歌舞伎界の若きホープ、片岡 千之助さんにファッションのこと、表現者としての思いをお聞きしました

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歌舞伎界では、今、続々と若い世代が飛躍を見せています。そのなかで、凛々しい立役も柔らかな女形も魅力的に演じ、独特の色気を放つ存在が、片岡 千之助さん。人間国宝の仁左衛門さんを祖父に、女形として活躍する孝太郎さんを父にもつ、22歳の若きホープです。「ファッションにもすごく興味がある」という千之助さんに、歌舞伎にとどまらず、表現することへの思いを語っていただきました。

  • <Bottega Veneta/ボッテガ・ヴェネタ>着用画像

    <Bottega Veneta/ボッテガ・ヴェネタ>
    タンクトップ 57,200円
    パンツ 1,089,000円
    ※シューズは、参考商品です。
    □伊勢丹新宿店 本館4階 インターナショナルラグジュアリー

この日は朝からの撮影で計7着のハイブランドに身を包んだ千之助さん。「一対一という撮影の感覚」が好きだと言います。

「カメラのレンズを人の目だと思って見ていると楽しいんです。写真で一つの表現をする人と写される側の真剣な見つめ合いだったり、レンズを人の目だとすると僕は誰に語りかける目をしたらいいんだろうとか考えたり。舞台とはまた全然違う感覚ですね。正直に言いますと、舞台ではどうしても一対一という感覚にはなれず、共演の先輩方やお客さまやいろいろ気になってしまうところがあって。いつかは“無”でいられるようになりたいと思っているのですが」

着替えるたびに、やんちゃな少年の笑顔、麗しさ耽美的な雰囲気漂う青年―いろいろな顔を見せていくその姿は、役を演じているようでもありますね。

「舞台ですと、役になるために少し誇張した表現をしなくてはいけないところがありますが、こういった撮影では、素に近いところで臨める気がします。もちろん、自分のなかで服のイメージをもって何かしらのキャラクターを考えるのですが、着飾りすぎず、ただ服に着られるだけでもなく、素でもなく、難しいバランスを狙っています。素敵な服を着させていただくと、気持ちも高揚しますね。<フェラガモ>のスーツは特に好きでした。少し民族的な匂いもして、色も形も最高に美しい!あのまま着て帰りたかったな(笑)」

  • <FERRAGAMO/フェラガモ>着用画像

    <FERRAGAMO/フェラガモ>
    コート 495,000円
    ジャケット 407,000円
    シャツ 95,700円
    タイ 27,500円
    パンツ 176,000円
    □伊勢丹新宿店 本館4階 インターナショナルラグジュアリー

<フェラガモ>の創業者サルヴァトーレ・フェラガモは、11歳の時に自宅で靴屋を開いたと話すと「すごい!」と目を輝かせます。

「いい意味で、子ども心があるというか、通じるものを感じます。11歳の時の思いを大切にされてきて、それが受け継がれているんじゃないかなぁと。僕は3歳の時に初めて舞台に立たせていただいたんですが、その時の感覚を絶対に忘れたくないと思っているんです」

千之助さんは11歳の時、憧れの演目『連獅子』に挑んでいます。親獅子が仔獅子を谷に蹴落とし、駆け上がってきた仔獅子だけを育てるという故事にちなんだ舞踊作品。そのきっかけは、小学校4年生の時に、「オーパ(仁左衛門)と踊りたい」と祖父へ充てた手紙だと言います。熱い思いが、歌舞伎の本興行では戦後初となる祖父と孫との『連獅子』を実現させました。

「一つの夢が叶ったことはとてもうれしく、今でもそのうれしさは持ち続けています。ただ、あの時はとにかく精一杯に努力するしかなく、稽古でも本当に谷に突き落とされている感覚でしたし、自分がつとめる仔獅子のことしか考えられませんでした」

その後、14歳、21歳と3回、祖父の親獅子で仔獅子をつとめています。初演時は千之助さんの可愛さに「千之助くん、頑張って!」という温かい客席でしたが、昨年の21歳の時は、まことの花に時分の花がぶつかっていくような、祖父と孫を超えて、二人の役者が対峙するさまに観客が息をのんでいました。

