2024.9.13 UP
ロンドンのピカデリー通りにある<フォートナム・アンド・メイソン>は、ロイヤルワラント(英国王室御用達の称号)を保持している老舗百貨店。高品質な紅茶や食品、食器などを販売するほか、上層階には本場のアフタヌーンティーを堪能できる、王室ゆかりのラグジュアリーなティーサロンも備えている。ロンドン土産の定番といえば、美しいオーデニールカラーの缶に入った紅茶をイメージする人も少なくないはずだ。
ピカデリー本店の外観。出入口上部には名物のからくり時計があり、定時になると創業者をイメージして作られた2体の人形が現れる。
<フォートナム・アンド・メイソン>が誕生したのは、大英帝国の誕生と同時期の1707年のこと。当時のアン女王に支えていたウィリアム・フォートナム氏と、ロンドンで家主をしていたヒュー・メイソン氏が共同で立ち上げた、ピカデリーの小さなグローサリーショップがその出発点だった。
王室と縁あるフォートナム氏のビジネス手腕により、店は当時の王侯貴族から評判を得て発展していった。そんな同店の歴史は、現代に続くイギリスの食文化そのものに大きな影響を与えている。
たとえば、ゆで卵を挽き肉で包んだスコッチエッグはイギリスを代表する料理のひとつ。これは1738年ごろ、旅行者が長旅の途中で食べられる携帯食として同店が初めて考案したといわれている。また1886年ごろ、アメリカの<ハインツ>の創業者が<フォートナム・アンド・メイソン>を訪れて、ベイクド・ビーンズの缶詰を紹介した。当時のイギリスではまだ缶詰製品が知られていなかったが、同店ではこれを小さなナイフで開ける方法とともに店頭で紹介。このプレゼンテーションが新しもの好きなマダムの目に留まり、ベイクドビーンズはその後イギリスの国民食として日々の食卓に根付いたという。
<ハインツ>のベイクド・ビーンズを紹介。店頭で缶を開けるデモンストレーションが、新しもの好きなマダムたちから評判を得たという。
なかでも16世紀に西欧で広まったお茶は、王侯貴族からの需要が高い贅沢品だった。<フォートナム・アンド・メイソン>でも、東インド会社を通じて輸入された紅茶は主力商品のひとつであり、1700年代から王室向けの高品質な茶葉を調達し続けてきた長い歴史がある。
現在の店頭ではブレンドティー、フレーバーティーなど常時30種類ほどの紅茶を入手できるが、100年以上にわたって、変わらぬ味を保ち続けている商品も少なくない。たとえば1835年に誕生した「スモーキーアールグレイ」や、アン女王の名を冠して1907年に生まれた「クイーンアン」。同店を代表する紅茶のひとつで、1902年に国王エドワード7世のためにブレンドされた「ロイヤルブレンド」などがそれだ。農産物である茶葉は、収穫する年によって出来ばえも違う。伝統の味は茶葉のクオリティのみならず、同社のティー・ブレンダーたちの手腕によって保たれている部分も大きいといえる。
ハイクオリティな茶葉は、中国やインド、スリランカ等の契約茶園から精選。
すべての紅茶製品は、常に均質な味わいを守るべく、同店専門のティー・ブレンダーによる試作を経て製造される。
ロイヤルブレンド(英国製/125g)3,132円
セイロン産のフラワリーペコとモルティーなアッサムが出合ったこのブレンドは、舌触りなめらかで蜂蜜のような風味を持つ。
現在のピカデリー本店の上層階には、2012年にエリザベス女王即位60周年を記念してオープンしたダイヤモンド・ジュビリー・ティーサロンがある。<フォートナム・アンド・メイソン>では、このティーサロンにちなんだティーウェアを始め、英国陶器の本場・ストークオントレントなどで作られた食器類も販売している。
本店の上層階にあるダイヤモンド・ジュビリー・ティーサロンはいつも盛況。オリジナルのアフタヌーンティーを楽しめる。
カメリアティーフォー1ティーポット(英国製/1セット)(ポット、カップ、ソーサー各1点)46,200円
ダイヤモンド・ジュビリー・ティーサロンの応接室にある手描きの壁紙と同柄のティーセットは、ストークオントレント製。金箔の縁取りが上品なデザイン。
先述のティーウェアと同じ、カメリア柄の壁紙を張った応接室がこちら。
伝統の味を気軽に楽しみたいなら、まずは紅茶のティーバッグや、ビスケットなどの焼き菓子から入ってみるのもいい。また、焼きたてのトーストに伝統のマーマレードやプリザーブを合わせれば、自宅でイギリスのブレックファストの気分を味わうこともできるだろう。王室と深い繋がりを持ちながらも、イギリスの食文化を広く牽引してきた<フォートナム・アンド・メイソン>。ロンドンで古くから親しまれてきたこの百貨店の楽しみ方は、香り高い紅茶だけには留まらないのだ。
アールグレイクラシック 25TB(英国製/25袋)1,728円
1830年代、当時の英国首相グレイ伯爵が名付け親となり生まれたアールグレイは、英国では定番のフレーバーティー。柑橘系の爽やかな香りが楽しめる同店の「アールグレイクラシック」は、1920年ごろに誕生した。
ピカデリービスケット(レモンカード)(英国製/200g)3,564円
レモンカードとは、レモン果汁に砂糖やバター、卵などを加えて作るイギリス生まれのスプレッド。これを混ぜ込んで、甘さとさっぱりした味わいを両立した定番のビスケット。
ビンテージマーマレード(英国製/200g)1,620円
程良くコクのあるマスコバド糖を使用したマーマレードは、シトラスの香り際立つ厚切りのプリザーブ。1920年代、ナイジェル卿の「もっと苦いものが欲しい」というリクエストに応えて作られるようになった。
Text : Mako Kobori
Photo : Yuya Wada