【小川 糸さん連載】ときめく贈りもの。 第6章 久しぶりに再会した幼馴染みへ

2022.12.10 UP

まさか、あんな場所でしーちゃんと再会するとはね!未だ、興奮冷めやらぬ私がいます。

あの日、私はいつもの時間帯より少し早めにサウナに入って汗を流していました。そこへ、しーちゃんとしーちゃんのお友達が入ってきたの。私は下の段で、しーちゃん達が上の段に座って。最初はもちろん気づかなかった。だって、最後にしーちゃんと会ったのは、えーっと、私たちが小3の時だから、ざっと40年前でしょ?もちろんさ、お互いに外見だって変わっているし、そんなのすぐにわからなくて当然よね。

でもさ、後ろで話すふたりの会話がちらちらと耳に入ってきて、なんとはなしにその声を聞いていたら、なーんかどこかで聞いたことがある声っていうか話し方だなぁ、って思ったんだよね。そのうちに私、すっごく懐かしい気持ちになったんだ。

それで、なんだか気になるなぁ、と思いつつも、熱さの限界だったので、いったんサウナを出て、シャワーを浴びて、水風呂に入っている時に、あれ?もしかしてさっき後ろにいたのは、小3の時同じクラスで親しくしてた霜月静歌さん?って思ったんだよ。でも、まさかねー、っていう思いももちろんあって。

そうこうしているうちに、しーちゃんが、「あ、私そろそろ新幹線の時間が」とか言い出してさ。お友達を残して、先にサウナを出ようとしたの。それで私、思い切って声をかけたんだ。だって、もし本当に霜月静歌さん本人だったら、こんな偶然って滅多にないじゃない。別人かもしれないけどさ、その時はその時で謝ればいいと腹をくくって。

霜月さんですか?って聞かれた時のしーちゃんの顔、一生忘れないよ。お互い素っ裸で、もう思い出すだけで笑顔になる。私が、小学校の名前を挙げたら、しーちゃんの目がまん丸になって。私の名前を思い出して、昔みたいにあだ名で呼んでくれた時は、最高に嬉しかった。

しーちゃん、小4になる春に転校しちゃったのよね。私、手紙書くなんて口では言ってたくせに、しーちゃんがくれた手紙に返事を出さなかったの。あの時は、ごめんなさい。

ふたりでよく、一緒にお菓子を作って遊んだっけ。覚えてる?クリスマス前にうちでジンジャークッキー焼いたの。しーちゃん、型抜きとかとっても上手だったなぁ。それで、焼き上がったのを、本当はツリーの飾りにするはずだったんだよね。で

も、おいしくってさ。私たち、試食の手が止まらなくなっちゃって。結局、またもう一回焼いたんだっけ?

これね、私が今一番気に入っている焼き菓子です。再会の記念に贈るね。また、今度はゆっくり、服を着て会いましょう!

 

 

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<デメル>生クッキー(日本製/10個入)3,888円

伊勢丹新宿店本館地下1階 カフェ エ シュクレ

ハプスブルク家による王政の時代からオーストリアで名を馳せてきた洋菓子店による生クッキー。ほろほろっとほどけるやわらかな食感が口福を呼ぶ。

※毎週水・金・日曜限定販売

 

小川糸

おがわ・いと/作家。

2008年『食堂かたつむり』でデビュー。多くの作品が英語、中国語などに翻訳されている。近著は『とわの庭』。

文:小川糸 

写真:清水奈緒 

スタイリスト:野村奈央

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