「無我夢中だった前回から7年経ち、色々な経験を重ねたことで、丁寧に役の心に入っていけた気がします。祖父が、十七代目と十八代目(勘三郎)の中村屋さん親子がされた『連獅子』の世界観を表現したいと思っていたことは以前から知っていましたが、昨年初めて、この感覚かもしれない、と体感できたんです」

  • <Maison Margiela/メゾン マルジェラ>着用画像

    <Maison Margiela/メゾン マルジェラ>
    ジャケット 300,300円
    ブラウス 266,200円
    パンツ 170,500円
    ※パンツは、3月中旬販売予定
    ※ジャケットは、諸般の事情により入荷が遅れております。商品の入荷につきましては、係員までお問い合わせください。
    □伊勢丹新宿店 本館3階 インターナショナルデザイナーズ・ウエスト
    □銀座三越 本館4階 メゾン マルジェラ

その頃、「伝統を受け継いでいく」ということについても改めて深く考えたと明かしてくれました。

「普通の親子関係でも、生物学的な遺伝で、容姿や顔、声など親から受け継ぎますし、歌舞伎でしたら明確に目に見えるものとして名前を受け継ぐことがあります。
でも、芸というものはどうなのかなと。芸の継承というと、渡すという行為がフォーカスされがちだけれども、そのバトンをどう受け取ればいいのか、受け取る側の姿勢がすごく大切になってくる。そこには、もちろん芸を盗むという行為もある。渡してくださる方への気持ちや、受け取るものに対しての気持ち、それをどう持っていればいいか、常に自分に問いかけています。
そして、伝統や文化というものを、広めることは一人でもできるけれど、守ることは絶対に一人ではできないと思うんです。僕が身一つで、音源をもって、素踊りで、どこかで舞踊を披露することはできるけれど、歌舞伎の伝統を守っていくには、衣裳さん、床山さん、大道具さん、小道具さん、照明さん、そしてお客さま、たくさんの方の力がないとできません。コロナ禍で舞台が止まってしまったこともあって、どういう形で守っていけばいいのか、どうやって維持していけばいいのか、とすごく考えました。いろいろな意味で難しい時代に来ているのではないかと。でもやはり、守っていくことと同時に、広めていかないといけない。そのバランスも大切です。何事もバランスってすごく関わってきますよね。外に発散する力量と内に溜める力量のバランス。人に伝えるうえでの一番いいところがある気がしますし、魅力的な人ってそのバランスが美しくて、その人が発する光のようなものが人の心にすっと入っていきやすいのではないかなと思います」

  • <AKRIS/アクリス>着用画像

    <AKRIS/アクリス>
    ブラウス 248,600円
    パンツ 146,300円
    □伊勢丹新宿店 本館4階 インターナショナルラグジュアリー
    □日本橋三越本店 本館3階 アクリス

2023年は、3歳で初お目見得をしてからちょうど20年という節目の年になりますね。

「デビュー20年!舞台に対する憧れの気持ちと、自分のなかにある夢は持ち続けていきたいです。僕のなかでは、歌舞伎も映像作品も、今日のような撮影も、表現という意味で違いはなく、ジャンルの住み分けはないんです。役者というより“表現者”。表現者として、祖父のようになりたいし、憧れの中村屋さんのようになりたいし、マイケルジャクソンみたいにもなりたい、けれど、僕は僕。僕のやるべきことは何か、いつか見えてくればと思い描いています」

