宝石商でもあるデザイナーと職人の共創から生まれる驚きのクリエーション|<ボロロ>&<詫間宝石彫刻>

宝石商でもあるデザイナーと職人の共創から生まれる驚きのクリエイション|<ボロロ>&<詫間宝石彫刻>

ブランドやプロダクトが気になったとき、もっと深く知りたくなるのがデザインに込められた想いやデザイナー自身のこと。そんな「ブランドの人となり」に伊勢丹新宿店の装身具バイヤーが切り込む連載企画。今回は<bororo/ボロロ>デザイナーの赤地明子さんとシグネチャーアイテムのロックリングをはじめプロダクトの加工を手がける<詫間宝石彫刻>の詫間康二さん。「10年経っても色褪せないジュエリーを作っていきたい」と声をそろえるおふたりでした。

アクセサリーイメージ

RPGのように情報を集めて採掘場まで足を運んで


3人

バイヤー:赤地さんと詫間さんがジュエリーの世界へと進んだ理由はなんだったのでしょうか。

赤地:私は前職がシステムエンジニアでした。IT系は実体があるようでないような仕事だったので、目に見えて形として残るようなことをやりたいと思うようになり、昔から石が好きだったこともあり宝石商を目指したんです。すでに20代後半で知識も経験もゼロだったので、ショートカットの意味でも宝石に関する資格を取得できるアメリカの学校に留学しました。

詫間:僕の場合は家業が関係しています。山梨県でジュエリーに携わっている工房はいくつもあるのですが、大きくは石加工と金属加工に分かれます。石加工の職人がいるのは日本でも山梨県が唯一ともいわれていて、甲州貴石彫刻は国の伝統工芸にも指定されています。<詫間宝石彫刻>は父親の代から続いているので自分も跡を継いで彫刻家になるつもりだったのですが、石の彫刻は工芸としても衰退しつつありました。そこで自分は金属加工の道に進んだんです。

バイヤー:詫間さんといえば石加工のエキスパートのような印象ですが、最初は金属加工だったんですね。

詫間:金属加工は高校卒業後から10年間やりました。それでも石をやりたいという思いは捨てきれず実家に戻って石彫刻に主軸を置きました。結果的に金属加工も石加工も引き受けることができたので、そこからジュエリー業界との接点が生まれたんです。

詫間さん

バイヤー:赤地さんと詫間さんが知り合ったきっかけというのも、今回お聞きしたかったことのひとつです。

詫間:現在、海外から日本に輸入されているのは加工済みの天然石がほとんどです。でも石加工を生業としている身としてはそれでは仕事にならないので、自分でも海外に石を買い付けに行っています。僕の場合は産地から採掘された石が集まる展示会に足を運ぶのが主なのですが、赤地さんは採掘される現地まで訪れていて、最初に抱いた印象はこの人は何者だって(笑)。

赤地:「この石はどんな場所で発掘されいているのかを知りたい」という気持ちが強かったんです。石の産地の街の人たちから情報を集めて、奥地へ奥地へと向かいました。それこそRPGのような感じです。

「石をそのまま肌に載せている」が理想のデザイン

バイヤー:石の買い付けということではおふたりは同業者でもあったんですね。そこから赤地さんはどうしてジュエリーをデザインするようになったのでしょうか。

原石イメージ

赤地:単純に自分が身につけたいと思えるジュエリーがなかったんです。私は「石をそのまま肌に載せている」ようなジュエリーが欲しくて知り合いに制作してもらったこともあるのですが「なんか違うな‥」って。石を加工してくれる職人さんともたくさん知り合っていたので、それだったら自分で最初からデザインをしてしまおうというのがジュエリーブランドとしての<ボロロ>の始まりです。

詫間:僕のところへは赤地さんからの突然の電話でした。当時、<詫間宝石彫刻>を知ってもらうためにホームページを立ち上げて、自分たちの技術をアピールする記事を公開したんです。「石に穴を開けることもできます」と記載していたら「サファイアにうまく穴を開けることができないんです!」って赤地さんから相談があって。ホームページを開設して一番最初に連絡をくれたお客さんでした。

赤地:他の業者さんはサファイアが割れることを恐れて真ん中あたりに穴を開けようとするのですが、私としては端っこギリギリに開けたかった。それを叶えてくれたのが<詫間宝石彫刻>でした。

赤地さん

詫間:その電話でのやり取りの最中に赤地さんが採掘場にまで足を運んで石を買い付けている、その様子を写真に残しているということを知って、<ボロロ>に興味が沸いたんです。先ほどの僕と赤地さんが知り合ったきっかけはという質問に対して答えるなら、海外でバッタリとかではなくて電話です(笑)

