樋口直哉さんの連載『料理のツボ』のリニューアル第二回目。伊勢丹新宿店の食品フロアを舞台に、買い物から始まる料理を指南します。今回は「オリーブオイル」のトリセツです。
日本では1990年代から消費量が増加したオリーブオイル。今やすっかり台所に定着しましたが、その魅力はまだ充分に伝わっているとは言えません。なぜなら用途がサラダ油やごま油の延長線上にあり、加熱やドレッシングの油として捉えられているからです。今回はオリーブオイル売り場を解説しながら料理への活用法をご紹介します。
伊勢丹新宿店地下1階、オリーブオイルのコーナー
選ぶならEVオリーブオイル。その理由
オリーブオイルは油脂にはめずらしく、穀物やナッツからではなく、果実から絞られる油です。そのため風味がよく、生食にも適していますし、成分として一価不飽和脂肪酸であるオレイン酸が多いので「酸化しにくい」という特徴があるので加熱にも適しています。
かつてはオリーブオイルといえば〈ピュアオリーブオイル〉と〈EVオリーブオイル〉があり、前者は加熱用、後者は仕上げ用という具合に説明されたりしました。しかし、個人的に前者をオススメする理由はありません。
オリーブオイルの分類はIOC(国際オリーブ協会)が定めた酸度や製法などによって分類された9種類の規格があります。IOCの基準ではヴァージンオリーブオイルはオリーブオイルの実を絞り、遠心分離や濾過以外の工程をしていないもの。そのなかでも高品質なものをEVオリーブオイルと定義しています。一方、ピュアオリーブオイルはその基準にはなく、たんに「オリーブオイル」という名前で分類され、精製したオリーブオイルに未精製であるヴァージンオリーブオイルをブレンドしたものです。
ピュアオリーブオイルは安価で手頃ではありますが香りはありません。オリーブオイルはその風味が魅力なのでEVオリーブオイルを選びましょう。
選ぶならEVオリーブオイル。その理由
オリーブオイルが難しいのは種類が多いこと。品種だけをとってもオリーブには約1,700種以上あるといわれていて、それぞれが異なる香りや味を持っています。これがオリーブオイル選びの最初のハードルなので、解決策としては詳しく教えてくれる店員さんがいるお店を頼りにしましょう。伊勢丹新宿店の地下食品売り場にある『OLIOTECA』では味見もさせてくれます。
「OLIOTECA」の店頭には、知識豊富な店員さんが常にスタンバイ。
とはいえワインを選ぶのになんとなく『魚料理には白ワイン』『肉料理には赤ワイン』という具合にオリーブオイルを味見する前にイメージを持っておいたほうが楽に理解できます。専門家はもっと詳しい分類をするのですが、僕のオススメは大まかに『マイルド』と『グリーン』に分類すること。
上質なオリーブオイルを口に含み、飲み込むと喉の奥にピリピリとした刺激を感じます。これはフェノール化合物(ポリフェノール)によるものです。その前に香りにも注目してください。花の匂い、柑橘臭、果実臭、ナッツ、土、アーモンド、干草……といったものに加え、とくに料理で重要な役割を果たす『青っぽい草の香り』を感じるはずです。青っぽい草の香り、はハーブ、リンゴ、トマトの葉、アーティチョークなどにも共通する特徴的な香りで、オリーブの品種や製法などによって異なりますが、ここで多くの人はつまずきます。アーモンドやアーティチョークと言われてもイメージできないからです。
でも、大丈夫。木にオリーブが実る様子を想像してください。実がまだ未熟な青い状態で収穫するとグリーンで新鮮な風味のオリーブオイルが絞れます。一方、実が熟するのを待って収穫すればフルーティで、マイルドなオリーブオイルが絞れます。完熟するとフェノール化合物は減っていくので、刺激も少なくなっていきます。
基本的な違いを知るのにおすすめな「グリーン」タイプ(左)と「マイルド」タイプ(右)のオイル
(左)<ボナミーニ>プリミリア エクストラ バージン オリーブオイル ヴェネト産(229g)1,944円
(右)<バッリョ・インガルディア>アルベレッリ エクストラ バージン オリーブオイル シチリア産(229g)2,700円
伊勢丹新宿店本館地下1階 シェフズセレクション/オリオテカ
味見をしてまず「このオリーブオイルはグリーンかな?マイルドかな?」と分類してみてください。左のボトル『バッリョ・インガルディア アルベレッリ』はシチリア州トラーパニ地方のオリーブオイル。チェラスオーラ種という辛味の強い品種を絞ったものです。
右のボトル『プリミリア』は北イタリア・ヴェネト州のオリーブオイル。マイルドでフレッシュなオリーブの風味がします。オリーブの実は若いほど搾油率が低く、完熟すればたくさん絞れるので、前者のほうが価格は高め。こんなところからもグリーンか、マイルドかの判断はつきます。続いてそれぞれの料理の使い方について解説していきます。
オリーブオイルと料理の関係
「オリーブオイルの使い方は?」と聞かれて思い浮かぶのはまずパスタ料理、次にパンにつけるといったところでしょうか。もちろんパスタ料理は定番で間違いないところですが、使い方はそれだけではありません。
