2020.10.31 UP
<ポモロジー>とは英語で「果実学」という意味で、フルーツをたっぷり使って、その本来の味わいと香り、自然な甘みを活かしたお菓子のブランド。正統派の焼菓子作りの技術と経験から誕生した伊勢丹新宿店の限定ブランドだ。
<ポモロジー>の名を広く知らしめたのが、可愛らしい缶にみずみずしいフルーツの美味しさを閉じ込めたクッキー缶。なかでも一番人気が「クッキーボックス レモン」だ。優しく繊細なレモンとクッキーが描かれた缶の蓋を開けると、中には3種類のレモン風味のクッキーがきっちり並んでいる。見た目のかわいさとともにクッキーでレモンの風味が3つの表情で楽しめることに驚く。開発担当者に、おいしさの秘密を聞いた。
「アイシングクッキーのアイシングには、国産レモンの皮のコンポートを加えてレモンの風味を強く出し、生地はアイシングとの硬さを調和させるため少し硬めに焼き上げています。塩レモンクッキーは生地にレモン果汁と塩を配合しているのですが、まろやかな塩気を出すために100%自然の力で生まれるフランスの天日塩、ゲラントを使っています。プレーンクッキーはバニラの風味を強く出し、アーモンドパウダーを多めに配合することで、サクサクとした食感に仕上げになっています」。
クッキーボックス レモン(3種計39枚入)1,728円
塩レモン、プレーン各14枚、アイシングレモン11枚入り。材料や製法を変えている。クッキー生地もそれぞれ異なる。
<ポモロジー>のクッキーは、レモン以外にもさまざまなフルーツを使ったものがあるが、どれも可愛らしいサイズ感で、甘いものを少しずつ食べたいという大人の声に応えつつ、1枚でもしっかりとフルーツの味わいが感じられるようになっている。小さなクッキーに、それぞれのフルーツのおいしさを凝縮するのは難しかったのでは?
「焼き菓子なので熱を加えてもフルーツの風味が損なわれない素材を選び、それぞれのフルーツの特徴に合った作り方を開発しています。生地の中に入れたり、ジャムにしてサンドしたり、キャラメルと合わせたり……。ひとつのクッキーを完成させるのに何度も試作を繰り返し、実際に完成し、世に出るのは、ほんのわずかです」。商品化が決まるまでの過程は苦労の連続だが、実施に商品として作る工程でも、惜しみなく手間をかけている。「機械では難しい作業が多くて、ほとんどの工程が手作業なんです」。
実際にレモン缶のアイシングクッキーの製造工程を見学させてもらうと、ほぼすべてが手作業であることに驚く。まず、レモンの風味付けをした生地を職人が捏ね、一晩寝かせる。翌朝、その生地をめん棒で慎重に約5mmの厚さに均一に伸ばし、レモン型でひとつひとつ型抜きする。それを型崩れしないよう網目状のベーキングマットに乗せ、焼く。焼き上がったら、1個ずつ手作業でアイシング作業を行う。そして、固まるまで待つ。もちろん、缶に詰めるのも手作業だ。
レモンの風味付けをした生地をめん棒で約5mmの厚さに均一に伸ばし、レモン型でひとつひとつ型抜きする。
型抜きした生地を型崩れしないよう1枚ずつ網目状のベーキングマットにのせ、焼き上げる。
焼き上がったら1枚ずつアイシング作業をする。
<ポモロジー>のクッキーは、レモンのほかに、いちごやクランベリーなどの詰め合せの「ベリーズ」やいちぢくをジャムやセミドライで楽しむ「フィグ」の定番がある。どの詰め合せもフルーツの凝縮した風味が楽しめることはもちろんだが、それぞれの缶もかわいい。そう、<ポモロジー>のもうひとつの魅力は三宅瑠人さんのイラストが印象的なパッケージデザインだ。三宅さんは、雑誌、広告、ファッションブランドなどにイラストを提供するほか、デザイナーとしてもレコードレーベルや飲食店のグラフィックを手がける。ヨーロッパのアパレルブランドの広告から大好きな鳥の図鑑まで、やさしくナチュラルな世界観が特徴で、近年は海外からのオファーも多い。
「ポモロジー」のクッキー缶のイラストを描いた三宅瑠人さん。1988年東京生まれ。東京藝術大学デザイン科卒。雑誌、広告、ファッションブランドなどにイラストを提供するほか、デザイナーとして飲食店のグラフィックなども手がける。菓子店に絵を提供したのは〈ポモロジー〉が初めて。自身も仕事中のティータイムや手土産に「ポモロジー」のクッキー缶を。一番のお気に入りはレモン缶だそう。
「昔のヨーロッパの図鑑が好きです。立体的なものなのに平板に描かれていたりするんですが、それがかえって面白い。<ポモロジー>の缶の絵も、絞って果汁が溢れてくるような、いわゆるみずみずしい感じには描いていないのですが」と語る三宅さん。本物そっくりなのに、どこか温もりや愛嬌なども感じられるイラストは、フルーツの自然なおいしさに寄り添い、引き出す<ポモロジー>のクッキーに通じるものがある。
クッキーボックス ベリーズ(3種計 43枚入)1,782円
いちごのチュイール20枚、クランベリー11枚、プレーン12枚の詰め合せ。缶の絵柄は北欧のベリー摘みをイメージしたもの。
北欧の人々の暮らしの一部を表現したベリーズ缶も人気が高い。北欧の人たちには森に行ってベリーを摘み、それを食べてビタミンを摂取するという生活習慣がある。描かれているのはベリーを摘みに行く途中で出会った狐、ベリーをついばむアオガラ、途中の道で摘んだタンポポで作った指輪、たくさん咲いているマーガレット……。缶を見ているとベリー摘みを楽しむ人々が浮かんでくる。趣きのある絵が描かれた缶にはコレクターも多い。クッキーを食べたあと、文房具入れにしたり、子どもの宝物を入れたり、ずっと身近においておきたくなる。
クッキーボックス ショコラ 1,944円
2022年1月~4月上旬にバレンタイン、ホワイトデー向けに登場したショコラ缶。2023年はデザインを新たにして販売予定。
クッキーボックス ウインター 1,944円
季節限定品の11月〜12月末に登場するウィンター缶。クッキーの種類は未定。予定数がなくなり次第終了。
クッキー缶は、定番のほかに夏と冬、そして、春先に限定缶も登場する。予定数がなくなり次第終了になるので、新しい季節を迎える時期はお見逃しなく。
もうひとつ<ポモロジー>には、フルーツのおいしさが味わえるお菓子がある。メイプルシュガー、ワインやブランデー、チョコレートなどと晩柑、マスカット、リンゴ、フィグを合わせたもので、ごろごろ入ったフルーツとバターの芳醇な香りが味わえる。
“フルーツは最も身近にある自然のひとつ”をコンセプトに、窓辺に季節の花を飾るように、旬のフルーツの味わいをテーブルに届ける<ポモロジー>小さな焼き菓子たちは、毎日の生活のなかで心を潤わせるひとときをつくってくれる。
撮影・岩本慶三・太田隆生(三宅さん)
文・大塚明子