バイヤー:ジュエリーに使われる石の産地は鑑別書に記載はされていますが、なかにはルーツに辿り着けないものもあると聞きます。ですが<ボロロ>は赤地さんが現地にまで足を運んでいるので生産背景が本当にクリアだなって思います。

赤地:もちろんすべての産地を毎年訪れることはできないので現地から配送してもらったり、信頼できるバイヤー仲間を頼ったりしながら石を揃えています。できるだけ産地直送をモットーに活動しています。

詫間:昔は石の産地に興味を持つお客さまは皆無でしたが、最近は希少性にもつながることから気にする方も増えてはいますね。

バイヤー:産地が明確であることは、伊勢丹新宿店のお客さまも ブランドに対する信頼のひとつにしている部分はあるように感じます。

ネックレス

地球に育まれた石の自然な姿を活かしたい

バイヤー:<ボロロ>のジュエリーデザインについてもお聞きしたいのですが、「石をそのまま肌に載せている」というのはどういう意図が込められているのでしょうか。

赤地:天然石の種類によっては採掘されたときからまるで加工を施したかのような美しい幾何学的な形のものもあります。地球に育まれた自然な姿そのものが完成されたアートピースだと思っているので、<ボロロ>としては石が持つ本来の美しさを楽しんでもらいたいという考えなんです。どこかに突起があったり、逆に凹んでいたり、デコボコしていて歪なようでもそこに石の個性を感じるので、そのままの姿でリングにしたり、ピアスにしたりすることが多いです。

ピアスイメージ

バイヤー:石がいちばん引き立つように、元々の形状をそのままデザインに活かそうという発想は、自らが産出地で石を買い付けている赤地さんらしいです。

赤地:石のフォルムや表情もそのままで可愛いと思ったら、加工は必要がないと思っているんです。原石を並べてひとつひとつの個性を眺めるのは私にとって至福のひとときです(笑)。この石はここがいいよねって感じるポイントは詫間さんと近いと思っています。

詫間:付き合いは長いですから。赤地さんがその石のどの表情を活かしたいのか、なんとなくは察することはできますね。

バイヤー:必要以上に加工をしない<ボロロ>のジュエリーはデザインも同質化されていないので、「自身の個性とマッチするジュエリーを見つけてください」というメッセージをすごく感じます。赤地さんが作りたいジュエリーがあって、そこに詫間さんの技術が合わさって唯一無二のジュエリーが生まれるのですね。

詫間:ギリギリの位置に穴を開けるのも自分たちだけの特別な技術ということではないですよ。山梨県の石加工は基本的には分業制なんです。穴開けだけを専門にする工房もありましたが、職人さんはどんどん減っていった。だから自分たちでもできるように技術を磨いていくしかなかったんです。でもそのおかげで<詫間宝石彫刻>は高いクオリティで幅広く対応できると言っていただけるようになりました。

10年経っても色褪せないジュエリーを作ろう

バイヤー:<詫間宝石彫刻>がお取り引きをしているブランドとして、公表しているのは<ボロロ>だけだと聞いたことがあります。

詫間:他のブランドとの取り引きを隠しているわけではないですよ。ただ、ジュエリー業界との接点がどんどん広がっていったのは<ボロロ>がきっかけだったのは間違いないです。2013年に<ボロロ>のロックリングのメイキング動画を公開したのですが、そこからジュエリー加工に関するお問い合わせが一気に増えました。

赤地:私が詫間さんにお願いした時点で、すでにいくつかのジュエリーブランドを手がけていたはずです。ですが<詫間宝石彫刻>で加工していることをむしろブランドの方が公表していなかった。私としてはこんなにも優れた技術を持つ工房が山梨県に存在することをみんなに知ってもらいたかったんです。<ボロロ>のカタログでも<詫間宝石彫刻>のことは必ず紹介しています。

詫間:赤地さんと一緒に仕事をするようになったとき、僕はひとつのお願いをしたんです。<ボロロ>のジュエリーには山梨県の伝統的な技術が活かされていることを発信してほしいと。赤地さんはそこに共感してくれて<詫間宝石彫刻>は一緒にモノづくりをしているパートナーだと言ってくれています。

バイヤー:<ボロロ>のロックリングといえば<詫間宝石彫刻>というのも広まってきているので、技術を身につけたいと詫間さんの下で働きたいという人も増えているのでは?

