、ホテルニューオータニの一角であった。
21世紀を代表するパティシエ、ピエール・エルメ氏。フランス・アルザスで4代続くパティシエの家に生まれ、14歳からルノートル、フォションで修業。1998年<ピエール・エルメ・パリ>の第1号店をオープン。パリをはじめ世界50店舗、日本国内17店舗を有する。創業25周年を機に、植物性素材を使った新レシピによる「Pâtisserie végétale」を考案。冷凍スイーツ開発など、SDGsな選択肢を広げている。
日本ではクラシカルなスタイルを踏襲した技術先行のパティスリーが多く見られた時代に、独自のセンスを加えて、クリエイティブな菓子を創出したエルメ氏。
「菓子作りで一番大切にしていることは、“味覚の喜び”です。作りたい菓子を追い求め、そのための素材選びに決して妥協をしない。素材がもつ甘み、酸味、苦みなど本来の風味や香りを最大限活かし、いわば調香師のように、香りと風味のオリジナルな組み合わせを考案するのです。それは数ヶ月間、ときには数年間かけて探求し続けることもあります。また、過度に飾り立てていた旧来の装飾も思い切って廃しました。例えば、チョコレートのタルトにいちごを乗せるなど、“味覚”と関係のない装飾はしません」
そうしたエルメ氏のクリエーションが生み出した、世界中で愛される唯一無二の味わいが、バラ、フランボワーズ、ライチの組み合わせが見事な「イスパハン」である。
「イスパハン」を構成するバラ、フランボワーズ、ライチ
この独創的な組み合わせが生まれたのは、旅先のブルガリアで、バラの花びらを多用する料理と出合ったのがきっかけ。エルメ氏は1987年、バラの風味とフランボワーズを組み合わせたスイーツ「パラディ」を生み出した。
「バラは当時、前衛的なフレーバーだったので、好評だったのは一部の冒険心に富んだスイーツファンのみでしたが、愛着のある組み合わせだったので、いつか復活させたいと改良を重ねました」
その後、10年という歳月をかけて、フランボワーズとバラの香りの組み合わせを探求していたエルメ氏は、ライチの香りの中にバラに似た風味があることを発見。バラとフランボワーズにエキゾチックなライチを加えることで、1997年「イスパハン」という完璧なハーモニーが誕生した。
現在では、アンディヴィデュエル(一人用生ケーキ)に始まり、アントルメ、アイスクリーム、サブレなどさまざまな形に「イスパハン」が応用されている。エルメ氏のクリエーションの象徴的な作品として、「イスパハン」アンディヴィデュエルを紹介しよう。
バラとフランボワーズの芳香に呼応するライチのアロマが、力強い甘酸っぱさのコントラストを際立たせる、一度味わったら忘れられない独創的な風味だ。
イスパハン(アンディヴィデュエル) 日本製(1個)1,188円
イスパハン(アンディヴィデュエル)(日本製/1個)1,188円
“味覚の喜び”に加えて特筆すべきは、その多様な食感の妙だ。ふんわりさくさくのマカロンコックが、なめらかなバラのクリームや、フレッシュなフランボワーズ、フルーティーなライチをサンドする。
(左)マカロンコックのテクスチャーを調整する、マカロナージュの工程
(右)天板に均一の大きさに絞り出し、トントンと天板に振動を与えることでちょうどよい大きさに広げ、乾かしてから、オーブンで焼成
(左)マカロンコックにバラのクリームを絞り、フランボワーズで円を描く
(右)中央にライチを乗せ、さらにバラのクリームを重ねていく
なかでもエルメ氏が苦心したのが、色が変わりやすいフランボワーズや水気の多いライチだ。
「毎日、鮮度の高いフランボワーズを選別するのはもちろん、マカロンコックのさくさく感を損なわずにライチやフランボワーズをうまく扱うのは、並大抵のことではありません。けれども、3つの風味は互いによくマッチして、素晴らしい効果を発揮するに違いないと信じていたので、ひるまずに挑戦したのです」
(左)食用バラの花びらとフランボワーズ、ロゴを飾る
(右)仕上げにナパージュでしずくを表現
さらに、仕上げてから寝かせることで、素材同士がしっくり馴染み、さくさく感、ふんわり感、しっとり感がバランスよく共存するという。
食べ進めてみると、うっとりするほど甘美なバラのクリームはライチと共鳴し、フランボワーズとライチのフレッシュな甘酸っぱさを際立たせる。エルメ氏が「一生に一度は食べてもらいたい味覚」と話すとおり、まさに“味覚の喜び”そのものといえるだろう。
イスパハン以外にも、マカロンのバラエティが楽しめる詰合わせ、サブレ、ケークなど、定番菓子にも<ピエール・エルメ・パリ>ならではのクリエイティビティを堪能できるはずだ。
マカロン詰合わせ(日本製/10個入)4,266円
ふっくら盛り上がったマカロンコックのさくさくとした食感と、たっぷり入った中身が特徴。フレーバーは常時10種類を揃え、季節ごとに変わるフレーバーも魅力。『マカロンデー』期間中は、20種類を展開する。“どこまでも限りなく”ひとつの素材を追求した「アンフィニマン」をはじめ、“好きでたまらない”「フェティッシュ」、庭園を散策するかのような「ジャルダン」シリーズなどがある。
サブレ詰合わせ(日本製/1缶)3,780円
厳選した素材を使用し、丁寧に焼きあげた風味豊かなサブレ。香り高いヘーゼルナッツ入りメレンゲの「クロック ノワゼット」、ハチミツ風味ヌガティーヌとフルーティなオレンジコンフィの「フロランタン」、ワインやシャンパンと好相性の「サブレ パルメザン」など、サクサクした歯ざわりと口いっぱいに広がる芳醇な香りが魅力。
アソリュティマン ド ショコラ(日本製/8個入)4,320円
魅惑的な煌めきや、まろやかな味わい、力強いフレーバーを堪能できるショコラを、フラワーアーティスト東信さんのアレンジメントを施したBOXに。新作「アーリア」やスペシャリテの「イスパハン」など、口の中でソフトにとろけるショコラを心ゆくまで味わって。
ケーク オ フリュイ(日本製/1個)1,998円
ドライフルーツをふんだんに使用した豊かな味わいと、ラム酒の香りが広がるパウンドケーキ。柔らかなパウンドケーキにさまざまなドライフルーツのテクスチャーが加わり、食感も楽しめる一品。
Text : Aki Fujii
Photo : Yuko Moriyama,Yuya Wada