【インタビュー】入江陵介 勝負の先に、見えるもの。スポーツの持つ力を信じて、さらに加速していく31歳。 

【インタビュー】入江陵介 勝負の先に、見えるもの。スポーツの持つ力を信じて、さらに加速していく31歳。 

0歳から始まった競泳人生も今年で31年目を迎え、気がつけばベテランと呼ばれる域に達した入江陵介。彼が初めて日本代表に選ばれたのは、16歳のころ。練習時にペットボトルを頭に乗せて悠然と泳ぐ彼の姿は、“世界一美しいフォーム”という触れ込みとともに、世界中にその存在を知らしめた。あどけない笑顔が印象的だったあの華奢な少年も、いまは凛々しく精悍な大人へと成長している。人生のすべてを競泳に捧げ、また、その半分近くを国の代表という立場で過ごしてきた彼は、まだまだ勢いを緩めることを知らない。むしろ北京、ロンドン、リオと3度のオリンピックを経て、いま彼の競泳人生は円熟を迎えている。31歳の入江陵介が新たに世界を見据え、世界最高峰のラグジュアリーファッションに身を包む。

入江選手
入江陵介●いりえ りょうすけ
1990年1月24日、大阪府生まれ。イトマン東進所属。0歳から水泳を始め、100m背泳ぎ、200m背泳ぎの日本記録保持者。2012年 のロンドンオリンピックでは銀メダル2個と銅メダル1個と計3個のメダルを獲得。第92回日本選手権200m背泳ぎにおいて史上初の10連覇を達成した。
『EPOCH JUNE 30, 2021 ISETAN MEN'S(入江陵介×EPOCH)』

Ⅰ.31歳を迎えたオリンピアンが、
世界のクリエーションに身を包む

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今日はラグジュアリーブランドの最新コレクションをご着用いただきましたが、いろいろなタイプのスタイリングを試してみて、どんな印象でしたか?

入江陵介(以下、入江):正直、普段から練習や試合ばかりの生活なので、そもそも私服を着る機会がなかなかないんですよね(笑)。練習に行くときはなるべく楽な格好していきますし、外食をするからといって、いきなりバチバチに決めたりするわけでもないので。でも、普段がそんな感じだからこそ、こういう機会に素敵な服を着させていただくと、普段とはまったく違った自分に切り替わるスイッチが入るような感覚で、ファッションの楽しさを実感できます。

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スタイルも抜群ですし、いつもお洒落に着こなしているイメージでした。

入江:一度買ったらずっと同じものを使い続けるタイプなので、あまり取っ替え引っ替え新しいものを買うわけではありません。でも、例えば大きな試合に勝てたときや、誕生日みたいな節目のタイミングで、バッグとか、時計とか、良いものをピンポイントで買うことはあります。大体海外遠征の時に、その国でしか売っていない限定品みたいなものを狙ったりするのですが、そもそも現地ではゆっくり買い物をする時間がない場合も多いので、帰りに空港で買うパターンがほとんどですね。あと、割と人の買い物に付き合うことも楽しめちゃうタイプなので、伊勢丹にもよく後輩を連れて来ていますよ。それいいじゃん!買っちゃいなよ! って、迷っている人を横から煽るのが好きなんです(笑)

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Ⅱ.メダリストとして伝える、
スポーツが持つ本当の力それを表現すること

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0歳から競泳を続けていますが、モチベーションを保つ秘訣は?

入江:自分が好きなことを突き詰めてきただけなので、あまり努力をしているとか、やらなきゃいけないという意識はないです。でも長くやってきている分、毎日高いモチベーションを維持するのは難しいことも事実です。疲れている日も、調子が悪い日も当然練習はあります。でもそれがどんな日だったとしても、他の日と同じように大切な1日であることに変わりはありません。だからいつものように100%がんばれなくても良いから、今日はここをがんばるとか、ここを意識するとか、その状態でできることに集中するようにしています。0%で1日を終わらせてしまってはもったいないので、その時に自分ができる範囲で、少しでもプラスにできることを考えるようにしています。ただ、プラスしすぎることもよくなくて、時にはマイナスする引き算の発想が大事になったりもします。イノベーションは必ずしもプラスから生まれるわけではなく、削ぎ落とすことで研ぎ澄まされることもあるので、そのバランスには普段から気をつけています。

これまでの競泳人生の中で、一番嬉しかったことは何ですか?

