<崎陽軒>横浜名物でありながら全国に広がるローカル弁当。

2022.10.31 UP

迷ったらシウマイ弁当、迷わなくてもシウマイ弁当。日々の食事にも旅にも、どんな場面でも満足感と安心感のある弁当だ。横浜駅構内に開業した<崎陽軒>は、「横浜名物・名所の創造」を昔も今もミッションとしてきた。代表商品であるシウマイは、シウマイ弁当へ。横浜市民は、この弁当に特別な愛を注いでいる。

 

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シウマイ娘で知名度が全国区に。シウマイからシウマイ弁当へ。

横浜駅のホームに降りると、ここにもあそこにも、そしてまたここにもと<崎陽軒>の文字を自然と目で追ってしまう。「創業者のひとりが横浜駅長だった縁で、退職後に横浜駅構内営業の許可を得て店を始めました。1908年の創業以来、横浜駅とは長い歴史を共にしております。駅のホームも大切な場所です」。

<崎陽軒>広報・マーケティング部の野本幸裕さんの説明と案内で、横浜工場の見学がスタートした。工場内には、創業時やシウマイ弁当が誕生する以前の知られざる<崎陽軒>の記録を見ることができる。

 

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創業当時の写真や、ホーム上の店舗など、貴重な写真が公開されている。

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コレクターズアイテムにもなっている「ひょうちゃん」の誕生は1955(昭和30)年。漫画家の横山隆一氏(「フクちゃん」作者)が、白い磁器のしょう油入れに「目鼻をつけてあげよう」と色々な表情をつけたのがきっかけ。現在は3代目「ひょうちゃん」。

「横浜は東京駅から30分の立地であり駅弁を売るには不向きな駅でした。また、他の地域には名物があるが横浜は歴史が浅い街だったため名物がありませんでした。そこで「ないなら作ろう!」と横浜の街を探索し、南京町(現在の中華街)で突き出しとして出されていた焼売に着目。列車で食べておいしいように、冷めてもおいしく、一口サイズのシウマイを開発しました。」

 

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昔ながらのシウマイ(15個入)640円 

1928年(昭和3)年誕生。同社の原点となった商品。小ぶりで食べやすいことも重視されている。

「当社のシウマイは、1928年(昭和3年)年に誕生しました。冷めてもおいしく食べられるように干帆立貝柱を使用しています。干帆立貝柱を一晩かけて戻し、戻し汁も一緒に豚の挽肉に加えます。また、肉は冷凍肉を使いません。鮮度を重視しています。使用する調味料もシンプル。レシピは発売時から変わりません」

 

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工場で公開されているシウマイの調味料。

製造工程を見ていると、シウマイの餡の巨大な挽肉の塊の中に、チラチラとグリーンが覗く。グリーンピースだ。シュウマイのグリーンピースは、上に一粒乗せられていることが多いが、同社は肉餡の中にグリーンピースを混ぜ込む。歯ざわりをよくしたり具材が混ざりやすくしたりするためだというが、これも使い方がユニークだ。

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横浜名物として発売したシウマイは、ホーム上でシウマイを売るシウマイ娘の登場で大きく脚光を浴びることになった。シウマイ娘には、列車の窓越しにシウマイが渡せる身長の高い女性(158cm以上)が選ばれた。彼女たちが映画「やっさもっさ」に登場したのを機に、シウマイの知名度は全国区になる。そして1954年、シウマイ弁当が完成した。

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弁当の発売に当たり工夫を凝らしたのが、やはり“冷めてもおいしい”の実現だ。ごはんは、蒸気で蒸してもっちりとした食感が持続するように工夫されている。上手に水分調整し、味わいを保つため、経木の器を使用したのも当初からだ。ごはんとシウマイに彩りと味わいを添えるのは、鮪の漬け焼、鶏の唐揚げ、玉子焼き、蒲鉾、筍煮、あんず、切り昆布&千切り生姜だ。これらの具材がスタメンとして定着するには長い時間を要した。

 

過去、顧客の声を参考に入れ替え戦を行っている。ちなみに今年、鉄道開業150周年を記念して作られた「復刻版シウマイ弁当」の中身は、シウマイ 4個、ブリの照り焼、エビフライ、玉子焼き、蒲鉾(白)、筍煮、セロリの浅漬け、福神漬け、俵型ご飯、小梅である。

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シウマイ弁当(1個)900円

かつて4個だったシウマイは、現在は5個。顧客の熱い声から「一つ増やす」が実現された。

 

 

弁当の中で個性的な存在として挙げられるのが、あんず。これはファンの間では“あんず問題”とも呼ばれ、いつ食べるのが正解か、そもそも必要なのかなど激しい議論の対象となってきた。しかし、いざさくらんぼに変えた時には、あんずに戻して欲しいという意見が殺到したのだそうだ。

 

「シウマイ弁当は横浜市民の皆様のものだと思っています。駅弁や行楽弁当としてだけではなく、学校の運動会や謝恩会、日々の食事、横浜市民の皆様のあらゆる生活シーンで、シウマイ弁当との想い出があるようです」

 

 

 

横浜と共に、ファンと共に、真のローカル企業へ。

2008年、<崎陽軒>は次の100年の経営理念に「真のローカルブランド」を掲げた。これまでも十分横浜という基盤での絆を強くしてきた印象だが、“真の”とはどういうことなのか。

 

「当社はこれまでの歩みの中で、ローカルブランドかナショナルブランドかを迷った時期もありました。しかし、その時にある地方自治体の代表の方が、真にローカルなものは、インターナショナルにもなりうると言われたのに当時の社長が感銘を受けたそうです」

 

ホームページには、真のローカルブランドのイメージとしてアルゼンチンタンゴのエピソードが語られている。アルゼンチンタンゴは、ブエノスアイレスの片田舎の民族舞踊だが、その音楽性が真に優れたいたことから世界中に知られる存在となった。「ローカルブランドに徹することによってナショナルブランドをも超えるブランドとして存在しうる」が同社の考える真のローカルブランドだ。現在の<崎陽軒>国内直営店舗は、神奈川県、東京都、千葉県、埼玉県、静岡県のみ。静岡県より西に店舗はない。かつて、真空パックのシウマイの登場で、全国販売していた時期もあった。しかしこれを見直し、ローカルに販売エリアを絞り、売上はかえって増えた。まさにタンゴ現象だ。

 

そしてシウマイ弁当の他にも、ファンに支えられている弁当がある。筆頭を挙げるなら炒飯弁当だろう。

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炒飯弁当(1個)930円

時間が経ってもパラリ、ホロリとする炒飯は、その食感の持続性に驚く。定番のシウマイや鶏の唐揚げが入り、炒飯弁当ならではの塩焼きそば入りも嬉しい。

 

これまでもこれからも、横浜、そして横浜市民と一緒に歩む覚悟は、ますます全国のファンの支持も増やしている。

 

撮影・中庭愉生、岩本慶三

文・柴田香織

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