【EPOCH-AL/インタビュー】伝統技術ディレクター立川 裕大。ポテンシャルを引き出し、世界に向けて発信する重要性。

【EPOCH-AL/インタビュー】伝統技術ディレクター立川 裕大。ポテンシャルを引き出し、世界に向けて発信する重要性のメインビジュアル

Photograph:GION (マテリアル4枚)

 

その時々のキーワードとなるようなストーリーを、さまざまな角度から、インタビュー記事なども含めてご紹介していく「EPOCHーAL (エポカル)」。今回は、伝統技術ディレクターの立川 裕大氏に、世界に向けて発信していく重要性について伺った。
私たちは常に、新しい価値観を外の世界に求め、見識を広げてきた。しかしいま、外との交流がままならない状態が長く続いたことによって、新しいモノやコトは自分たちの足元にもたくさん転がっているという単純なことに、誰もが気づき始めている。外からの刺激に触れる機会が減少したここ数年は、自分たちの身近なことに目を向ける、またとない契機となっているのだ。伝統技術ディレクターの立川氏は、そんな昨今の状況を歓迎する人物のひとり。かねてから、日本の伝統技術の素晴らしさを世に広めてきた彼は、「日本には、まだまだ大きなポテンシャルが眠っている」と断言する。今回「EPOCHーAL」では、立川氏が関わる伝統工芸の中からピックアップした4種の意匠と、トップブランドから届いた最新コレクションのマリアージュに挑んだ。日本古来の価値観と、世界の最先端を行く価値観の融合は、これまでにない、新しいクリエーションを誘発する。

 
立川 裕大さんの手掛けた素材の像
Photograph:正木 達郎
 

───これまで、伊勢丹新宿店の店内を飾る数々のオブジェを始め、CLASKAや東京スカイツリーなどで、日本の伝統技術をフィーチャーしたプロジェクトを数多く手掛けてきた立川さんですが、もともとは、どういった経緯で伝統技術と関わるようになったのですか?

立川 裕大 (以下立川): 学生時代からイタリアのコンテンポラリーデザインに傾倒していた僕は、20代の頃にカッシーナ (現カッシーナ・イクスシー)に就職しました。その後、あるインテリアショップの店長になった90年代の半ばは、プロダクトデザインに大きな注目が集まり始めた状態で、僕も足繁くミラノ・サローネなどに足を運び、マエストロと呼ばれるデザイン界の巨匠たちと接点を持つことができました。しかし彼らは、「イタリアのコンテンポラリーなデザインもいいけれど、自分の足元にも素晴らしいものが埋まっているんだから、まずそれを掘り返して勉強するべきだ」と、口をそろえたように言うのです。その経験がある種の洗礼となり、僕は日本の伝統技術と向き合うために、33歳の時に独立する決意をしました。それから4年ほど経ったタイミングで参加したのが、CLASKAのリノベーション・プロジェクトでした。そこで形にした、“最先端の空間のために伝統工芸を活用する”というコンセプトがひとつのベンチマークとなり、伝統技術ディレクターとしての僕の仕事は本格的にスタートしました。

 
  • TOKYOSKYTREE [江戸切子]の画像

     

    TOKYOSKYTREE [江戸切子]/ Photograph : 淺川 敏
  • パークコート文京小石川 ザ タワー [ガラス左官]の画像

     

    パークコート文京小石川 ザ タワー [ガラス左官]
    Photograph : 林 雅之
 

───長年同じことをひたむきに続けてきた伝統工芸の職人たちにとって、立川さんが手掛けているような斬新なプロジェクトに参画することは、どのような意味がありますか?

立川:彼らが続けてきた仕事は、数十年、もしくは数百年続けられるような仕事ですが、それらは今、明らかに縮小していく傾向にあります。反対に、僕たちが手がける仕事は、オートクチュールとか、F1のレーシングカーを作るのと同じように、時間も労力もかかるうえに、量産もできなければ、一回で終わってしまうことがほとんどです。だから、何か新しいことに挑戦したいという、強い好奇心を持った職人しか集まりません。ただ、この経験で得られた新しい知見は、伝統技術の可能性をさらに広げ、未来を切り拓くことにも繋がっていくはずです。

───デザイナーでも職人でもない「伝統技術ディレクター」という仕事は、具体的にどのようなことをするのですか?

立川:極端な話、僕はデザインすることもできないし、物を作ることもできません。デザイナーと職人の両者をつないで新しい物を生み出したり、伝統工芸をブランディングしたり、中間に立ってプロジェクトを遂行する役割がメインとなります。正直、日本人はデザインを生み出す力も、上質な物を作り出す技術力も、海外にまったく引けを取らないどころか、むしろ上を行っている部分も多いと思います。しかし、それをうまくブランディングしてビジネスに変えていく力に関しては、欧米の企業と比べると、圧倒的に劣っているのが事実です。ヨーロッパのビッグメゾンには、世界中からトップクラスのビジネスパーソンが集まってきて、デザインや伝統技術の魅力を最大化しながら、世界に向けて打ち出しています。イタリアのマエストロたちが言っていたように、日本の伝統工芸には、大きなポテンシャルが眠っています。そこにあるアセットの魅力を引き出して、広く伝えていける人材が増え、彼らがどんどん活躍できるようになれば、もっと日本からもグローバルブランドが生まれていくはずです。

 
  • 素材、金属織込の画像
  • 素材、竹織の画像

Photograph:GION

───立川さんがブランディングを手掛けた鋳物メーカーの能作は、地方の町工場がそのオリジナリティを生かして、世界から求められるブランドへと成長したひとつの成功事例といえます。ブランディングを手がける上で、重要なことはなんですか?

立川:素晴らしいデザインと技術があっても、それが人々にうまく伝わらなければ、当然ヒットは生まれません。そこで重要になるのは、それをどのようなターゲットに、どのようなストーリーとともにPRして、どのような販路で流通させるのかという、グランドデザインを描くこと。そこを明確にすることが、ブランドビジネスの基本だと思います。実はいま、自社でラグジュアリーブランドを立ち上げるために、来年のローンチに向けて準備を進めています。イタリア・フランス・英国などに残る伝統工芸は、確かに最上級のクオリティを誇るものばかりですが、種類の多さと幅の広さにかけては、圧倒的に日本の伝統工芸が勝っていると思います。新しく立ち上げるブランドでは、そんな幅広い表情を持つ日本を編集するというコンセプトのもと、さまざまな伝統工芸にフォーカスを当てながら、世界に強く打ち出していければと考えています。

 
立川 裕大さんの事務所の画像
Photograph:GION
 

 

立川 裕大さんのプロフィール画像
立川 裕大 (たちかわ ゆうだい)
伝統技術ディレクター
1965年、長崎県生まれ。株式会社t.c.k.w 代表。
日本各地の伝統的な素材や技術を有する職人と、建築家やインテリアデザイナーの間を取りなし、空間に応じた家具・照明器具・アートオブジェなどをオートクチュールで製作するプロジェクト「ubushina」を実践し伝統技術の領域を拡張。主な作品は、「東京スカイツリー」、「八芳園」、「CLASKA」、「ザ・ペニンシュラ東京」、「伊勢丹新宿店」など多数。
 
 
  • 3Dステンレスパネルの画像

     

    3Dステンレスパネル
     
  • 竹編み (輪孤編み)の画像

     

    竹編み (輪孤編み)
     
  • 型ガラスの画像

     

    型ガラス
     
  • 組子 (子持ち菱)の画像

     

    組子 (子持ち菱)
     
 

Photograph:MINORU KABURAGI
Text : Shingo Sano

 
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