入江:2012年のロンドンオリンピックでメダルを取れたこと。大学一年生だった08年に、北京オリンピックに初めて行けた時も相当嬉しかったのですが、やっぱりメダルは格別です。競技別であれば世界選手権は他にも色々とありますが、競技に関係なく、世界中が注目をするオリンピックという舞台は、意味合いが全然違います。まずオリンピアンになること、そしてメダリストになることによって、大きなプレッシャーがのしかかることになりますが、それと同時に強い自覚や誇りも生まれました。

メダリストになって、日々の練習や試合に対する気持ちに変化はありましたか?

入江:スポーツは成績が一番だと思われがちですが、それとは違う部分の素晴らしさも、見方、受け取り方によっていくらでもあると思うんです。僕自身、ラグビーワールドカップを観戦したときに、結果的に負けてしまいましたが、それ以前にあの熱い戦いに心を打たれて、僕も頑張らなきゃ。明日からもっともっと頑張ろうって、強く思えました。それは、自分がスポーツをやっているからより共感できるというわけではなく、スポーツは誰の心にも、言葉では言い表すことのできない熱いものを、直接伝えることができると思っています。最近だと、病気を乗り越えてさらに力強く前進していく池江璃花子選手の姿も、競泳ファンだけに留まらず、世界中の多くの人を勇気づけています。それが本当のスポーツの持っている力だと思うんです。僕も真摯に競泳と向き合っている姿を見せることで、誰かに何かを感じてもらえたら嬉しいなって、そういう思いが強くなりました。



Ⅲ.心身をコントロールして、常にベストを引き出す

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一世一代の大勝負のとき、緊張とはどのように戦いますか?

入江:いつまでたっても、緊張はどうしてもするし、負けたらどうしようって不安にもなるので、あえてそれに直接抗うようなことはしません。そこに自分の意識を向けるよりも、とにかく目の前のレースに集中し、スタートはこういう感覚で入って、こういった試合の流れに持っていくとか、自分がやるべきことをしっかりとイメージすることが大事だと思います。自分がやるべきことが明確であれば、あとはそれを落ち着いて実行するだけ。横にいる他の選手がどういう選手だとか、負けたらどうしようとか、相手主体な考え方に飲み込まれてしまうと、絶対良いレースにはなりません。あくまで自分主体に考えることが重要です。そういうことを試合前のウォーミングアップの段階から意識していると、その日の自分のコンディションを客観的に理解できて、今日はこういう感じだから、こう攻めてもいいかもしれないという具合に、インスピレーションも柔軟に広がっていきます。

レースが毎日のように続く大会中は、集中力はどのように保っていますか?

入江:練習や試合以外の日常生活では、なるべくスイッチを切った状態にして、ここぞという時にだけ、集中力を高めるようにしています。集中力って本気で使うとかなり消耗されるので、普段はなるべくメンタルと身体を休ませるようにして、大事な勝負時に備えるようにしています。特に大会中は、ウォーミングアップがうまくいかなかったとか、思ったように結果が出ないとか、いろんなことが毎日起こりながらも、レースは淡々と続いていきます。そんな中でも自分のマインドセットを臨機応変に切り替えて、持てる力を十分に発揮できるように、心身をコントロールすることがとても重要になります。

入江さんといえば、頭にペットボトルを乗せたまま泳ぐことができる、美しく正確なフォームが印象的です。競泳では美しさや正確性も重要な要素となりますか?

入江:もちろん、フォームの面もそうですが、50メートルを何ストロークで折り返すとか、何秒で入るとか、自分の感覚と距離とタイムを一致させることが、とても大事になります。なので毎日の練習の時から、これぐらいのインターバルで何本泳ぐという具合に反復練習を重ねて、しっかりと身体に染み込ませておくようにしています。特に試合になるとアドレナリンが出て、自分の感覚以上のタイムで飛ばしてしまったり、ストロークも早く回数が増えてしまったりすることもあるので、常に冷静になって、自分にとってベストなパフォーマンスを発揮できるように、正確さを追求する必要があります。

 まだあどけない少年時代から、常に国を背負って戦い続けてきた入江陵介にとって、勝利を貪欲に追い求めるという行為は、彼が泳ぎ続けている以上、最も重要な命題である事に変わりはない。しかしスポーツに生き、泣き、笑い、その素晴らしさを心から噛み締めてきた彼は、ひたむきに自分自身と戦い続けること自体が、どこかの誰かに勇気を与える結果となることもよく理解している。入江陵介の競泳人生は、これからも日本中を熱狂させていくことだろう。


Photograph:MINORU KABURAGI
Videograph:MASARU FURUYA
Text:Minimal Inc.


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