「迫力のある服」のためのオリジナル生地へのこだわり|<シーマリー>岩田 千晃インタビュー

伊勢丹新宿店のインタビューには2回目の登場となる<cccmalie/シーマリー>の岩田 千晃さん。<シーマリー>といえばカシミヤシルクとツイードが代表的でポップアップでもすぐに完売になるアイテムが多いので、生地のクオリティの高さを解き明かす質問をしてみました。岩田さん自身が満足するため、納得するため。そのモチベーションはシンプルでも、こだわりは徹底したものでした。
cccmalie 2024SS POP UP STORE
□2024年3月27日(水)~4月2日(火)
□伊勢丹新宿店 本館2階 センターパーク/ザ・ステージ#2
※諸般の事情により、営業日・営業時間、予定しておりましたイベントなどが変更・中止になる場合がございます。必ず事前にホームページを確認してからご来店ください。
自分が本気でベストと思える生地だけで服を作りたい
—今回のポップアップに登場する2024年の春夏コレクションにテーマなどはありますか。

岩田:「マニッシュの中にも可愛らしさを」というブランドコンセプトは2024年の春夏コレクションでも変わりはなく、「今シーズンだからこう」というテーマは特に設けていません。むしろ前シーズンのアイテムでも今シーズンのコレクションとのコーディネートを楽しめるようにデザインやテイストもこれまで通りで大きく変えないようにしています。今日の私のスタイリングは、インナーのカシミヤシルクのニットは2023年秋冬のものですが、羽織りのツイードジャケットはこの春夏の新作です。アイテムについてはシーズンも越えてつながっていくことを考えています。
—カシミヤシルクといえば<シーマリー>の人気素材で、肌触りのなめらかさや着心地の良さが評判です。
岩田:糸の紡績からカシミヤとシルクの混率まで、私自身が考えている完全なオリジナル生地です。この春夏は半袖タイプのリブニットが新作になります。カシミヤはモンゴル産で、大陸の内側に行くほど良質になるといわれているので、<シーマリー>ではその産地にもこだわっています。シルクとの相性を考えたらカシミヤも良質じゃないと、それぞれの素材の良さが発揮されないんです。
—カシミヤシルクは<シーマリー>の初期からある素材ですか。
岩田:最初はニットもカシミヤ100%でした。ただカシミヤは良質であればあるほど温かく、気温によっては暖かいというよりも暑いぐらいでした。そこから素材のブレンドも考えるようになって、初めに試したのはカシミヤとウールの混紡だったのですが、私の好みとはかけ離れているような質感になってしまって(笑)。私が理想とする風合いや肌触りなどをニットの技術生産者に伝えたら、「それはもうゼロから作るしかない」と言われました。カシミヤに何を混ぜるのか、比率はどうするのかを何パターンも試しましたし、さらに編み方も見直して完成したのが<シーマリー>のカシミヤシルクのニットです。
—岩田さんが生地に関して糸の段階からこだわる理由はなんでしょうか。
岩田:私が「これだ!」と思える生地がこの世に存在しないからです。<シーマリー>をハイブランドとのミックスコーディネートで楽しんでいる方は多いのですが、「<シーマリー>は生地のクオリティが高い」という声をいただくことがあって、それはすごくうれしいです。ここまでこだわるのは私が洋服選びで今まで散々失敗してきたからだと思います(笑)。そのときは瞬間的に気に入って購入しているのですが着心地や肌触り、質感などがピンとこなくて結局は着なくなった服はたくさんあります。お客さまからずっと愛され続けてもらうためにもベストと思える生地で服を作りたいんです。
ツイードも希少な織機から生まれるスペシャルな生地
—<シーマリー>のオリジナル生地といえばツイードについてもお聞きしたいです。

