2024.3.22 UP
アナウンサーとしてテレビ局で10年間活躍したのち、突然の英国留学へ。古城でガーデナーの見習い、東京の生花店で一から修業を積むといった経験を経て、2016年からフローリストの活動を始めた前田有紀さん。
「都会っ子だったので、昔から田舎の祖母の家で触れる花や緑が大好きでした。テレビ局を退社したのは2013年。当時のアナウンサーのキャリアといえば、会社に残るか、フリーになるかだったので、確かに勇気が要る決断でした。それでも不安より好奇心が上回ったんです」
取材中は片時も笑顔を絶やさない。アナウンサー時代も、サッカー情報番組をはじめアクティブな仕事ぶりが印象的だった。
「大好きな<福砂屋>さんのカステラは、そのころに出会いました。当時は収録現場への差し入れとして。今も手土産によく利用しています」
<福砂屋>フクサヤキューブ さくらパッケージ (2切/1箱)324円
伊勢丹新宿店 本館地下1階 甘の味
職人の手わざで作られた伝統のカステラを2切れ、愛らしいキューブに包んだ手土産に人気の商品。3月~4月は桜にちなんだ季節限定のパッケージも発売中。
お気に入りは、創業400年を迎えた<福砂屋>の定番商品「フクサヤキューブ」。
「この形が可愛いですよね。実はイギリスへ留学した時も、ホームステイ先や現地でお世話になる方へのお土産に選んだんです。持ち込める荷物に限りがある中で、これならスーツケースにたくさん入れられました。日本の職人さんが手作りする伝統的なお菓子ということもあり、とても喜ばれたのを覚えています」
2018年にフラワーブランド<gui>を立ち上げ、現在は神宮前で念願の花屋<NUR>も経営。
「アパレルショップとか飲食店の装飾、ポップアップで地方出張する機会も多いです。やってみて初めてわかったことですが、花が求められる現場って本当に幅広くて、思いがけない出会いがあるんですよね。今日もこのあと、レストランへお花を届けに行くお仕事があるんですよ」
仕事をする上では、前職時代の上司の教えが今も胸に残っている。
「よく、現場を大切にしなさいといわれました。今もできるだけ花農家さんへ足を運んで、生産背景を知ることや、それをお客さまにも知っていただけるように心がけています」
作り手の思いが感じられるものが好きだという前田さん。
「伊勢丹こそ、そういうものに出会える特別な場所だと思います。ずっと憧れていましたが、今では伊勢丹へ、花を届ける機会もいただけるようになりました。花の仕事は時間との勝負で慌ただしいのですが、新宿店へ入る日の気分はやっぱり特別。搬入の合間にぱっと食料品フロアに寄って、お昼ごはんを買うのを楽しみにしています」
大好きな神宮前で2021年に開店したフラワーショップ「NUR flower」は、近隣の美容室から観光客まで幅広い人々が足を運ぶ。
店内では各地の作り手とコラボした花瓶や雑貨等も販売している。
陽光がやさしく降り注ぐ休憩スペースにて。「ああ、やっぱりおいしい!」と、思わず笑みがこぼれる。
「NUR」とはドイツ語で「オンリー」の意味。神宮前には別ブランド<gui>のアトリエもあり、この街に親しみがあるという。
店舗は通常、前田さんが絶大な信頼を置く6名のスタッフで運営している。
1月の取材時は春の花が出始めたシーズン。市場での仕入れ時は、店頭に並んだ際の色の統一感などにも配慮しているという。
愛らしい色の胡蝶蘭、ユキヤナギ、ラナンキュラス等を使った花束をオーダーさせていただいた。
シンプルだけれど、花の存在感が引き立つ美しいアレンジ。
店頭や展示会場で花を活ける際に用いるフラワーベースがずらり。ビンテージを中心に集めているそう。
長野県松本市のキャンドルブランド<handmade candle lifart…>によるフレグランスキャンドルも販売。<NUR>オリジナルの香り「chai」がおすすめ。
フローリスト
前田有紀
神奈川県出身。2003年にテレビ朝日へ入社。アナウンサーとしてのキャリアを積んだ後に花の道へ。イギリス留学と都内での修業を経て独立。ポップアップやワークショップをはじめ、舞台装飾など幅広く活躍。
写真:太田隆生
ヘアメイク:KAUNALOA
取材・文:小堀真子