<祇園やよい>祇園・花街で愛される、ふっくら炊いたおじゃこの妙味。

2022.10.31 UP

京都・祇園八坂神社のすぐ近くに、数寄屋造りの本店を構える<祇園やよい>。地元の人のみならず多くの観光客が訪ねる店として名を馳せるが、その歴史は、およそ40年前、普通の一軒家の玄関先で〝おじゃこ〟を売るところからはじまった。

このページをシェアする

ph

口コミで広まった〝おじゃこ〟のおいしさ

<祇園やよい>創業者の中西勝司さんは食べること、おいしいものが大好きで、調理の世界に足を踏み入れたという。コックとしてさまざまな店で働くが、あまりの重労働から体を壊すことになる。それでも諦められなかった美味探求の道。そこで中西さんは「鍋一つでもできる美味」に思い至った。それが同店の名物〝ちりめん山椒 おじゃこ〟のはじまりだ。

 

「とにかく父は納得できるまで試行錯誤を繰り返していましたね。あれやこれやといろいろと考えながら、よりおいしく、よりお安く味わっていただきたいという思いで製品化にこぎつけました」とは二代目の中西良仁さん。父である初代がつくったそれを、祇園の路地奥にある自宅の玄関脇に机を置いて、「母と僕らで座売り。パックに詰めて対面販売をしていました」

 

そのおいしさが、味にシビアな京の人々の心をとらえた。ご近所さんにはじまり、花街の芸者や祇園にある飲食店の料理人らへと次第に広まり、<祇園やよい>はたちまち人気の店となる。奈良東大寺長老の故清水公照師が、その味わいを大変気に入り、やよいのちりめん山椒を〝おじゃこ〟と名付けたという。

store

「祇園やよい」の創業者・中西勝司さん。京の風情漂う本店の前で。

 

 

 

おいしいものは、素材がすべて。

ちりめん山椒は京都の郷土料理であり、多くの店がそれぞれの味わいを提供してくれるが、<祇園やよい>のそれは、ふっくらと柔らかく、ちりめんじゃこ本来のおいしさが引き立つよう仕立てているという。

 

「もっとも大事なのが素材です。とくにちりめんじゃこは旨味のある九州・四国産の特選品を使用。サイズはやや大きめで、あまり硬くなく柔らかめのものを選ぶなど、食感にもうちならではのこだわりがあります」

store

柔らかく大きめで、旨味のある九州・四国産のちりめんじゃこを使用。

そして山椒には、丹波高地朝倉山椒を使用。「刺激のある辛味の強いタイプではなく、爽やかな香りの柔らかな実山椒を使います。あくまでも、ちりめんじゃこと調和のとれる風味であることが大切です」

store

創業当時より使い続ける、丹波高地の朝倉山椒。

 

store

山椒が届いたら、職人が状態や香りを確かめる。

直径40㎝ほどの鍋に、調味料をたっぷり入れて煮立たせ、ちりめんじゃこや山椒を投入。創業当時から変わらない技法を守るが、季節によって変化するちりめんじゃこの水分量やサイズなどから、素材と調味料の割合を微調整。「このバランスが崩れると、ちりめんじゃこがふわふわとした仕上がりにならない」というから難しい。

store

調味はシンプルだ。酒と醤油、少しの味醂がベース。醤油は単体ではなく、味や香りなどの異なる3種類をブレンドしている。さらに注目すべきは酒である。使用するのは〝おじゃこ〟用にと酒蔵に特注したオリジナル。「酒は旨味が豊富な調味料であり、ある意味、だしのような役割を果たします。醤油を強くすれば、保ちは良くなるものの、ちりめんじゃこが縮こまってふわふわとした食感にはなりません。だからうちではお酒をたっぷり使い、蒸し上げるようなイメージで炊いていきます」

 

 

store

炊き上がったばかりの〝おじゃこ〟はふっくら。

たっぷりの調味液のなかで、ちりめんじゃこを踊らせるように煮上げ、最後にちりめんじゃこに気持ち良さそうな風をあてて適度に乾燥させていく。ちりめんじゃこさまさまの手間と時間、愛情をかけることで、旨味がギュギュッと閉じ込められ、ふわっとした食感の〝おじゃこ〟になるという。

store

おじゃこ(紙箱入り)(80g)1,080円

掛け紙は奈良東大寺長老の故清水公照師によるもの。

 

 

素材を生かした〝ご飯の友〟が目白押し

「ちりめん山椒 おじゃこ」と並び人気なのが「いわし美人」だ。日本海で水揚げされたばかりの新鮮な小羽鰯(こばいわし/小指サイズの鰯)を、醤油やみりんで甘辛く炊いて、最後に花かつおの粉で包んだ一品である。こちらも煮上げた後に、ほどよく乾燥させて旨味をギュッと閉じ込めているという。鰯の柔らかな食感と滋味豊かな風味たるや! ご飯と合うことはもちろん、お酒のお供としてもおすすめだ。

 

store

いわし美人(70g/1瓶) 756円

1瓶に15尾ほど入っている。

 

国産の筍を、山蕗やちりめんじゃこと炊き合わせた、山椒風味の京風煮物「筍」も昔ながらの惣菜の一つ。食材それぞれの食感や風味を生かすため、筍と山蕗とは別にちりめんじゃこを炊き、後から合わせるという手間暇をかけている。だからこそ、筍はシャキシャキ、ちりめんじゃこはふっくらとした食感に。山椒の上品な香りがあとを引くおいしさだ。

store

筍(100g/1袋)648円

 

「えびじゃこ豆」はお隣、滋賀県の特産品であるえび豆を<祇園やよい>風にアレンジ。「本来は川海老と大豆だけを炊きますが、ここにうちの得意とするちりめんじゃこをたっぷり加えて炊き上げます」と中西さん。ちりめんじゃこはそのまま一緒に炊くのではなく、先に軽く飴炊きにするという。「こうすることで大豆の食感や川海老の旨味に負けない味わいになるんです」。これもまた、食べるほどにクセになる美味しさである。

store

えびじゃこ豆(130g/1袋) 540円

 

最後に<祇園やよい>の名の由来を尋ねた。すると「商売を始めたときの家の電話番号の下4ケタが〝8413(ヤヨイサン)〟だったから(笑)。ちょうど春先(弥生)に商売を始めたこともありますし、何より覚えやすいでしょう?」。その電話番号は、今も変わらずそのままだ。

 

撮影・岩本慶三 

文・葛山あかね

 

RECOMMEND

ブランドストーリーズ

レブレ[デリ エ ブーランジュリー]

レブレ[デリ エ ブーランジュリー]

桂新堂[甘の味]

桂新堂[甘の味]

青果[生鮮]

青果[生鮮]

CATEGORY

カテゴリー