まず憶えていただきたいのは〈オリーブオイルは調味料〉ということ。そして、調理効果としては
1 料理にコクを出す
2 脂を切って、さっぱりさせる
3 香りをつけ、引き出す
という効果があります。調味料なのでありとあらゆる料理にかけて問題ありません。(例外が一つだけあるのでそれは最後に紹介します)例えばさっぱりしたそうめんにオリーブオイルを落とせばぐっとコクが増しますし、焼いた野菜にたっぷりとかければ甘みが引き出されるでしょう。
同じくさっぱりした豆腐に刻んだ塩昆布をのせ、オリーブオイルをかけるとしょう油よりも大豆のコクが引き出されるのがわかるはずです。『バッリョ・インガルディア アルベレッリ』=グリーンタイプはわさびや生姜などの薬味を添えているよう。『プリミリア』=マイルドタイプをかけたほうは大豆の青臭さが和らぎます。
トマトのサラダはどうでしょうか? フルーツトマトの皮を剥き、クシ形に切ってからオリーブオイルを回しかけ、フルール・ド・セルをふりかけました。
グリーンタイプをかけたほうは、まるでバジルを添えたようにトマトの爽やかな香りが強調されます。一方、マイルドタイプはトマトのフルーティな香りが引き出されます。どちらも好相性なので、目指す料理によって使い分ければいいのです。
白身魚とオリーブオイルも好相性。お魚売り場で見つけた白身魚薄造りとEVオリーブオイルをあわせてみましょう。
オリーブオイルには塩分が含まれていないので、好みの量のしょう油を垂らすのもポイント。個人的には白身魚のお刺身にはグリーンタイプをおすすめします。お刺身にはわさびを添えますが、さわやかな辛味が繊細な白身魚の身の甘みを引き立ててくれます。
オリーブオイルの効果を確かめる肉レシピ
オリーブオイルには脂を切ってさっぱりさせる効果もあります。それが上手に使われているのがステーキなどの肉のグリルです。今日は豚ロース肉を焼いてみました。
◼️豚ロース肉のグリル
<材料> 2枚
豚ロース(とんかつ ソテー用) 2枚(厚み)
EVオリーブオイル 大さじ1/2
にんにく(すりおろし) 小さじ1/4
塩 小さじ1/4
乾燥オレガノ 小さじ1/4
好みのEVオリーブオイル 適量
レモン 適量
<作り方>
1 EVオリーブオイル、にんにくのすりおろし、塩、オレガノを混ぜ、豚ロース肉を20分以上マリネする。(常温の場合1時間を上限にそれ以上置く場合は冷蔵庫に入れる)
2 グリルパン(またはフライパン)を中火で熱し、豚ロース肉を立てて脂身から焼く。1分30秒から2分焼き、焦げ目がついたら弱火に落とし、表になる面を2〜3分焼く。裏返して同様の時間焼き、暖かい場所で3〜4分休ませる。
3 皿に盛り付け、たっぷりとEVオリーブオイルをかけ、レモンを添える。
オリーブオイルで作ったマリネ液で肉に香りをつけます。この時はどんなEVオリーブオイルを使えばいいでしょうか? 答えはどんなものでもかまいません。というのもEVオリーブオイルの香りは50℃~150℃までは変化しないのですが、それ以上になると揮発してしまいます。そのため、個性がなくなってしまうからです。
焼いたお肉にオリーブオイルをたっぷりかけると味わいはさっぱりします。動物性の脂=飽和脂肪酸に不飽和脂肪酸であるオリーブオイルをかけることで軽くなるからです。これが2の脂を切ってさっぱりとさせる効果です。この時、グリーンタイプを使うとマグロのトロにわさびをつけたときのように辛味によってより軽い味わいになりますし、マイルドタイプを使うとフルーティさが料理の風味に加わります。
このようにまず、グリーンタイプ、マイルドタイプの2種類があることを理解することで、オリーブオイルの解像度がぐっと上がります。ちなみに『OLIOTECA』ではさらに『ストロング』という分類があります。
<ヴィオラ>アルマナッコ エクストラ バージン オリーブオイル ウンブリア産(229g)3,456円
ストロングのオリーブオイルを、と相談したところ紹介してくれた『アルマナッコ』というEVオリーブオイルです。中部イタリアの品種であるフラントイオ種というオリーブを絞ったもので、非常にこってりとしたスパイシーな味わい。肉に黒胡椒を振るとおいしいように、こういったタイプのオイルはグリルした肉に非常に合います。シンプルにエリンギやしいたけをソテーし、こちらのオリーブオイルをたっぷりかけてもおいしいでしょう。
オリーブオイルは種類が多く、選ぶのが大変……といったイメージがありますが、かけることで料理の味わいが劇的に変わるので課金する価値は充分にあります。品種やら製法やら難しいと思われるかもしれませんが、そんな時はやはり詳しいお店に頼り『白身魚を焼きたい』とか『ローストチキンにかけたい』という具合に相談するのがいいでしょう。次第に自分なりの使い方のセオリーが見つかるはずです。
Text & Photo:Naoya Higuchi
Photo:Yu Nakaniwa (店頭・人物)
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