Featuring ARTIST―土取郁香
~感情と美しさをめぐって~

fFeaturing ARTIST―土取郁香
~感情と美しさをめぐって~

三越伊勢丹ラグジュアリーカタログ「エクセレントウーマン」にて、アート×ファッションをテーマにコラボレーションいただいた土取郁香さんにフォーカスしたスペシャルインタビュー。 代表作である2人の人物の作品シリーズや、抽象的なドローイング作品であれ、土取郁香さんが生み出す絵は、見る人の心を強くとらえ絶大な人気を誇ります。今回のインタビューでは、作品がどのように誕生するのか、その秘密にせまります。

ドルチェ&ガッバーナ

<DOLCE&GABBANA/ドルチェ&ガッバーナ>
ドレス 322,300円
バッグ 198,000円 牛革/13×19×4.5㎝
シューズ 117,700円
*インポート商品のため、入荷が遅れる場合がございます。
□伊勢丹新宿店本館4階 インターナショナルラグジュアリー

ー 土取さんは自分の作品を作る時、まずどのように始まるのですか?

土取 絵が立ち上がる時は、コトバから始まる時も、イメージのモチーフそのものが出てくる時もあります。映画を観たり、本を読んだりすることが原動力となることも多いですね。モチーフの語源はモチベーション(動機)ですが、そういう動機が絵を描く時に大切だと思います。

ー 画面にはよく2人の人物が出てきますね。

土取 きっかけのひとつに、映画監督スタンリー・キューブリックの作品『アイズ・ワイド・シャット』があります。2人の人間が抱き合っているシーンがあって、そのシーンを絵に描いた時に、恋愛のシーンと襲われているシーンがほぼ同じで、区別がないことに気がついたんです。シーンとしては全く違うのに、絵としては前後関係が無くても成立する。それが絵の面白さだと気が付いたんです。

ー 面白いですね、ストーリーから独立してイメージは成長していくことも出来る。

土取 私の絵を見て「愛」というコトバで語られることが多いですが、実は「愛」が何を内包しているかは簡単ではない。でも、絵でそれを考えさせるきっかけにできるかもしれない。

ー あと土取さんの絵は、「関係」を感じさせるところもあります。

土取 そうですね、葛藤とか、人がどのように行動するかに興味があります。人と人ではなくても、人とモノとか、人と動物、人と記憶とか、自分と「何か」の心の動きに興味があるんです。

ー 「心の動き」というのは興味深いですね。

土取 「感情」ということは、「論理」に比べて退けられがちです。でも「感情」を大事にしたいと思っています。

ー 西欧の宗教画なども、そのような人間の「感情表現」「表情」を普遍化してアイコン化してきましたね。

土取 「肖像画」や「宗教画」もよく参考にします。ビザンチン美術とかをよく見ますね。私たちは「今」を生きています。「現在進行形」のことであっても、昔の人間も全く同じことに興味を持っていたことが分かる瞬間があるんですよ。

ー 今回の撮影はアートとファッションの出会いの場ですが、ファッションについてはどう思いますか?

フェンディ&ヴァレンティノ

写真左:<FENDI/フェンディ>
ドレス 203,500円
シューズ 126,500円
バッグ 638,000円 牛革/25.5×33.5×13㎝
*シューズは、参考色です。
□伊勢丹新宿店 本館4階 インターナショナルラグジュアリー
□日本橋三越本店 本館3階 フェンディ

写真右:<VALENTINO/ヴァレンティノ>
ワンピース 264,000円
<ヴァレンティノ ガラヴァーニ>
バッグ 400,400円 ラフィア(ナイロン)・牛革/24×38×14㎝
サンダル 136,400円
□伊勢丹新宿店 本館4階 インターナショナルデザイナーズ
*ワンピースは、日本橋三越本店 本館3階 ヴァレンティノでもお取り扱いしております。

土取 表面的な流行や廃りはありますが、人間にとって服は不可欠なものです。ファッションデザイナーの中には、古さと新しさをリンクして考えている人もいて、そのようなデザイナーには興味があります。<グッチ>のアレッサンドロ・ミケーレとか。先日、映画監督のガス・ヴァン・サントとコラボレーションしていましたが、私もガス・ヴァン・サントの映画の中のセリフから作品のタイトルを付けたことがあって、ミケーレのセンスに共感するところがあります。

ー それは何という映画だったんですか?

