<ジャン=ポール・エヴァン>チョコレートからショコラへ。華麗なるショコラ体験が約束される場所。

2023.9.15 UP

2002年、伊勢丹新宿店にブランドとして日本初の専門店を構えた<ジャン=ポール・エヴァン>。親日家としても知られるトップショコラティエを支えるパッション、哲学、その軌跡を辿る。

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2002年に日本進出、舞台は伊勢丹新宿店。

 

多くの店が軒を連ねる伊勢丹新宿店の食品フロアで、悠然と現れる一面ガラス張りの店舗。ガラスの扉を押す時には、少々の緊張感とワクワクした気持ちが入り混じる、<ジャン=ポール・エヴァン>。日本人にとって、おやつの一つだったチョコレートは、2002年にパリからやってきたこのショコラ専門店により嗜好品のショコラとしての理解が深められていった。

 

1988年にパリ7区で自身のブティックを開いたジャン=ポール・エヴァン氏は、初の海外出店の地として伊勢丹新宿店を選んだ。エヴァン氏が「カーヴ」と呼ぶ店舗は、圧倒的な存在感で多くのメディア、人々に注目された。

 

「私が考えるアルチザンの世界観やパリの雰囲気を日本に伝えたかった。カーヴを他の環境からクローズドにしたのは、ショコラの香りを守り、お客さまを外部の音から守り、カカオに重要な温度や湿度を保つためでした」

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伊勢丹新宿店、開業時の風景。宝石店のようなゴージャス感もありながら凛としてストイックな佇まい。瞬く間に多くの人にとって憧れのブランドとなった。

日本開業の翌年、2003年には伊勢丹新宿店で日本版「サロン・デュ・ショコラ」が開催される。その後のショコラブームは、ご存知の通り。ショコラは嗜好品として日本で定着し、贈答品に限らず、今では自分のためのご褒美ショコラも普通になった。<ジャン=ポール・エヴァン>は、日本開業から21年が経ち、国内に13店舗を展開するショコラブランドに成長した。

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日本での開業20周年を記念して施された伊勢丹新宿店の特別装飾。

ジャン=ポール・エヴァンという人

世界を代表するショコラティエとなったジャン=ポール・エヴァンは、16歳でマイエンヌ(フランス北西部)の製菓専門学校に学んだ。当時からカカオは得意な素材だったという。製菓学校を卒業後、1975年に「インターコンチネンタル・パリ」のパティシエとしてキャリアをスタート。1979年から数々のパティシエのコンテストに出場し、1986年に20代でMOF(フランス国家最優秀職人章)を受章した。

 

そしてMOF受章前、エヴァン氏は日本を訪れた。1985年に日本に進出した<ペルティエ>東京店のシェフパティシエとして選任されたためだった。この日本滞在で、日本文化に開眼。その後、日系の「ホテル・ニッコー・ド・パリ」でシェフパティシエに就任。この時、同レストランのエグゼクティブシェフであったジョエル・ロブション氏の、料理を芸術レベルに高める姿勢にも刺激を受けた。また、この頃から日本の武術、空手にも勤しみ、正確で洗練された武道の所作は、菓子製作の動作に影響を及ぼしたとも。エヴァン氏は日本の「体に良いものは心にも良い」という信念から多くを学んだと語る。

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いつショコラティエになる決心をしたのか。エヴァン氏の答えは「特定するのは難しい。子供の頃から味覚や嗅覚が発達していたことが、その始まりなのでしょう」だった。

ボンボンショコラができるまで

<ジャン=ポール・エヴァン>を代表するボンボンショコラは、繊細かつ野心的だ。製作はパリ近郊のラボラトリーで行われる。原材料となるカカオは、製菓材料用チョコレート(クーベルチュール)に加工されるが、<ジャン=ポール・エヴァン>独自のブレンドで複数社に依頼。一粒一粒のボンボンショコラに適したカカオの選定、レシピの決定はエヴァン氏の重要な仕事だ。

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カカオ豆の選定や品質チェックは、最初の段階であり最終製品の品質に影響する大事な工程。 

クーベルチュールにカカオバター、生クリーム、バターなどを加えてボンボンショコラの中身となるガナッシュを作る。ボンボンショコラの製造工程で最も決定的な瞬間は「異なる素材が完全に混じり合う正確な温度の見極め」とエヴァン氏。非常に技術的で重要な場面だ。

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出来上がったガナッシュを、温度変化の起きにくい大理石の上に均一に広げ結晶化させる。

温度管理は非常にデリケートな作業だ。

ガナッシュが完成すると、手作業で一つ一つ仕上げていく。特筆すべきは、ガナッシュをコーティングする時に使用するチョコレートが<ジャン=ポール・エヴァン>独自の特別な製品であること。適度な酸味を持ち、強すぎることなくガナッシュの味わいを引き立てる。

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シート状のガナッシュを、金属のカッター(ギターカッター)で切り分ける。

