2023.6.16 UP
人はまあるいものが好きだ。と、思う。どうだろうか。特に、不安な時とか、しんどい時、まあるいものというものは安心感を与えるように思うのだがどうだろうか。
それは、小さい頃から、テストなんかで、まる、ともらうと嬉しかったからなのか。まあるいちゃぶ台のせいだったのか。輪になって話したり、輪になって盆踊りをおどったり、輪になってハンカチ落としをしたからなんだろうか。太陽がまあるいからだろうか。おっぱいがまあるいからだろうか。コップやお皿がまあるいからだろうか。ハグするとき、腕で大きなまるを作って相手を抱きしめるからだろうか。
よく考えると、果物もまあるいものが多い。バナナは置いておいて、みかん、りんご、スイカ、ぶどうの一粒もまあるい。スイカ割りのまあるいものをみると、わあ、とうれしくなる。それぞれ切り分けられたものよりも、2等分したあのまあるい断面に癒やされるのだ。
ケーキも実は、ホールのまあるいのが、好きだ。すごくぜいたくで、ぜんぶ! って感じがするのだ。ぜんぶ、いいの?! ぜんぶわたしの?! という、ぜんぶをもらえた気がする。
そこでふと思った。地球も丸いじゃんと。だからなんだろうか。私は、私たち地球人は、まあるい地球という星に住んでいて、だからやっぱりまあるいものが好きなのではないかなと。
で、例のグレープフルーツゼリーなのだ。私ははじめて出会った時驚いた。こう思った。
「なんと! 大胆な!」
だって、グレフルまるごとどーん。その中に実に繊細な味わいのゼリーが詰まっているのだ。
果汁そのままの、よく裏漉しされた、繊細で品のある味わいが、そっと広がっている。大胆なのに品がある。なんというギャップ。
私はこのグレープフルーツを、どんどんどーんと、6個差し入れしたりする。大玉6個が、ゴロゴロ入っていてそしてしかもそれは、無数に、スプーンでつるんと食べられる品の良さなのだから、当然喜ばれる。お子様にも大好評のギフトである。インパクト大。でもね、やっぱり、でかいとか、フルーツそのまま、とか、というより、1番のうれしいポイントは実は、このまあるい、なんじゃないかと思うのだ。ホールケーキは誕生日やお祝いじゃないとおかしい。とすると、まあるいスイーツとして考えられるのはこのグレープフルーツなのだ。
一度、我が事務所スタッフにお土産で買って配ってみた。
「お、これは、、」
「1個まるごとですか、、」
ひとつひとつ、ボーリングの球のように、ひとりひとりに手渡しする。
「あ、ありがとうございます」
なんだか親分になった気持ちだ。これは、通常のプラスチックに入った小さなゼリーじゃそうはいかない。で、みんなで、銀の冷やしたスプーンでいただきます。
無言。みんなその味わいに集中をする。果実のまあるい中に我が心をひたひたと沈めていく至福。こころが、ぷかぷかとその果汁に浮かび、泳ぎ、そして、太陽のように満ち足りるのだ。心にビタミン満タン!
残ったグレフルの皮の器は、なんだか祭りの後の、楽しかった思い出のように、それぞれの手の中に。
「また、買ってこようね、うん」
少し贅沢な時間は、まあるい1個、とり分けない1個、まるごとあなたに1個、そういう欲張りと、競争しない独占欲を満たすちいさな王様気分なんじゃないだろうか。
<日本橋 千疋屋総本店>スペシャル ルビー グレープフルーツジェリー(1個)972円
伊勢丹新宿店本館地下1階 カフェ エ シュクレ
果肉をくりぬき、ゼリーにしたものを注いだ。口にふくむたびに爽やかな香りと甘みが広がる。
大宮エリー
おおみやえりー/作家・画家。
舞台やドラマ、エッセイなど幅広い分野で作品を発表。主な著書に『生きるコント』(文芸文庫)。クリエイティブの学校「エリー学園」「こどもエリー学園」主宰。
文:大宮エリー
写真:清水奈緒
スタイリスト:野村奈央