土取 『永遠の僕たち』という映画、その中のセリフでした。あと、私は絵の中に「柄」を取り入れることもあるので、ファッションはよく見ていますね。

ジル サンダー&ステラ マッカートニー

写真左:<JIL SANDER/ジル サンダー>
コート 244,200円
スカート 96,800円
シューズ 102,300円
バッグ 196,900円 レーヨン・シルク/14×27×6㎝ *伊勢丹新宿店のみのお取り扱い
□伊勢丹新宿店 本館3階 インターナショナルデザイナーズ イースト
□日本橋三越本店 本館3階 ジルサンダー

写真右:<STELLA McCARTNEY/ステラ マッカートニー>
シャツ 111,100円
パンツ 143,000円
シューズ 111,100円
*すべて3月中旬販売予定
□伊勢丹新宿店 本館3階 インターナショナルデザイナーズ イースト
□銀座三越 本館4階 ステラ マッカートニー

ー それから、土取さんの絵の魅力には「線」があります。描き込み過ぎないようにしつつ、複雑なレイヤー(層)を創り出していますね。

土取 私はデッサンが好きなんですが、デッサンは時間や手間をかけたら、おのずと完成度は上がって、良い絵になるんです。しかし「手数」をかけると絵は「重く」なります。私は自分の発言についても「シンプル」で「端的」でありたいと考えているので、絵についても、一番シンプルな「手わざ」で完成させたいと思っています。「軽さ」「ラフ」「シンプル」を心がけていますね。

ー 的確な表現ですね。

土取 そうです。かさねて重くするよりも、「ここだ」というところに手を入れる方が自分としては「かっこいい」と思います。

ー 色彩についてはどうですか?

土取 色彩については厳格な決まりごとは作っていないんですが、シーズンによって変わります。夏は夏のパッションな色を重視しますし、冬になると落ち着いた色を使うようにしています。

ー それは面白いですね。

土取 外光の具合によって変わります。冬は色が落ち着いていて、自分が絵の中に潜り込んでいくような気がします。夏は落ち着きがなくて(笑)。

ー 1日の間で、絵を描いている時間はどれぐらいですか?

土取 描いているよりも、画面を見ている時間の方が長いですね。下地を作りながら考えている間が一番長いかもしれません。描き始めると、ノッているときなら、2.3時間で描き終えるものもあります。終われない時は、ひとつの作品に1ヶ月半ほどかかったこともあります。私は学生からプロになろうと思ったときに、何でも描けるわけではない、だから何かしらのテーマをひとつ決めて描くことを心がけました。一番自分が興味があって続けられるもの。そこから、最初に話した「I and You」のシリーズも始まりました。

ー 最後の質問になりますが、土取さんにとって「美しいもの」とは何でしょうか?

土取 「美しいもの」、難しいですね。でも、自分の感情が動いたら、それを「美しい」と呼んで良いと思っています。めちゃくちゃ感動したら、それが「美しい」ということだと思います。

土取郁香
土取郁香●つちとり ふみか
1995年、兵庫県生まれ。2020年3月京都造形芸術大学大学院 美術工芸領域 修士課程修了。 親密な距離関係にある2人の人物を描いた《I and You》、風景の中から色やかたちなどの要素を抽出した《a scene》の2つのシリーズを中心に絵画を制作。絵画を構成するものの物質性や虚構性とたわむれ、具象と抽象のあいだを揺れ動くようなイメージを特徴とする。主な展覧会に「骨と皮(火を灯す・薔薇をみつけて来なければ)」(WAITING ROOM)など。

<br> 個展「骨と皮(火を灯す・薔薇をみつけて来なければ)」
(WAITINGROOM/東京)撮影:Shintaro Yamaanaka(Qsyuml)

<br> 京都造形芸術大学院 修了展「愛のイメージ(ここはそこよりずっと明るい/ここはそこよりずっと暗い)」(京都造形芸術大学/京都)撮影:Alma Schanzer