
伊勢丹新宿店本館2階のアーバンクローゼットで2018年春夏シーズンからお取り扱いがスタートした〈イレーヴ〉は、お客さまはもちろん、ショップのスタッフにもファンが多いブランド。〈イレーヴ〉をスタートする前は、セレクトショップのプライベートブランドを手掛けていたというデザイナーの田口令子さんに、もの作りへのこだわりをききました。

田口令子
Profile
セレクトショップのデザイナーを経て、2018年春夏シーズンから〈イレーヴ〉をスタート。服の基本を大切に、素材やシルエット、仕立てにこだわった服作りを信条とする。
きちんと作られている“日常の服”がほしかった
「もともと、自分がブランドを立ち上げるなんて1ミリも思っていませんでした」そう語る田口さん。トラディショナルなアイテムを扱っていたセレクトショップ時代、歴史のある世界の名品に数多く触れるなかで、Tシャツのような日常着からカジュアルなワークウェア、毛芯仕立てのテーラードジャケット、フォーマルなウェディングドレスまで、さまざまなジャンルの服作りのルーツに触れてきたといいます。
「色々な服を作れる機会に恵まれたことは、デザイナー冥利に尽きる素晴らしい経験でしたが、ある時、自分が実際に着る服は日常の服で、フォーマルウェアなどの力作は、手元にほとんど残っていないことに気付いたんです。年齢と経験を重ねるなか、きちんと作られていて、かついまの自分や時代感に合うベーシックでシンプルなアイテムはどこで買えばいいのだろう、と思っていました」
そんな想いを抱くなか、田口さんのもの作りの背景にあった、「ベーシック」「ワーク」「テーラリング」、そしていまの気分を表現する「シーズン」という4つの要素から成るブランドを立ち上げることになったといいます。
ルーツを踏まえたうえで、独自のアプローチをプラスする
セレクトショップ時代に学んだ、さまざまな服のルーツ。それを踏まえたうえで、時に新しいアプローチを加えるという田口さん。
「分かりやすく例えるなら、古着のアメリカ軍のチノトラウザース。それはそれで好きだけど、いい素材と仕立てのものがほしいと思ったときに、大人も着られるよう、あえてシルクで作ってみたり…」
例えばシャツというアイテムを作るときも、シャツの仕様で、シャツの工場で縫製されている、ということを大前提にしながら、田口さん独自のバランス感覚がプラスされていきます。

〈イレーヴ〉シャツ 35,200円(綿100%/1・2)
□伊勢丹新宿店本館2階=アーバンクローゼット
「このシャツは、英国のシャツ生地専門メーカーTHOMAS MASON社の生地を使用しています。英国ならではのメンズらしい張り感が美しく、洗い晒しで一枚で着てもカジュアルになり過ぎないのがいいところ。衿のボタンを外して、袖をたくし上げて、リラックスした雰囲気で着ていただきたいですね。寒くなったらニットと重ね着。着丈が長めでラウンドヘムになっているので、ニットの裾から出てレイヤードされます」
このほかにも、裏返してもきれいな仕立てであること、身体と服のゆとり感、ステッチの入り方などなど…一枚のシャツをとっても、そのこだわりは細部にわたります。

カフスは長めの設定なので、ニットの袖口から少し折り返して出すのもいい
改めて向き合いたいのは、いまの自分に心地よいものは何なのか
ルーツに忠実でありながら、いまの時代にフィットするものを模索し続ける田口さん。最後に、今後のコレクションにも反映されていくであろう、“いまの気分”についてうかがいました。
「新型コロナによって数カ月前には予想もしなかった“いま”があると思います。突然周囲との距離や時間ができたことによって、自分を見つめなおすよい機会になったり、自分が本来持っているペースや感覚に気づいた方も少なくないのではないでしょうか。例えば着る服ひとつとっても、今日はリラックスしたい気分なのか、気分を上げたいのか、“いまの自分”にとって心地よいものは何なのか、ということに向き合うことが重要だったように思います」
自分がずっと好きだったものや基本に立ち返ることもいまの気分だと感じる、と話してくれた田口さん。以前とはちょっと違う“自分軸”から生まれる新たなクリエーションにも、今後ますますご注目ください。