「手みやげと伊勢丹」建築家・永山祐子さん～私の暮らし、私の買物～

実家が東京・阿佐ヶ谷なので、伊勢丹新宿店を昔から信頼している母に連れられてよく通いました。手持ちぶさたな幼い私と弟に、あるとき母が気を利かせてこんなことを教えてくれたんです。『伊勢丹新宿店の壁には、アンモナイトが埋まっているんだよ』って」

これが、現代日本を代表する建築家・永山祐子さんと伊勢丹新宿店の出合いのエピソード。歴史ある建造物の雰囲気や、地下食品フロアの探索が当時から好きだったそう。

「昔の食品フロアは、威勢のいい掛け声が飛び交って市場のような雰囲気がありました。弟と店員さんの掛け声をまねして遊んだのを覚えています（笑）」〈パティスリー・サダハル・アオキ・パリ〉のケーキは、お酒を飲まない永山さんが〝自分へのご褒美〟でたまに買いに行くお気に入り。

「『アンディビジュアル』は、きれいに4等分できるところがいいんです。おいしいものをちょっとずつ、家族みんなでシェアしたいから」

4等分するときれいな正方形になるのも美しい。

「いろいろな味の層がミルフィーユ状に重なっていて、甘すぎずバランスが絶妙。きっと何度も試作を重ねて、コンマ何ミリの世界でこの味をデザインしているんだろうな…と想像するとワクワクします」　建築家らしい目線と、ケーキを頬張る少女のような笑顔のギャップが魅力的。2021年秋から2022年春まで開催するドバイ万博の日本館をはじめ、国内外からのオファーが引く手あまたながら、プライベートでは二児の母。その生き方に憧れを抱く女性フォロワーは多い。

「ここ何年かは、人がたくさん集う場所や、ビッグプロジェクトに挑戦するチャンスをよくいただくようになりました。私自身、仕事と子育ての両立は特に意識していなかったのですが、在宅ワークや地域のサポートを組み合わせるなど、だいぶやりやすくなってきたような実感があります。私の事務所にも、いままさにママをしながらキャリアを持続しているスタ

ッフが何人かいます。最近は女性でも、自分のスタイルに応じた働き方や生き方を選べる時代になりつつありますよね。私のような存在がその後押しになるならという気持ちで、仕事に取り組んでいます」

幼いころ自分が心躍らせた伊勢丹新宿店にも、いつか子どもたちと出かけてみたいそう。

「なかなか時間は取れないけれど、子どもたちももう小学生。そろそろアンモナイトのことを教えてあげたい。きっと大好きだと思うから」

「サヤ」は、ビビッドな見た目とクレームフレーズのまろやかな味わいのコントラストが感動的。抹茶を巧みに使った「バンブー」は香り高い定番人気商品。

永山祐子

建築家

青木淳建築計画事務所を経て2002年に永山祐子建築設計を設立。これまで山梨県の『女神の森セントラルガーデン』や『ルイ・ヴィトン大丸京都店』を手がけた。2021年秋に開催されるドバイ万博・日本館、2022年に竣工する「新宿TOKYUMILANO再開発計画」にも携わる。

写真:太田隆生　

取材・文:小堀真子

写真提供:2020年ドバイ国際博覧会日本館