2022.10.31 UP
「当時大阪にあった伊勢丹さんから依頼を受けて、新しいブランドを作ることに。僕たちは、もともと様々な食材や素材と向き合い、ジャンルレスで商品を製造してきたので、今までの経験を活かして『手軽におうちでバル!』をコンセプトに、<燻製BALPAL PLUS>に取り組むことになったんです」
ブランドスタートからのことを語る、代表の谷野一朗さん
お酒にあう一品に特化したいというのも、代表の谷野一朗さんがそれまで抱いていた疑問がきっかけだったそうだ。それは自宅でお酒を楽しむ時に、満足できるおつまみがなかなか手に入らないということ。
「自宅でちょっと飲みたいという時に、これだ!というものがないと常々思っていました。チーズや生ハムを選ぶ場合も、専門的な商品はどれを買ったらいいかわからないという方も多いはず。それなら、生ハムとチーズが一緒になった商品を作ることで、一つで楽しむことができ満足度の高いお酒の時間が過ごせるのではないかと考えました」
そんな視点から生まれた代表的な商品が「アンティパストボード(チーズ&生ハム)」。紙板に盛り付けた状態で立体的に真空包装できる、スキンパック方式で包装されているため、フィルムをめくるだけで食卓に出せるのも嬉しい。木のボードのようなデザインは、まさに自宅でバル気分。まだ日本ではあまり浸透していないスキンパック方式は、これまで谷野さんがヨーロッパで見てきた光景がヒントになって取り入れたのだという。
アンティパストボード(チーズ&生ハム) 1,080円
ノルウェー産のセミハードチーズ・ヴィンテージノルベジアやヒッコリーでスモークしたプロヴォローネ、ヤギのミルクを使ったスキクイーンイエトオストとチーズは3種。そこに長期熟成した無添加の生ハムと、桜チップを使ったスモークミックスナッツが共に盛り付けられた人気商品だ。ナッツやプロヴォローネは口に入れた瞬間ふわっと燻製の香りが漂い、思わずワインもビールも進む一品。チーズや生ハムなど濃厚な味わいのものだけでなく、ナッツが加わることで表情豊かなお酒の時間を楽しめる。
「社会人になってからもヨーロッパが好きでよく足を運んでいました。コロナ禍以前は展示会や商談で海外へ訪れることも。イタリアやフランス、イギリスなどいろいろな国へ何度も訪れたのですが、スローフードを始め地産地消という考え方が当たり前のこととして根付いている暮らしに、日本との違いを強く感じました。代替肉なども20年前からすでに食べられていたり、日本よりも食の未来の先を進んでいる。同じくパッケージに関しても、向こうではスキンパック方式を用いたものが多かったんです。資材も少なく済みますし、環境に配慮した商品づくりがされていました」
そもそも、シンプルにお酒に合う食品というだけでなく、なぜ燻製だったのだろうか。
「燻製することで煙とその成分が食材に付き風味もよくなり、長く保存ができますが、当時は今よりも身近な料理法としては浸透していませんでした。加工食品を手がけているのも数社だけで、高価格帯のものが多かった。僕たちは家で楽しむことが目的なので、燻製で食材の良さをもっと引き出した商品を確立していきたいという思いがありました」。
定番商品の一つでもある「合鴨スモーク」を燻製する様子をご紹介。まずは調味液へ3日間漬けて味付けを行ったあと、1時間半ほど予備乾燥をさせる。
合鴨は桜のチップで燻製を。食材ごとに桜やヒッコリー、りんご、3種のチップを使って燻製している。
火をつけて煙が出始めるまでは、扉を開けっぱなしに。ここまで煙が出たら、いよいよ扉を閉めて燻製のスタート。煙がある程度充満してきたら火を弱め、30分ほど燻していく。温度は80度程度をキープできるよう、経験を積んだ職人の管理がポイントに。この工程を3回程繰り返すことで燻製が完成する。
「燻製BALPAL」は始まった頃から商品数が50種類もあった。まずは様々な食材を、とにかく燻製にしてみる。その中から味わいがより良くなったものだけを選び、商品化に力を注いだ。谷野さん自ら食材一つずつに対し、20〜30回燻製を試みたというから、その職人気質なこだわりには脱帽だ。食材ごとにベストな燻製の時間や温度を決め、桜やヒッコリー、りんごの木の3種のチップを使って燻製しているそう。さらに谷野さんのこだわりと追求心は、ここでは止まらない。今年からは熟成肉のパンチェッタを自社で手がけるようになった。
最終段階の熟成庫にて。肉の厚さや肉質、風のあて具合によって、乾燥熟成の期間は変わるため、細心の注意を払って、管理することが大切とのこと。
「きっかけはアフリカ豚熱の影響でイタリアから乾燥食肉が輸入できなくなったこと。日本で消費される乾燥食肉の85%はイタリア産です。輸入できないなら自分で作っていこうと、パンチェッタから挑戦することにしました」。豚肉は日本人の好みに合うように、脂身の少ないフランス産のものを使用。試行錯誤を繰り返し、乾燥と熟成を重ねたパンチェッタを手がけ始めた。
「以前から地元の農芸高校から生乳を仕入れモッツァレラチーズを作っていたこともあり、イタリア食材を製造することに心理的なハードルはありませんでした。パンチェッタに関して言えば、イタリアからの加工食肉製品が輸入禁止になるまで、現地のさまざまなメーカーのパンチェッタを使用していたこともあり、理想のイメージを明確に持つことができました。発色剤を使用せずに造る“無塩せき”のパンチェッタを目指して、乾燥と熟成をどのようにコントロールしていくか、迷いはありませんでした」。
チーズ&オリーブ パンチェッタ 864円
桜のチップを使ってソフトスモークしたオリーブオイルにゴーダチーズとオリーブ、パンチェッタをマリネ。とろけるようなパンチェッタとミルキーなゴーダチーズは相性抜群。ガーリックとペッパーがほんのり効いた味わいにお酒がマッチ。
チーズ&オリーブ 京鴨スモーク 864円
桜のチップでスモークした京鴨の旨味とドライトマトの酸味、レッドチェダーの食感などが◎ こちらもソフトスモークしたオリーブオイルでマリネしている。自らマリネを作ろうと食材を一つずつ集めるのは大変だが、この一品でそれが叶う優れもの。お酒の席も贅沢な雰囲気に。
カマンベール&パンチェッタ(ハーフ/65g) 572円
北欧チーズ&パンチェッタ(55g) 592円
自家製パンチェッタを手がけるようになってから生まれた新商品。「パンチェッタはそのまま食べられますが、焼いても美味しい」と谷野さん。フライパンやスキレットで焼くことで生まれる、チーズのとろっ×パンチェッタのカリカリ加減にハマりそう。
次なる目標は、自家製パンチェッタだけでなく豚モモ肉を使った自家製スペックを作ること。「将来的には、乾燥食肉を作る文化を日本に定着させられたらなと思っています」。食品を手がけるだけでなく、日本の新たな食文化も手がける。谷野さんの描く未来図にはわくわくさせられる。
撮影・米田真也、岩本慶三
文・小島知世