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コーティング用チョコレートを纏わせる。口に含んだ時に最初の印象を決めるチョコレートとして、コーティング用といっても品質に妥協はない。

通常、コーティング用チョコレートは中身の劣化を防ぐのが主な役割だ。しかし<ジャン=ポール・エヴァン>では、ショコラを口に含んだ時の口当たりの良さ、中身との一体感ある食感と味わいも重視。積極的な意図を持ったチョコレートを選定している。こうして最初から最後まで、隙のない、配慮に満ちた一粒の体験が約束されるのだ。

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ボンボンショコラ(フランス製/9個入)3,780円

ガナッシュベースのショコラと、ヘーゼルナッツやアーモンドをベースとしたプラリネのアソート。様々なアロマや食感が、一粒ずつ異なる世界を呈する。

 

 

子供の時の幸せな体験、ショコラ ショ。

また、ブティックで特長的なのがバー ア ショコラ、つまりバーカウンターの存在だ。ここではエヴァン氏がずっと大事にしているショコラ ショ(ホットチョコレートドリンク)各種を味わうことができる。

 

「ショコラ ショは、私にとって子供の頃の幸せな思い出です。学校から帰ってきた時に、ショコラ ショを飲むのは心地よい瞬間でした。今の自分のクリエイティブなタッチを加え、その幸せな瞬間を再現し、伝えたいのです。」

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ショコラ ショ パリジャン/バー ア ショコラ(日本製/1ポット)1,265円

パリジャンは最もベーシックでバランス良い味わい。他にスパイシーな「アフリケン」、華やかでフルーティなエクアドル産カカオを使用した「エクアトゥル」、冷製の「ショコラ グラッセ」などがオンリスト。季節メニューにも注目だ。

 

バー ア ショコラでショコラ ショを頼めば、静謐な空間で、空気を含ませるように優しく、シャカシャカと一定のリズムでショコラ ショを撹拌する音がする。まるで、お茶のお点前のよう。繊細な音に耳を傾け、時間をかけて自分のために用意された一杯に向き合うのは、実に贅沢な時間だ。このバーカウンターを店内に設けることは、エヴァン氏の強い要望だったと聞く。

 

 

カカオの未来のために。「今、自然を守ろう」

近年、エヴァン氏が力を注ぐのがカカオ産地との交流、そしてカカオ生産者の経済的な自立を目的としたチョコレートメーカーやショコラティエ達による団体「クラブ デ ショコラティエ アンガジェ」での活動だ。この活動についてエヴァン氏は「カカオに限らず、地球上のあらゆる生産物の発展に必要なのは、“今、自然を守ろう”。これに尽きます。農産物であるカカオは、他の地上の生産物と同じく、壊れやすい存在。今、破壊という脅威にさらされています。カカオ原産地の森林を伐採せず、その生産を守ることが重要」と話す。

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カメルーンの首都、ヤウンデの北に位置するカカオ生産者協同組合。代表を務めるアリスティードさんとエヴァン氏。

「クラブ デ ショコラティエ アンガジェ」の活動で、エヴァン氏はカメルーンを訪問。産地に通う中で「お互いに感謝し合う関係が築かれ、それが好循環を生んだ」ことを実感している。今では、「クラブ デ ショコラティエ アンガジェ」の協力を得て、カメルーンのカカオ生産者協同組合を発展させ、フランスのショコラティエ達にカメルーンのカカオを紹介。カカオの輸送を容易にするため、また、森林の価値を高めるために、農園の近くに発酵作業所を建設する資金援助を行っている。

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カカオ豆の発酵は、カカオの個性の抽出や品質に大きく影響する。カカオ産地の発酵技術の向上や環境整備は、産地にとってもショコラティエ職人の未来にとっても重要だ。発酵後のカカオ豆は、乾燥させる。カメルーンでは伝統的な天日乾燥を行っている。

ショコラの材料であるカカオの魅力、他の菓子材料にない魅力は何なのか、あらためてエヴァン氏に聞くとこんな答えが返ってきた。

 

「カカオは数えきれないほどの創造的な可能性を秘めた、変幻自在な素材です。私はまだ、その全貌を解明できていないのです」

 

稀代のショコラティエの挑戦は、まだまだ続く。

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グアヤキル(日本製/1個)794円 

グアヤキルは、高品質なヴェネズエラ産カカオを使用。濃厚なムースと薫り高いビスキュイの組み合わせで、インパクトは強いが、後味はすっきりとしている。グアヤキル アントルメ(ホールケーキ)もある。

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マカロン アメール(日本製/1個)346円

甘さを控えた素材感、豊かな香りの評価が高い<ジャン=ポール・エヴァン>のマカロンシリーズは、パティシエとしての実力も垣間見る逸品だ。アメールは、力強くビターなカカオの風味を存分に味わえる。他にもチーズ、柑橘、キャラメル、ヴァニラ、抹茶など季節ごとに様々なヴァラエティが揃う。バー ア ショコラでも注文可能だ。

 

Text : Kaori Shibata

Photo : Yuya Wada

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