高木:2020年4月、コロナ感染症禍世界に向けてクチネリ氏が発信された力強いメッセージです。
早速ですが、「A PROJECT for BEAUTY」について伺わせてください。
1985年、〈ブルネロ クチネリ〉の本拠地であるソロメオ村の修復事業が本社移転と共に始まりました。移転当時荒廃していたこの地の古城、教会、住民の方々の住居など村の修復や劇場、ライブラリーなどアートフォーラムの造営を行ったんです。
高木:大規模で、とてもユニークな取り組みですよね。そこにはクチネリ氏の深い想いがあったんでしょうね。
創業者のブルネロ・クチネリは常に、自らを村の所有者ではなく、「管理人」であるという思いのもと、この地が本来持つあらたな力を引き出し、荒廃していたこの地に尊厳を取り戻すことに力を注ぎました。そして、2014年第二期修復事業として新社屋を含む約100ヘクタールの谷側の地に公園の造園を始めました。
高木:まず、村の活性化から始め、そして更に公園を造ったんですね。その公園はどんな公園なんですか。
本社を含む敷地に「産業公園」、サッカー場を含む「スポーツ・運動公園」、地産地消用に栽培される果物、ワイン、野菜などをつくる「農業公園」と3つに分割された公園です。
高木:それぞれ目的を持った公園なんですね。実際に村の人々はどのように公園を利用しているのですか?
地域にひらかれたこの敷地では、人々は自由に実った果物をもぎ取りながら散歩をしたり過ごすことができます。もともとオリーブオイル、麦、ワインがこのソロメオではつくられており、カシミヤ製品の生産と共に、地域が再び息を吹き返すことにつながりました。
ブルネロ・クチネリは、人間性に関するさまざまな活動、それを象徴するものを身に見える形で長く残すために「人間の尊厳に捧げる」と書かれたトラヴァ―ティンでつくられたアーチ状のモニュメントとバッカス像を有したワイナリーを敷地内につくり、2018年に公園が完成したんです。
公園全景
ワイナリー
記念モニュメント
高木:本社を移転するだけではなく、村と、そこに住む人々の生活にまで影響を与え活性化させる、他にはない取り組みですね。
また、〈ブルネロ クチネリ〉といえば、「PROJECT in SUPPORT of MANKIND」という取り組みも、大きな話題になりましたね。
ええ。2020年7月14日、コロナ感染症がパンデミックとなり自社ブティックを閉鎖した際に余剰衣料の寄贈を発表しました。現代の資本主義が、利益と恩恵の調和の中で人間性という意味においてターニングポイントを迎える今、製品を生み出す過程で関わった人々の想いと技術を含めて商品の持つ価値をそのまま寄贈することが重大な意義を持つとブルネロ・クチネリは考えています。
高木:そのメッセージが、『この寄贈商品を手にされた方、衣服生産に携わったすべての方々の尊厳が高まっていくこと、そしてこの選択を「創造物との調和の中で生きて働く」という壮大なプロジェクトの一環として、未来に向けたと考えています。』というものでした。
はい。このプロジェクトのためにクチネリファミリーから6名を含む10名を社内から選び、「人道支援のための理事会」を立ち上げ、世界に広がるネットワークを通じ、これらの衣服を小包にして援助を必要とする人々に贈り物として届けていきます。
これらの衣服には“Brunello Cucinelli for Humanity”という消えることのない織ネームがつけられています。
ブルネロ・クチネリファミリー
高木:“Brunello Cucinelli for Humanity”、〈ブルネロ クチネリ〉の原点であり未来でもある言葉ですね。今回は、お話ありがとうございました。