<銀座アスター>定番中の定番が勢揃い。 日本育ちの本格中国料理の歴史。

2024.9.13 UP

餃子、炒飯、焼きそば、麻婆豆腐に肉団子。町中華の定番は昭和から愛されてきたメニューが多い。中国本国をリスペクトしながら、日本独自の道を歩んできた日本式中国料理。その礎に貢献したのが、日本発の本格中国料理<銀座アスター>だ。

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事業センス抜群の創業者が始めた、メイド・イン・ジャパンの中国料理。

<銀座アスター>の創業者は矢谷彦七氏(1888年〜1967年)という実業家である。アスターという響きのためか、中国生まれのブランドだと考えている人も多いだろう。実際、アスターとは矢谷が憧れた上海の高級ホテル、アスターハウスホテルに由来する。貨物船事業に従事していた矢谷は早くから海外の食文化に目を向け、独立してバター輸入業で大成功を収めた。次に着目したのが中国料理でもアメリカ経由のモダンチャイニーズ「チャプスイ」。創業は昭和元年だ。当時の銀座は、洋食レストランやカフェーなどが軒を連ねていたが、中国料理店がなかった。そこに矢谷氏は注目したのだ。

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(左)創業者の矢谷彦七。起業家として大成功をおさめた。(右)ハイカラな様子が当時の写真からもうかがえる創業時の様子。

創業当時、日本と中国の国交はなかった。<銀座アスター>が中国本場に目を向けたのは矢谷氏の娘、太田喜久子の存在が大きい。日中国交正常化(1972年)の約10年前に会社幹部を中国現地の料理視察に送り込み、四川、上海、香港などの名店と言われる店での研修を実施したのだ。また、<銀座アスター>名物だったシューマイの運搬車を宣伝カーとして走らせ、人気キャラクターのアスターちゃんも生み出した。ブランド認知は広がり、百貨店に持ち帰りの販売店を展開したのもこの頃だった。

 

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チャイナドレスのマスコット、アスターちゃんの発案も太田喜久子によるもの。現在もコレクターズアイテムとして人気がある。

本場中国に学ぶ姿勢がさらに深化したのが三代目、太田芳雄氏の時代だ。この頃には日中の国交が回復。中国各地の「名菜」と呼ばれる名物料理を徹底的に現地で習得した。そして本場に学び、自社のメニュー開発までを一連の教育システムとして定着させた。中国人オーナーの中国料理店とはまた一味違い、日本人の味覚感覚と照らし合わせ、本国メニューとの折衷の末に生まれた<銀座アスター>式名菜は、教育システムと共に伝承されていった。戦後、日本の町に増えた中華料理を供する個人店の子息らも<銀座アスター>への入社を希望し、同社は彼らにも門戸を開いた。やがて独立、後継者となって会社を離れることになったとしても、彼らにとっての学舎であり<銀座アスター>の味は奥底に根づいていったのだ。

名物中の名物「肉団子の甘酢餡かけ」

<銀座アスター>の名物料理は数多いが、伊勢丹新宿店店舗のスタッフが迷わずこれというのが「肉団子の甘酢餡かけ」だ。持ち帰り惣菜として、お酒のおつまみとして、そしてお弁当の一品として。日本の家庭でさまざまな形で楽しまれ、子供から老若男女までファンが多い。

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肉団子の甘酢あんかけ(5個入)594円

一口サイズも日本の家庭に馴染んだポイント。

 

製造を見て、まず驚くのが材料の少ないことだ。調味料もシンプルで、八角などスパイスやニンニクも使用しない。優しく、飽きのない味わいは、このシンプルな原材料から生まれる。

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肉団子のベース生地は豚の挽肉、豚の背脂、全卵、水のみ。具材には玉ねぎ、生姜、椎茸。調味料も塩、胡椒、砂糖、醤油、少々のうま味調味料を加えるのみ。

 

肉団子の生地は水を何度かに分けて加え、ふわふわに仕上げる。しっかり生地が混ざったら調味料を加える。余分な水分が出ないように椎茸、生姜、玉ねぎの野菜は最後に加えて生地を休ませる。

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まず豚挽肉と背脂を混ぜる。

 

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しっかり生地が混ざったら、調味料を投入。

 

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保水性のために小麦粉を少々入れる。

 

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最後に野菜類を加えて生地を休ませる。

 

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団子のサイズは1個あたり約25g。180度の大豆油で4〜5分揚げる。

 

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揚げた団子は瞬時にソースと絡める。

※現在惣菜用の肉団子は工場生産されていますが、製造過程の撮影のために手作業で再現しています。

 

ソースの材料もシンプル。国産の醤油、砂糖、米酢、塩、水、でんぷん。肉団子の調理を説明してくれた安蒜(あんびる)義政さんは、現在は「銀座アスター 新宿賓館」料理長で、伊勢丹新宿店内のレストランでも長く料理長を務めた。<銀座アスター>独自の料理人教育システムに魅力を感じて入社した一人で、料理は社内で一から学んだ生え抜きだ。

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安蒜義政料理長。社内には自主研修の補助制度があり、料理長の選抜も年功序列でなく実力主義。それが励みになった。同社「名菜」のレシピは知るほどに奥深いと語る。

店の味として守られてきたものはレシピだけではない。自家製の混合調味料「醬」の役割も大きく、店の味を下支えしている。

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上から時計回りに、「焼き醬」「アスター醬」「XO醬」。「焼き醬」は焼きそばの餡に使用される専用の醬で醤油ベース。

麺も自家製。スープ麺からやきそばまで、すべての麺料理に使える万能麺だ。

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ストレートで卵入りの自家製麺。

 

自家製麺の焼きそばも代表的なメニューの一つで誕生からおおよそ60年経った。野菜や海老、チャーシューのたっぷりのったあんかけ焼きそばがアスターのスタイルだ。

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焼きそば(1パック)1,080円

自家製の焼き醬がクセになる味わいの秘密。醤油、にんにくベースで熟成させた醬が独特のコクを出している

他にもたくさんの定番メニューがある。そして商品の一つ一つに、家庭での再加熱の方法などが詳細に書かれている。これはホームページでも確認できるのだが、例えば餃子なら「温めたフライパンに餃子を並べ、大さじ2杯程の水を加えて蓋をして弱火にし、水気を飛ばします。仕上げに餃子の周りから油を少々加えるとカリッと仕上がります」という具合。最後の仕上げは顧客に委ねられている。だからこそ、よりおいしく食べてほしいという姿勢が、それぞれの「召し上がり方」に現れている。

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海老炒飯 (1パック)1,080円

チャーシュー、卵などの五目炒飯に、ご馳走感のある海老がたっぷりのる。自家製チャーシューの味が引き立つよう、ご飯の塩分は控えめだ。

 

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餃子(4個入)648円

オリジナルの皮は厚めでしっかり、もちもちした食感。再加熱を想定して香ばしさが出るように工夫されている。

 

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酢豚(小)702円

こちらもベストセラー商品。ご飯のおかずに、単品でおつまみとしても人気がある。食べ応えのある豚の角切り肉とちょうど良い餡の甘酸っぱさが後をひく。

本場に学ぶ姿勢、料理人の育成を続けてきた実績は本国からも評価されて、<銀座アスター>は中国国内の調理師組織「中国烹飪協会」から表彰を受け、世界中国料理連合会からは「国際中餐名店」の認定を受けている。同社はまもなく100周年を迎える。

 

Text : Kaori Shibata

Photo : Yu Nakaniwa ,Yuya Wada

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