フルビスポークブランド〈ラ・スカーラ〉と、テーラー 山口信人とは

オーダーメイドスーツほど、作り手の価値観や美学が投影される服はないだろう。〈LA SCALA/ラ・スカーラ〉のテーラー山口 信人が仕立てるスーツも、彼の美学が色濃く反映されている。山口の作り出すスーツは一見、いわゆる「ナポリ仕立て」のスーツに見えるかもしれない。しかし、本質はそうでは無い。

実は、山口のスーツには、イタリアや英国のみならず日本独自なモノまで、これまでに学んださまざまなテクニックがミックスされており、それは自分の美学を体現するためのツールであると考えている。そして何より、今のスタイルを作り上げたのは、これまでに携わった顧客と、それに対して真摯に向き合ってきた山口との共作といえるだろう。

山口信人の美学に影響を与えたものとは

メンズ館5階にある山口専用の工房の様子

この美学を生み出すまでに、さまざまな影響を受け独自の解釈で構築してきたという。まず、一つ目は1970年代のカルチャー。特に名作として知られるアメリカ映画は、歳を重ねてもなお新しい発見をもたらしている。いつも山口にとってのスクリーンの中で活躍するヒーローは、孤高を貫くアウトロー役の俳優が多く、その男としての人生観や、家族・仲間愛などに感化されたという。

もう一つは、師と仰ぐナポリの巨匠との出会いだ。クオリティ重視のスーツ作りから、山口自身が思う理想的なスーツ作りの技術やスタイルを学んだことだ。
20代半ばの修業時代に日本有数の縫製工場で働いていた山口が、スーツづくりで興味があったのは、どれだけ高いクオリティの物を作り出せるかだった。しかし、伝統的で英国的なスーツの美しさは理解していたものの、自身が描く理想のスーツを考えたとき、違和感を持っていたという。

その後、国内のさまざまなテーラーや工房での経験を積み、予てより憧れていたサルトリアで働くため、単身でミラノに渡り、さまざまな技術を習得し日本へ帰国。三越伊勢丹に入社し、テーラーとして勤務しながら、自分のスーツ作りを模索していた。

そんな折に山口は、ナポリの巨匠との運命的な出会いを果たし、自分が作り出したかったスーツの理想像を見ることになる。
技術的なところではなく、巨匠が描き出す男性像のカッコよさに最も感銘を受けた。そのスタイルは、男性的な力強さを持っているが決して威圧的ではなく、大人の柔軟さや軽さを兼ね備えていて、どこか力の抜けているような男性像。したたかに世の中を生きる賢さが、粋に見えたという。それから山口は実際にナポリの工房へ通い、巨匠のスーツ作りに触れていき、自身のスタイルを確立していくことになる。

他にはない〈ラ・スカーラ〉ならではのスタイルの追求

フルビスポークオーダースーツ参考商品

テーラーとしての力が本当の意味で上がるのは、実際に多くの顧客にスーツを仕立てることしかないのだろう。注文をもらう度に、山口は思い悩みながら、顧客と自分に向き合っていく。その山口の成長過程において、最も大きな壁となったのは日本人特有の体型である。

欧米人に比べて、胸板が薄く、いかり肩で前肩の上半身と、下半身もO脚が多い日本人は、スーツ姿を美しく見せるには難易度が高いとされている。その体型に対して、着心地を犠牲にせず、美しく見せるために、山口はチャレンジしてきた。理想の男性像をスーツのディテールに落とし込んだ時に、ナチュラルな肩傾斜と胸のボリュームは必須事項だったが、どちらも日本人の体型とは相性が悪い。

そこで山口はまず、襟腰を若干高く設定し、肩幅もやや広めにとった男性的な印象へと導くジャケットを生み出す。いかり肩体型でも視覚的に美しいナチュラルな肩傾斜を描くことが出来る。
若干胸周りにボリュームを持たせているが、ダーツを深くとりウエストから蹴回し(裾)まで強くシェイプさせることで、相対的に胸のボリュームを大きく見えるよう実現。さらに、肩幅と胸幅とのバランスをとるために広めのラペルをあまく返すことで、胸周りに視覚的なボリュームを出し、自然に男性的なシルエットを描くよう工夫した。
もちろん、着心地が犠牲にならないよう、これまで培ってきた、さまざまな技術や資材の選定をすることで、軽い着心地も実現した。

パンツについても、ジャケットの雰囲気を崩さず調和させてた。山口のパンツは、横から見るとやや太く感じるかもしれないが、正面から見た印象は全く別物だ。
パンツのセンタークリースがウエストから裾にかけて、真っすぐに床へ落ちるようなラインにすることで、視覚的に足を長く細く見せててくれる。さらに、ウエスト位置を高めに設定することで、スーツをトータルで見た時に、上半身から下半身までを見事に統一させた。

着る人にどんなスタイルを提案し、今後どのような道を目指すのか?

フルビスポークオーダースーツ参考商品

あえて言うならば、「権威や常識にとらわれず、自分の道を生きる粋な日本人を、最も美しく見せることができるスーツ」であるといえる。

 

Photo&Text:ISETAN MEN‘S net

  • 〈ラ・スカーラ〉 テーラー山口 信人

    文化服装学院を卒業後、国内有数のファクトリーにて仕立ての基礎を習得。その後更なる技術取得のため、イタリア・ミラノへと渡る。帰国後、三越伊勢丹へ入社。トランクショーで出会ったナポリの巨匠に感銘を受け、休暇を利用してナポリへ通う。そこで学んだ技術をベースに、力強い男性的な美しさと、軽い着心地を実現したスーツを作り上げ、テーラーとして他にはない独自の存在感を発揮している。2014年、自身のブランド〈ラ・スカーラ〉を立ち上げ、現在に至る。

    新宿店 メンズ館5階=オーダーメイド
    〒160-0022 東京都新宿区新宿3-14-1 03-3352-1111(大代表)

店頭でのサービス