詫間:<詫間宝石彫刻>のことをどこかで調べて、修行させてほしいと訪ねてくる方が増えました。ロックリングを制作する工程に興味を持ってくる方も多いです。

作業イメージ

バイヤー:<ボロロ>のロックリングはどのようにして生まれたのでしょうか。

詫間:赤地さんがロックリングのアイデアを持ってきたときに、「10年経っても色褪せないジュエリーを作ろう」と一緒に話し合ったんです。そのアイデアを実現するために採用した技法が「同摺り」でした。

赤地:ロックリングは「石の中の宇宙を覗く」がコンセプトで、眺めているだけで満足するようなジュエリーを作りたかったんです。ベースは同じで石を載せ替えているだけですが、それでも毎回のように新しい「石の中の宇宙」が生まれるのは、それだけ完成されたプロダクトなんだと思っています。

石イメージ
石イメージ

詫間:昔はジュエリーといえば他の鉱物や気泡などのインクルージョンがあることは良しとはされていなかった。赤地さんはそのインクルージョンも石の魅力や個性として宇宙に例えたんです。ロックリングを発表したとき、あちこちのクリエーターから「衝撃的だった」という声をもらいました。確かロックリングの初お披露目は伊勢丹新宿店でのポップアップだったはずです。

バイヤー:伊勢丹新宿店でもロックリングのファンは石が好き、石に興味があるという方は多いです。一方で石が大ぶりでも主張しすぎることもなく、デザインも洗練されていているのでコーディネートアイテムとしても同じぐらい支持されていて、「とにかくファン層が幅広い」というのが店頭スタッフたちの意見です。

赤地:ジュエリーに限らずブランドをやっていたら誰もが憧れの出店先として伊勢丹新宿店を目指すはずです。そんな場所でいろんな方が<ボロロ>を選んでくださるのはすごくうれしいです。最近はスモーキークォーツ系のロックリングを身につけてくれる男性も増えているみたいですね。

リング石イメージ
リング石イメージ

共通する想いは「みんなを驚かせたい」


赤地さんと

バイヤー:これからもおふたりはきっと私たちを驚かせてくれるような ジュエリーを作り続けてくれると思っていますが、今後の展望などがあれば教えてください。

詫間:新作に向けては赤地さんとも常に意見交換のようなことはしていますよね。モノづくりに関して僕と赤地さんの想いは一致していて、「とにかく驚かせたい、おもしろいと思ってほしい」に尽きます。

赤地:甲州貴石彫刻も後継者不足が課題と聞いているので、詫間さんと一緒に私たちも頑張って少しでも職人が減ってきている流れを変えていけたらとは思っています。

詫間:「子どもの頃に宝石研磨のワークショップに参加しました」って挨拶をしてくれた方もいます。当時は小学生だったのが大学生になっていて、もしかしたら近い将来に石加工の世界に飛び込んできてくれるかもしれない。甲州貴石彫刻を絶やさないためにもそういう人たちに仕事の場を設けて、育てていくことも僕たちの重要なミッションだと思っています。

バイヤー:最後に三越伊勢丹のお客さまに<ボロロ>としての想いを伝えるとしたら。

赤地:<ボロロ>のジュエリーがおばあちゃんからお母さん、さらには娘さんへと受け継がれるような存在になってくれたらうれしいです。ジュエリーである以上、石そのものの価値も大事なことですが、「可愛い」や「身につけていて心地いい」など直感的に自分の好きで選ぶのもおすすめです。一期一会の石との出逢いを<ボロロ>で楽しんでもらえたらと思っています。そのためにもロックリングと同じぐらい、三越伊勢丹のお客さまに長く愛してもらえるジュエリーをこれからも作っていきたいです。

イメージ

赤地明子
宝石商、bororoデザイナー。<bororo/ボロロ>は旅する宝石商。GIA: Gemological Institute Of America を卒業後、美しい石を探して世界中を旅することで、コロンビア、ブラジル、ドイツ、タンザニア、スリランカ、タイなどに独自のコネクションを持つ。「天然石の美しさをそのまま身につける」をコンセプトに、デザイナー自ら世界中を旅して宝石を集める。川の中、土の中、鉱夫のおじさんのポケットの中まで時間をかけて探し、熟練の職人に依頼してひと粒ひと粒の石にあった加工を施しジュエリーに仕上げている。

宅間さんと

詫間宝石彫刻
富士山、八ヶ岳、南アルプス、日本を代表する山々に囲まれた山梨では美しい水晶が産出されたことから唯一の水晶加工の産地として発展しました。1967年、先代であり父の詫間悦二が「詫間宝石彫刻」を創業。二代目として詫間康二、亘が山梨の伝統工芸である甲州水晶貴石細工の技術を受継ぎました。私たちは伝統的な技法を使いながら、原石の中に風景や美しさを見出し、オブジェからグラス、身につけるものまで幅広い石の魅力を引き出す作品を制作するなど新しいことへの挑戦を続けています。また次の世代へと確かに繋げていくことが私たち伝統工芸士の大きな役割と考え日々取組んでいます。