岩田:ツイードも糸から選んで日本の職人さんが希少なションヘル織機によって生み出しているスペシャルな生地です。製作現場を知るようになって感じたことは、ツイードは本当に奥が深いということです。硬い糸と柔らかいリボンを組み合わせたり、さらに織り方を変えたり、それによって生まれる表情は無限です。ツイードもオリジナルにこだわるのは私が好きな素材感を求めてのことですし、「迫力のある服を作りたい」という思いがあるからです。
—<シーマリー>はシンプルで洗練されているので「迫力のある服」というのは意外です。
岩田:「迫力」といっても勇ましいのではなく、緻密な仕事を感じられて、ぱっと見でも上質だとわかって、思わず振り返ってしまうようなお洋服です。なので「こんな表情のツイードは見たことない」と思われるような風合いを目指しています。<シーマリー>はアイテムもシルエットも誰でも着られるぐらいベーシックなので、質感にはこだわりたい。すれ違ったら思わず振り返って、「あの人の着ているお洋服は素敵だな」ってドキドキされるような迫力を大切にしたいんです。
—今回はお洋服と同じベージュ×ピンク、ネイビー×ブラックのツイード生地でオーガナイザーも製作されたんですよね。
岩田:オーガナイザーは主にバッグインバッグなのでほかの人の目に触れることは少ないとは思いますが、「実はお洋服とお揃い」という可愛さをお客さま自身が密かに楽しんでもらえたら。お洋服と同生地のオーガナイザーは初めての試みでもあるので、そんな特別感をお届けしたいです。
華美ではなく、地味でもなく、だけど特別感がある服
—<シーマリー>のお客さまは着こなしも雰囲気も素敵な方が多くて、岩田さんの生地に対する美意識にも共感されているんだろうなって思います。
岩田:素敵な方が多いというのは私も感じます。お客さまと生地の話で盛り上がったりすることもありますよ。似合う似合わないだけじゃなくて、「こんな生地感のアイテムだから、こんなシーンで活用しています」という意見もあって、すごく勉強になります。自分が満足、納得している生地で作った服を、上質な生地で仕立てた良質な服をたくさん知っている伊勢丹新宿店のお客さまに褒めてもらえたらうれしいです。
—生地の構想はいつも考えられていることですか。


岩田:新しいオリジナル生地としては、この春夏に刺繍を施したレースも登場します。花の刺繍は表情を穏やかにしたかったので、糸から針の刺し方までさまざまなパターンを試しました。刺繍のレース生地が完成したとしても、実際にブラウスを作ったらそこからまた細かい調整が始まります。<シーマリー>はアイテムも生地も作りたいものが常に同時進行なので、アイテムのために生地の質感を見直したり、生地の特徴を活かすためにアイテムのシルエットを再考したり、その繰り返しです。新しい生地ではないですが、3点セットで販売する新作カットソーレイヤードのギンガムチェック柄のベストも、レース編みの生地を使用しています。
—それだけの試行錯誤があっても途中で妥協することはないんですね。

岩田:「こんなにうまくいかないなら諦めようかな」と思うことはありますよ(笑)。でも「いいものしか作りたくない」という気持ちがなくなることはないんですよね。完成まではまだ先でも、一歩前進するたびに一緒に喜んでくれて製作に携わってくださるお取引先の方々の姿を見ると、私が諦めたりすることはできないです。「岩田さんと一緒に仕事をしていなかったら作れなかったです」と言ってくださる方もいて、私は生地の開発から形の完成まで携わってくださる方々の才能をすごく大切にしています。ゼロから生み出す<シーマリー>の商品は携わるすべての方々の情熱がなければ成しえない、私のわがままにどこまでも付き合ってくださるんですから(笑)。
—伊勢丹新宿店のポップアップに並ぶすべてが岩田さんにとって自慢のアイテムですね。
岩田:毎日のように着ている私が思うのは、<シーマリー>はデザインはカジュアルでシルエットもベーシックで、だけどきちんと見えする服なんじゃないかなってことです。華美ではなく、地味でもなく、なんてことない服のように感じるかもしれません。でもあの人に会うから、あの場所へ行くから、そんなときにこそ選んでもらえるような服でありたいと思っています。今回、初めてお話しするようなことばかりで生地へのこだわりが強すぎると思われるかもしれませんが、ブランドをやり続けているモチベーションはとてもシンプルなんですよ。