坂崎千春 インタビュー
暮らしに寄り添う、ペンギンを描く。

── ペンギンのことは昔からお好きだったんでしょうか。
ペンギンに限らず、子供の頃から鳥が大好きでした。できることならカモとかアヒルが飼いたかったくらい(笑)。あのぷりっとしたフォルムが好きだったんでしょうね。ペンギンを気にするようになったのは、ペンギンが主人公の大好きな童話があって、そこから入っていったような気がします。

── 作品として描くようになったのは?
大学生のときですね。絵本を作る課題があって、そこでペンギンを登場させました。カレンダーの課題でも、動物を数字に擬態させて、“1”をペンギンに。ダメ押しで、卒業制作のときもペンギンの絵本を作りました。

── 坂崎さんの描くペンギンは、ころころっとした線がとてもかわいいですね。
基本的に、擬人化はせずにシンプルに仕上げています。JR東日本の〈Suica〉の広告ではかなりキャラクター然としていますが、作品として描くのはあくまで普通のペンギン。少しだけ人間っぽいような行動をしているのが好きですね。

── 〈Suica〉のペンギン以外にも様々なキャラクターを生み出していらっしゃいますよね。
そうですね。当初国体のキャラクターとして描いたら、やがて千葉県のマスコットになったチーバくん。ダイハツのカクカクシカジカ、最近ではヤマトホールディングスのクロネコ・シロネコというキャラクターも。でも、キャラクターのものでは〈Suica〉のペンギンがいちばん最初です。『ペンギンゴコロ』という絵本を出版したら、代理店の方の目に留まって、お声がけくださって。ペンギンを描いたことが、いろんな方向に広がった感じです。

── 絵本もコンスタントに制作されながら、ご自身でも「ペンギン百態」という個展を2015年からずっと開催されていらして。
伊勢丹新宿店で4回ほど開催していて、すでにペンギンは400 態になりました。2015 年の1回目は走る、飛ぶ、といった動詞がテーマ。2017年の2回目はペンギンがいろんな生き物と戯れる「ペンギンといきもの」。3回目は色の名前をテーマにして、花や小物とペンギンを組み合わせた「色とりどり」。昨年は「空と海の鳥たち」をテーマに、ワシやフクロウ、オウムといった世界各国の鳥とペンギンを描きました。

── 今回のテーマの〈室町花鳥園〉にも様々なペンギンが登場します。
描き下ろしと、過去に描いたペンギンを組み合わせて再構成しています。もともとデザインの仕事をしていたので、コラージュ的に再構成するのも面白いかなと思って、平面上にペンギンや鳥たちを配置しました。

── 絵巻物のようにも見えますね。
自分の絵の特徴は、余白を活かすことかなと思ってるんです。真っ白な空間だけれど、そこに気配が感じられるように、抜けた構図を大事にしたいなと。背景を描くのが苦手というのもあるんですけど(笑)。平面なんだけれど、そこはかとなく空間を想起させるような絵を描くのが好きです。特に今回は日本橋という歴史ある街での開催ですから、和とペンギンという組み合わせで面白いイメージが作れたらと考えました。なかでも花札のイメージをもとに、ペンギンと鳥と花を組み合わせたのは初の試み。花札にはたくさんの鳥が出てきますし、季節に応じた絵柄があるので、再構築すると面白いかなと考えました。白と黒というシンプルな色も、花札の落ち着いたカラーリングに合っている気がします。

── 坂崎さんが描くペンギンはどれも愛くるしく、動きがリアルですが、制作時には水族館などでペンギンを観察されるんでしょうか。
昔はよく観てたんですけど、今はもう勝手に頭のなかで描けるまでになりました。ペンギンらしい動きは頭で覚えてしまっていますね。

── ペンギンを1態ずつ描くことには、どんな思いが込められているのでしょうか。
絵を購入していただくとき、いつもペンギンを送り出すような気持ちなんです。ペンギンがその方のご自宅へ行って、生活にそっと寄り添ってくれたらいいなと。原画であっても作品を身近な存在だと感じてほしいですから。特に今回は版画なので、多くの人に楽しんでもらえる作品が作れたかなと思っています。

── 企業キャラクターなどのお仕事も受けながらも、精力的にご自身の作品制作も行われている坂崎さんですが、今後どういった作品を描きたいと思われますか?
観たときに、ペンギンの存在とその余白から、自由に想像を膨らませることができる、暮らしに馴染む絵を描いていきたいですね。まずはペンギン1000態を目指します(笑)。

坂崎千春
絵本作家/ イラストレーター。 1967 年千葉県市川市生まれ 。1991年東京藝術大学美術学部デザイン科卒業後、1998年より フリーのイラストレーター、絵本作家として活動。主なキャラクターデザインに、JR 東日本の「Suicaのペンギン」、千葉県の マスコット「チーバくん」、ダイハツの「カクカクシカジカ」、ヤマトホール ディングスの「クロネコ・シロネコ」等がある。2011年市川市民芸術文化奨励賞 受賞。