2021.9.14 UP
海の街、熱海市網代。通称干物銀座と呼ばれる繁華街の一角に<干物屋ふじま>はあります。現在は静かな港町ですが、〈干物屋ふじま〉は、この店を目指してやってくる人々で賑わっています。店主、藤間義孝さんの作る干物が別格の味わいと、東京から足を運ぶ常連客も少なくありません。
網代出身の藤間さんですが、干物屋は家業ではありません。若い頃、様々な職業を経て、魚屋で働いていた頃、卸先だった〈石山干物店〉に手伝って欲しいと言われたのがきっかけでした。「〈石山干物店〉で製造職人さんが事故にあい、人手不足で僕に声をかけたようです。お手伝いのつもりでしたが、やってみると奥深く、もっとこうしたらという自分なりの提案をするようになりました。もちろん継承されてきた店の味を損なわない様に気をつかいました」。8年間務めた藤間さんは2014年に独立。自分の店が、「もっとこうしてみたら美味しくできる」を思い切り試せる舞台となります。
ある時、中学生だった娘さんに「お父さんの仕事は、なんと説明したらいいの?」と聞かれた藤間さん。とっさの思いつきで「“ハイパー干物クリエーター”」と答えてしまいます。干物加工を、皆が想像するような職人仕事だと思われたくないと思った藤間さん、当時、高城剛氏がハイパーメディアクリエーターと名乗っていたのが頭の片隅にあり、たまたまそう言ってしまったのだそうです。しかし、自らを“ハイパー干物クリエーター”と位置付けたことで「普通の干物は作らない、と自身を鼓舞することになった」と語ります。
“干物”と“ハイパー”。この一見脈絡のないような組み合わせとゴロの良い名称は、多くの人々の目に止まり、取材の機会も増えます。「自分は干物屋としては後発。情報発信もSNSなどを開業当初から積極的に使用してきました」。これらが効を奏して、藤間さんは、干物業界の風雲児として扱われるようになります。
藤間さんの干物作りが従来のやり方と大きく違う一つが、日本酒や魚醤など日本の伝統的発酵技術が活かされた酒や調味料を使って干物を仕込むところにあります。日本酒を干物に使うようになった経緯もユニーク。「日本酒が好きだったので、干物屋を開業してまもなく、干物と日本酒の居酒屋をオープンしました。日本酒を干物に使うようになったのは、日本酒とよりリンクさせたかったから。そして、自分の作った干物についてのダイレクトなお客様の反応がみたかったというのもあります。要は、リアルにエゴサーチできる場所としての店が欲しかった」。
朝は干物店、夜は居酒屋。店が軌道に乗るまでの最初の5年間は、居酒屋の後にもコンビニで働くなど、寝る間もなく働いたそうです。しかし、過酷に働きながら自らのスタイルができてきます。「居酒屋をやっていると、地物の魚種ばかりではお客さんも自分も飽きてしまう。いい魚が地場であがらない時もある。これしかないものを提供するより、選択肢を広げたほうが自分にとっても良いし、お客さんも喜んでくれるとわかりました」。
現在、<干物屋ふじま>の魚種は、北海道産や島根県産の魚に、海外産のマグロやエビなども。「干物にしたいか?美味しくできそうか?」が材料選びの要です。「お客さんとの何気ない会話も新しいヒントになることが多い。実に勝手な発想でこれ食べたいとか、あれを作ってとか。できそうかを自分で探ります」。ネットで類似した干物がないかを検索し、なければクリエーター魂が踊るそうです。
①魚種・魚体により、塩浸時間を細かく設定する
細かな設定により個体ごとにベストな塩分濃度に。水分が抜けすぎない美味な干物になります。
②天日干しする
今は安定的な製造が可能な機械乾燥が主流です。数値的には天日干しと機械乾燥
の旨味成分が変わらないというデータもありますが、「実際口にすると人の官能は天
日干しの方が美味しいと感じる」と藤間さん。ここは譲れないそうです。
③マイナス25度で急速冷凍する
急速冷凍することで美味しい状態を維持することが可能で、解凍してもドリップが出ることなく、身離れはよくなります。脂質の劣化を防げるのも大きいです。
④日本酒や塩麹、魚醤などで独自調味
藤間さんは、同じみりん干しであっても魚種によって日本酒や魚醤などを使い分けます。調味という視点で素材をみることで、干物はより美味しくなると考えています。
「冷蔵設備のない時代、干物はあくまで保存の手段でした。美味しいよりも長期保存が大切で、塩味も強かったと思います。今の干物は、魚を美味しくする手法。美味しく作るベクトルを持ってこの仕事をしたい。それがハイパー干物クリエーターということなのだと思っています」。
そんな藤間さんに注目してきたのが、伊勢丹新宿店のフレッシュマーケットを担当する川合卓也バイヤーでした。2年ほど前にTVや雑誌で藤間さんの存在を知り、都内で藤間さんの干物が食べられる店を探します。「中野のある店まで食べに行きました。初めて口にした時は“なんじゃこれは‼︎”という驚きが走りました。食べられた方の8割方は、自分と同じ印象を受けられると思います」。
〈干物屋ふじま〉ビンチョウマグロ大トロ美凛干し(1枚)1,080円
〈干物屋ふじま〉 燻製醤油さば美凛干し (1枚)1,080円
〈干物屋ふじま〉 フラワーえび(花えび)美凛干し (3枚)1,620円
〈干物屋ふじま〉 フラワーえび(花えび)潮干し (3枚)1,620円
今回伊勢丹新宿店で発売する限定商品は、藤間さんの得意とする「ビンチョウマグロ」でも脂質の多い大トロのみりん干しと、超特大サイズの「花えび」のみりん干しと潮干し。他にも揃えておりますので、この機会に新しい干物体験をしてみて下さい。
Text:ISETAN FOOD INDEX編集部