私の暮らし、私の買物。 第25回 料理研究家・樋口直哉さん 手みやげと伊勢丹。

2023.8.4 UP

「食材を知ることが、料理上手への近道」。人気レシピの裏側には、食べ物に対する真摯なまなざしがありました。

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代々木にある料理専門学校で料理を学んだ樋口直哉さん。

「校長先生が伊勢丹新宿店を好きで、生徒たちはみんな『地下食料品売場を見なさい』と教えられました。売場を見て、そこに込められた意図を感じ取れというんです。たとえば野菜の並べ方や配置ひとつにも、必ず人の意識のようなものが浮かび上がる。ならば、伊勢丹新宿店の地下にはどんな意図があるのか。それは、東京の縮図だと僕は思っています」

東京の縮図。つまり、あらゆる食材とおいしさにまつわる情報が、ここに集まっているということ。

「黒毛和牛って脂っこくて苦手な人も多いでしょう? でも<I's MEAT SELECTION>では、サシが多すぎない4等級くらいの黒毛和牛が並んでいます。そこに意図があるんですよ。ただ高級品を売っているのではなく、バイヤーが選んだ本当においしいものが並んでいるから。そして、ローストビーフ用のお肉なら全部この形、この厚さで出てくるので、焼き加減も失敗しにくい。実は料理研究家としても、レシピを作りやすいんですよね(笑)」

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<I's MEAT SELECTION>黒毛和牛のランボソ(ランプ)(100gあたり)1,480円

伊勢丹新宿店本館地下1階 フレッシュマーケット

ランプのすぐ横のやわらかな部位。特に黒毛和牛のそれは脂の量もほどよくローストビーフに最適。火を通しやすい大きさに成形されている。

取材時にお邪魔したのは自宅の台所兼スタジオ。ローストビーフを調理しながら、伊勢丹新宿店への思いを語ってくれた。

「お付き合いのある生産者さんが催事で出店することも多くて、月に1〜2回は売場へ行きます。仕事で使う調味料系もよく買いますよ。<オリオテカ>なんて個人的には日本一のオリーブオイルショップ。相談すれば必要以上の情報が返ってきますし、商品にもハズレがないですから。本当にいい食材を入口にできると、料理の世界って広がりやすいんです。だからスタッフさんとのコミュニケーションは大事。伊勢丹新宿店からはひとつ、ふたつ質問するだけで世界を広げてくれるような、レベルの高いスタッフさんも多いと感じています」

食材をどう扱えば本来の味を引き出せるのか。そのロジカルな部分も含めて伝える、独自のレシピで人気。

「それまでは主に小説を書いていたのですが、十年前から食に関わる文章を書き始めました。そこで生産現場の取材を始めたことが自分の土台になっています。おいしい食材はなぜおいしいのか?そこには生産者や流通に携わる人の努力が必ず介在しているからで、料理で大切なのは彼らの手間ひまを無駄にしないこと。だから、売場でモノを見て知ることには意味がある。食材の成り立ちを知ることが、料理の腕を上げる近道だと僕は思っているんです」

樋口直哉さんのスタジオ拝見。 おいしさを見つめる研究者の視点。

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キッチンの横にある本棚。ここには現在の樋口さんにとって“一軍”の料理関連本が並べられ、少しずつ入れ替わっていく。

 

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愛用の調理道具も、モノ作りの背景を学びながら時間をかけてセレクトしてきた。特に気に入っている鉄の包丁は、すでに生産終了している日本製。ストックを8本も所有しているとか。

 

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厚さ約5㎝のランボソは、オーブントースターで焼けるサイズ。厚すぎず均一な形になっているので、たこ糸で肉を縛る必要がない。

 

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水分の多いきのこ類と一緒に焼く。庫内の乾燥を防ぎ、肉を焦がさずしっかりと熱を入れるための工夫。

 

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食材を学ぶべく全国の生産地へ足を運び、実際に畑仕事をすることもある。

 

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自宅では、食材の水分を逃さない<バルミューダ>のトースターを愛用。

 

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肉が焼き上がったらアルミホイルで包み、余熱で中まで火を通している間にソース作りを。先ほど一緒に焼いた肉汁たっぷりのマッシュルーム、玉ねぎを使ったグレービーソース。

 

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「ローストビーフは出来たての温かいうちが一番おいしいんです」

※食中毒防止の観点から、肉の火通しは十分に行ってください。

 

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鍋専用のスタンドが2台ある。最近は、<ストウブ>の“色”による温度変化の違いが気になっているとか。

 

料理研究家

樋口直哉

東京都生まれ。作家の顔も持つ。主な著作として小説『スープの国のお姫様』(小学館)、ノンフィクション『おいしいものには理由がある』料理本『最高のおにぎりの作り方』(ともにKADOKAWA)など。近著は『ぼくのおいしいは3でつくる』(辰巳出版)。

 

 

 

 

写真:太田隆生 

取材・文:小堀真子

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