イタリア展バイヤー紀行|イタリア各地で出会ったアルティジャーノたち

長い歴史を持ち、南北に長い地形が特徴のイタリア。地域ごとに独自の文化が発達し、職人による皮革・陶芸・ガラス・宝飾と言った伝統工芸が発達した都市が数多くあります。今回は、イタリア各地のアルティジャーノ(職人)や作家の元を訪ね、創作にかける想いや物づくりの裏側に迫ります!
ー南イタリア、陽気で愛らしい陶器の街に到着!
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陶器の街ヴィエトリ・スル・マーレ
まず訪ねたのは、陶器の街ヴィエトリ・スル・マーレ。南イタリアのアマルフィ海岸に位置する、マヨルカ焼の一大生産地です。こじんまりとした街ですが、色とりどりの陶器が一面に飾られたお店が立ち並ぶ通りや、大小さまざまな陶器工房が点在しています。
最初に訪ねたのは、<チェラミカ・マッシッミーノ>の工房。小さな工房にはカラフルな陶器が所狭しと並んでいて、見ているだけでワクワクします!成型から絵付け・焼成まで、一貫生産を行っているこの工房。おじいさんやお父さんに見守られながらお手伝いしているアレッサンドロ君のほほえましい光景に、陶器作りが家族の生活に根付いている様子が垣間見えます。
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工房はカラフルな器や道具でいっぱい!
ー繊細なレリーフと鮮やかな彩色が美しいタイル
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社長のルチアーノさん(左)、工房での繊細な絵付け作業(右)
ランベルト・タスタルディ(別名 ルチアーノ)によって1955年に創設した<クレアツィオーニ ルチアーノ>。独自開発された精巧なレリーフ(浮き彫)加工に、美しい色をのせて焼き上げた「クロイゾンネチェラミコ」(日本の七宝焼のように融けた釉薬によるガラスあるいはエナメルの美しい彩色を施す装飾をした陶器)で知られる工房です。現在は兄ルチアーノさんが経営を引き継ぎ、家族の伝統を守り続けています。
手彫りで作られる原版をもとにした浮き彫りの陶板に1枚ずつ職人が彩色を施すため、絵柄は同一でも微妙に色使いや表情が異なり、ひとつとして同じ作品は生まれません。
デザインを担当する弟のロベルトさんは、父親から受け継いだ作品にモダンで新しい要素を融合させ、制作しています。ご自身も芸術家として、世界で活躍するロベルトさん。2024イタリア展Part2に来日し、色付けの技術を披露します!
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イタリアの風景を模した作品(左)、私が色付け体験したタイルは表面ガタガタ!(右)
ー芸術の街で訪れた、ガラスモザイク工房
ナポリからフィレンツェに移動すると、違う国に来たかのように雰囲気がガラっと変わります。フィレンツェに到着してすぐ訪問したのは<フィリッピーニ&パオレッティ>。街の中心部にある古い建物に構えるこちらの工房では、フィレンツェに伝わる高度な技術を受け継ぎ、昔ながらの方法でガラスモザイクを作っています。
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熱で溶かしながら棒状に引き延ばしたガラスは、30mもの長さに!
実際にその工程を見せていただくと、驚きの連続!ジャンニさんがガラス板を溶鉱炉で溶かし、サンドラさんが絶妙な力加減で細長く引き延ばしていきます。職人の経験と勘で色を作り出し、花びらや葉っぱなどの型ができあがります。できあがった棒状のガラスモザイクは短くカットし、ペンダントトップやブローチ、フォトフレームなどの装飾に加工されます。
色とりどりに輝くガラスモザイク。アクセサリーとして身に着けると、上品な可愛らしさが目を引きます。イタリア展に向けて新作を交えてたくさんご用意します!お気に入りを見つけにいらしてくださいね。
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色とりどりのガラスモザイク(左)、工房の皆さん。素晴らしいチームワーク(右)
ーフィレンツェ伝統の美しいマーブル紙
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一枚ずつ丁寧に仕上げられるマーブル紙(左)、工房自体がまるでアート!跳ねたインクの重なりが歴史を物語る(右)
続いて訪れたのは、フィレンツェの伝統工芸であるマーブル紙の工房<イルパピロ br Peacock Paper>。絵具を溶液に落とし、作られた模様を紙に吸い付けてマーブル模様を生み出します。その技を披露してくれた職人のディエゴさん。お父さんもマーブリングの職人をされていて、子どもの時からこの工房が遊び場だったそう。まるで魔法のように見えるマーブリングの作業。近くで見ると、気泡が入らないように繊細な技でコントロールしていることがわかります。一枚ずつ作業していくため、柄の出方や色合いがそれぞれ異なり、水面に浮かんだ模様が紙に吸い付いて仕上がる瞬間は、胸が高鳴ります!
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フィレンツェ市内の直営店
フィレンツェ市内にある直営店では、手帳やカード、ブックカバーがずらり。マーブリングのデモンストレーションも行っているのでフィレンツェを訪れた際にはぜひ立ち寄っていただきたいスポットです。イタリア展Part1では、お父さんにより1976年に創業された<イルパピロ>2代目のステファンさんが来日し、伝統的なマーブリングの技を披露します。お楽しみに!
