2023.8.16 UP
左から
弓納持清美
伊勢丹新宿店「カフェ エ シュクレ」バイヤー
和菓子や「菓遊庵」バイヤーを経て現職に。プロジェクト始動時より各所をつなぐハブとなり、商品化まで担う
徳堂泰作さん
「社会福祉法人東京ムツミ会ファロ」管理者
主に障がいのある方の仕事や生活をサポートすることを目的に活動する「ファロ」代表
中里仲司さん
「東京大田青果物商業協同組合」副理事長
大田市場で仕入れをして青果卸売業を営むかたわら、新宿区内の自宅でミツバチを養蜂。
養蜂アドバイザーとして関わる
徳堂:MIELのプロジェクトが立ち上がる以前から障がいのある方々と養蜂事業に取り組んでいたのですが、伊勢丹新宿店さんと取り組むようになってより多くの方々の自分たちの活動を知っていただけるようになりました。環境の変化でいえば障がいのある方が、これまでは関わることはなかったような人たちと接点を持つようになったことです。三越伊勢丹の社員さんだったり、ミツバチ関連のブランドのイベントのお手伝いだったり。そういう機会が増えたことで、養蜂に携わるスタッフは仕事への強い責任感というものが生まれましたし、少しのことでは休まなくなりました。それはこのMIELに取り組んだ一年の中での大きな変化ではないでしょうか。
中里:養蜂を始めたばかりの頃とは確かに全然違いますよね。今は目がキラキラとしていますから。養蜂についてメディアから取材されることも増えていますが、自分たちからミツバチについて積極的に説明もするようになっています。横で「ちょっと違うな」って思うこともありますが(笑)。でも、そのやる気がうれしいですよね。徳堂さんたちにとって養蜂は事業ですからお仕事ですが、お仕事を楽しく前向きな気持ちでやるっていうのはすごくいいことです。
弓納持:MIELのハチミツが商品化されて初めてお披露目されるときには、養蜂に携わった方々には伊勢丹新宿店の店頭でもお手伝いいただきましたよね。
徳堂:一昨年、MIELの商品を販売する初日にお店へご招待いただいたのですが、障害のある方々は伊勢丹新宿店に足を踏み入れることができないのではと心配していました。高級品を取り扱う百貨店というのは日頃の生活からは縁遠い場所ですから。それでも伊勢丹新宿店のスタッフさんと一緒に「いらっしゃいませ!」とお客さまをお迎えしたり、自分たちが採蜜したものが商品となって、それを手にしているお客さまの姿を目にすることができたのはこれまでには経験したことがない喜びだったはずです。一生の思い出になったのではないでしょうか。
弓納持:ありがたいことに「MIEL ISETAN SHINJUKU©︎」についてはさまざまなメディアで取り上げていただきました。伊勢丹新宿店で常に食品をお買いあげいただいているお客さまも、障がいのある方々と一緒に取り組んでいるということにとても共感してくださっているようです。社内だけでなく、社外からも応援してくださる声はとても多いです。私も徳堂さんも中里さんも、2022年「ハンガリーフェスティバル〜蜂蜜に習うサスティナビリティ」というイベントにお招きいただいたのですが、海外でも養蜂と福祉、小売業という組み合わせは例がないようで、そこにとても関心を寄せていただきました。フェスでは徳堂さんと中里さんと一緒に登壇して「MIEL ISETAN SHINJUKU©︎」について緊張しながらご説明しました。
中里:自分たちの後には著名な方々も登壇を控えていたので、私たちは前座でしたよね(笑)
弓納持:2021年の夏に日本の酷暑が原因で女王蜂が巣箱から逃げ出す、というちょっとした事件が起きました。
徳堂:女王蜂は気温が35度以上になるといわれているので、おそらく暑さにやられてしまったんだと思います。「MIEL ISETAN SHINJUKU©︎」は屋上での養蜂なので、気温が高いうえに輻射熱の影響で巣箱の中は40度近くなっているはずです。
中里:本来は木漏れ日のあるぐらいの場所が養蜂には適しているんですが、屋上は西日もあって一日中直射日光のような状態です。ミツバチもそうですが作業する人間にとっても暑さは過酷です。
弓納持:それで暑さ対策として生まれたのがさつまいもを育てて、その葉で屋上を緑化する「CIEL」のプロジェクトでした。
中里:「CIEL」のことを聞いたとき、さつまいもは水も肥料も野菜の中では手のかからない部類なのでとてもいいアイデアだと思いました。
徳堂:さつまいもを育てることで日陰が生まれて、昨年に比べたらミツバチの状態は間違いなく良好です。何よりも屋上で作業しているときの暑さは昨年と今年では全然違いますから、自分たちにとっても快適になりました。
中里:人間がはっきり違いを感じていますから、ミツバチたちも環境的には楽になったと思いますよ。
弓納持:毎年、巣箱の数も違うのですが2021年は180kgだったのが、2022年は230kgのハチミツを採ることができました。採蜜の量が増えたことで、ハチミツを使ったオリジナルのお菓子など年間通してご紹介できそうです。それは大きな進歩で「CIEL」の効果を感じています。さつまいもも収穫して野菜としても、芋けんぴやどら焼きなどの加工品としても販売することが出来ました。
中里:屋上で育てている紅はるかという品種はねっとり系なので、焼き芋や干し芋にしたら絶対においしいと思います。さつまいもとハチミツなら大学芋もできるので、同じ屋上で採取した素材が掛け合わさったおいしさというのも面白いかもしれないですね。
徳堂:食べるだけでなくさつまいもの蔓を乾燥させて、子どもたちを対象にしたリース作り教室なんかもできたらいいなと個人的には思いますね。とにかく捨てるところがない、次につながる、自分たちの活動がSDGsのような取り組みになっていけたらとは感じています。
中里:さつまいもも品種によって食感や味に個性があって、適した調理法というのも違ってきます。なので今年は紅はるかだけでしたけど、いずれは複数の品種を栽培できれば和洋菓子、和食、洋食とお客さまにももっと幅広いおいしさを届けることができるかもしれないですね。
徳堂:養蜂に関しては新しいことにどんどん挑戦するというよりは、とにかく継続していくことが大事だと思っています。
弓納持:MIELの立ち上がりからこの1年、2年は本当に手探りの中であっという間でした。
徳堂:スタッフは障がいのある方々なので、気持ちに波があったり、仕事が続かなかったりというのは現実としてあります。だからこそ安定して続けていくことを第一にしていきたいです。最近はボランティアとして養蜂を手伝いたいと言ってくださる方も増えています。その方たちと一緒にやることで障がいのある方々への
理解も深まりますし、自分たちが掲げている共生社会にもつながると思っています。
弓納持:私はプロジェクトのまとめ役のようになっていますが、これからも「MIEL ISETAN SHINJUKU©︎」が変わらず機能して、少しずつでも成長し続けていきたいと考えています。春から秋まではミツバチたちの「MIEL」のこと、春から冬までは屋上緑化の「CIEL」のこと、そんな時間軸も生まれたので四季を通して
プロジェクトのことを多くの方に伝えていきたいと思っています。ミツバチたちの環境を整え、一年を通じておいしいはちみつをお客さまに届けられるように。さらに今後はお客さまもご参加いただけるイベントも企画していけたらと思い描いています。