片岡 千之助さんの画像
片岡 千之助(かたおか せんのすけ)
2000年、東京生まれ。祖父は人間国宝、片岡 仁左衛門。
2004年、歌舞伎座にて4歳で初舞台を踏む。
2011年には仁左衛門と戦後初の祖父、孫での『連獅子』を実現させ、2012年、12歳から勉強会として自主公演『千之会』を主催するなど数々の舞台を踏みながら芸事への研鑽を積んでいる。
2017年にはペニンシュラ・パリにて歌舞伎舞を披露、またフランスの名門ブランド<カルティエ>腕時計パシャの国内アチバーに選ばれるなど、国内だけに留まらず、海外での活躍の場も広げている。歌舞伎役者としての主軸を大切にしながらも最近では映画やコマーシャルなどさまざまなことにチャレンジし、表現者として邁進しようとしている。

片岡 千之助さんの撮影にて今回舞台となったのが、創業350周年を迎えた日本橋三越本店の中にある「三越劇場」です。

三越劇場は1927年(昭和2年)、“三越ホール”の名称で、世界でも類を見ない百貨店の中の劇場として日本橋三越本店 本館6階に誕生しました。関東大震災で大きな被害を受けた日本橋三越本店の再建にあたり「建物だけでなく、文化的な復興を」という想いから作られた劇場です。
その三越ホールのこけら落としは1927年(昭和2年)4月、歌舞伎界から澤村 宗十郎丈(七世)、守田 勘彌丈(十四世)ほかが出演。また同年9月には水谷 八重子氏(初代)らの出演による日本初のファッションショーが開催されました。以来、主に邦楽の温習会・舞踊会・コンサート・講演会などを開催し、高級社交場としてお客さまへのサービスに利用されていました。
戦時中は一時閉鎖されましたが、戦後1946年(昭和21年)11月に再開、同年12月の中村 吉右衛門丈(初代)の一座よる歌舞伎上演を機に、名称を“三越劇場”と改め、焼失を免れた東劇や帝国劇場とともに戦後の演劇復興の一端を担いました。
この時期に、中村 歌右衛門丈(六世)、中村 勘三郎丈(十七世)、松本 白鸚丈(初代)らが、歌舞伎復興を旗印に三越劇場で意欲的に歌舞伎を上演しました。今も残る「三越歌舞伎」の名は、1946〜50年の間に30本もの歌舞伎公演が行われたことに由来します。1949年(昭和24年)から三和会による文楽、1951年(昭和26年)頃からは俳優座・文学座・劇団民藝による新劇も続々と上演され、数々の名舞台を誕生させて戦後の芸術、大衆娯楽の復興に大きな役割を果してきました。

三越劇場は間口約12m(6間)、奥行約6m(3間)のプロセニアムアーチ(額縁)の舞台を擁し、場内にはさまざまな様式の装飾を取り入れています。
ご来場の際には、装飾の一つひとつに想いが込められた三越劇場の場内をお楽しみください。

  • 「初春興行大歌舞伎」画像

    1946年(昭和21年)12月
    「初春興行大歌舞伎」
  • 「中村吉右衛門劇団若手大歌舞伎」画像

    1947年(昭和22年)2月
    「中村吉右衛門劇団若手大歌舞伎」
  • 「三越歌舞伎 開場3周年記念特別興行」画像

    1949年(昭和24年)12月
    「三越歌舞伎 開場3周年記念特別興行」
【三越劇場今後の公演予定】

「第624回 三越落語会」
□2023年3月26日(日)
1953年からスタートしたホール落語の先駆け。流派を超えた実力者が勢ぞろいいたします。
出演:柳家 さん喬、五街道 雲助 ほか

「イタリア歌紀行コンサート」
□2023年4月30日(日)
三越劇場×イタリア音楽。オペラ・カンツォーネ・映画音楽・・・情熱的な演奏と迫力ある歌声がみなさまをイタリアへお連れします。
出演:今井 俊輔(オペラ歌手)、加耒 徹(バリトン歌手) ほか

「第625回 三越落語会」
□2023年5月18日(木)

六月新派喜劇公演「三婆」
□2023年6月3日(土)~6月25日(日)
敵か味方か?三人のおばちゃまたちの奇妙な共同生活。女たちの老後問題をユーモアたっぷりに描いた丁丁発止の大人気喜劇!
出演:水谷 八重子、波乃 久里子、渡辺 えり ほか

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