ー時代と国境を越えて受け継がれる職人技
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代々引き継いできた工房と貴重な道具
街の中心地に工房を構える<ブルスコリ>。1881年に活版印刷業と製本業を営む工房として創業しました。年月を経て同業者が次々に廃業していく中で、装丁本製作と革の金装飾職人として、ここフィレンツェでも大変貴重な存在です。
そんな歴史ある工房の5代目を継いだのは、なんと日本人女性!5代目社長を務める齊藤 美菜子さんは、革職人の学校を卒業し自分の工房を探していたところ、先代のパオロさんと出会い弟子入り。後継者がいないことを知り、この工房を引き継いだと言います。国籍も世代もまったく違う二人ですが、フィレンツェの大切な伝統技術を絶やさず生かしたいという同じ志を持って出会ったこと、運命的なものを感じてしまいます。
昔ながらの機械や道具を丁寧に扱い、当時と変わらぬ方法を大切にしている齊藤さん。やり直しのきかない繊細な作業を、迷いのない手捌きで仕上げていく様は、まさに職人技。同年代の女性が異国の地で伝統技術を受け継ぎ、真摯にもの作りに邁進する姿に、私自身とても刺激を受けました。
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<ブルスコリ>5代目 齊藤 美菜子さん
今は家具の革の金装飾など、オーダーで受ける仕事のほか、感性を生かして今のスタイルに合うバッグや小物も制作しています。イタリア展では齊藤さんが来日し、ブルスコリ家が代々引き継いできた貴重な革の押し型を使った刻印のオーダーも承ります。ぜひ、会場で職人技と感性が光る作品の数々をご覧ください!
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感性あるれる色使い(左)、製本業から始まったブルスコリを象徴するバッグ(右)
ームラーノ島でガラスの工房を訪問
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ユキーナさんの工房(左)、新作のネックレス(右)
イタリア出張のラストはベネチア!ヴァポレット(水上バス)でムラーノ島に向かいます。オフシーズンのムラーノ島はとても静かで、水面が揺れる音やボートが岸にこすれる音に、時折教会の鐘の音が響きます。橋のたもとに見えるオレンジ色の建物が日本人ガラス作家<ユキーナ江袋>さんの工房兼ショップです。20代でイタリアに渡りベネチアのガラスに魅了され、その技術を習得したユキーナさん。もともと学んでいたテキスタイルデザインの知識と豊かな感性を生かし、オリジナリティ溢れるガラスアクセサリーを作り続けています。
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糸のように柔らかくなったガラスで繊細な模様を描く
工房では、ユキーナさんの代名詞ともいえるビーズ(ガラス玉)作りを見せていただきました。熱で柔らかくなった細いガラス管を、糸を紡ぐように透明のガラス玉にのせ、レースのような文様を描きます。温度や力加減で、自由自在にオリジナルのガラス玉を作りだすユキーナさん。「いつもこうやって、ガラスで遊んでます」とおっしゃるように、創作そのものを心から楽しんでいる様子が印象的でした。
そんな遊び心に満ちたガラスアクセサリーはすべて1点もの。身に着けていると「それ、どこの!?」と会話のきっかっけになり、お友達経由でファンになる方も多いのだそう。イタリア展にはユキーナさんご本人も来場し、お客さまのアクセサリー選びをお手伝いいたします。
こちらは、家族4人でガラスの器やアクセサリーを製作している<エッセドゥエ>。アクセサリーに使うビーズ(ガラス玉)は、伝統製法を守り、加熱したガラスを銅の棒に巻き付けて18金の金箔や銀箔で装飾しています。繊細で上品なデザインが魅力の<エッセドゥエ>のアクセサリーのデザインと組み立ては、主にセレーナ家の二人の女性が担っています。イタリア展では<プリムローズ>のオーナーがイタリア展のためにセレクトした新作も交えてご紹介いたします。
古くから脈々と受け継がれるベネチアのガラスは、温かみがあり鮮やかな色彩が特徴。ベネチア共和国時代には、ガラス技法が他国に流失するのを避けるために、ムラーノ島だけにガラス工房を集約して職人の切磋琢磨によって芸術の分野にまで発展したと言われています。今もこのムラーノ島で中世の頃と同じ技法でガラス作りを続けていると思うと、ガラスビーズ一つひとつが愛おしく感じられます。
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ムラーノ島の工房で、一つひとつ丁寧に仕上げる様子(左)、アクセサリーのデザインを手掛けるお二人(右)
ー旅を振り返って
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フィレンツェを流れるアルノ川
南イタリアから北はベネチアまで。地域文化とともにある手仕事の奥深さに触れることができた数日間。良いものを継承していくことの大切さを再認識し、伝統工芸のあり方を深く考えるきっかけにもなりました。職人の皆さんの、もの作りへの情熱・信念・誇りと、仕事を心から楽しんでいる姿が本当に印象的で、そこから生まれる商品一つひとつをとても愛おしく感じました。イタリア各地の素敵な品々を通して、長い歴史と文化、ものづくりに携わる人たちの想いをお届けできたらと思っています。
イタリア展には、現地から職人や作家の皆さまも来日します。ぜひ会場で会話を楽しみながら、イタリア各地から届いた素敵な品々と、その背景にあるストーリーを感じていただけたら嬉しいです!
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ベネチアの街並み
イタリア展 2024
Part1:2024年4月23日(火)~4月29日(月・祝)[最終日午後6時終了]
※4月23日(火)はエムアイカードプラス会員さま特別ご招待日
Part2:2023年5月1日(水)~5月6日(月・振替休日)[最終日午後6時終了]
※4月30日(火)は会場準備のため終日閉場いたします。
□日本橋三越本店 本館7階 催物会場