日本×手仕事×暮らし|アートな民藝として
コロナ禍がもたらした価値観の変化により、見直されているのがアナログの素朴さやぬくもり。日本の手仕事もそのひとつで、暮らしの身近なアートとして、ファッションを感じるアートとして民藝に注目が集まっています。伊勢丹新宿店本館3階の2023年の幕開けを飾るのは、染色家の宮入圭太さんの作品展。「見たことあるけど、見たことないもの」。そんな自由すぎるように見える作風に込められた想いとは。
宮入圭太の型染展 “tea room" Curated by Pacifica Collectives
□2023年1月2日(月・振替休日)~1月10日(火)
□伊勢丹新宿店 本館3階 センターパーク/プロモーション
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Interview Part1 「無作為」で
民藝と向き合うことが宮入圭太の作品の真髄
宮入さんが日々作業室として籠っているマンションの一室を訪れると、 目に飛び込んできたのが怪獣のソフトビニール人形たち。染色家の道を志したのは、その前職の原型師時代の葛藤が関係していた。より良い表情を生み出すために目の大きさや位置を1ミリ単位まで突き詰めていたそうだが限界を感じていたという。「これはキリがないなって思い始めた時に、自分のジャンルとは異なる造形や絵を見るとすごく自由に感じたんです」。そのひとつが染色家の作品だった。そこから目黒区の日本民藝館にも足繁く通ったそう。「書籍や作品集を目にすればするほど、自分がやりたいのはこれだなって思いましたね」。
(型抜き作業)
「昔はパッパと一気に抜いていたんですけどね」と宮入さん。最近の主流は刃を突き押すように型抜きをしていく「突き彫り」という手法で、染料がにじんだりする仕上がりが気に入っているという。
型染めというと図形が連続するイメージもあるが、宮入さんの作品は配置も不規則だったり作風も独特。技術もすべて独学だ。宮入さんは「技術を覚えることよりも、直感で理解することの方が大切だと思いました」と、日本民藝館で多くの作品に目を通した理由を話してくれた。染色について多くのことを学んだ柚木沙弥郎先生の作品との出会いもそんなとき。にじんだり、歪むことを良しとしない工芸の世界にあって「柚木さんの作品はそんなの関係ないよって」。その自由さに衝撃を受け、宮入さんの作風にも影響を及ぼしているが「真似をするな」と周囲からは厳しい声もあったそう。それでも自分がやりたい表現を続けていくうちに、アーティストとのコラボレーションアイテムを展示、販売する<Pacifica Collectives/パシフィカ コレクティブス>を運営する貴島さんや海外アーティストからの評価は自然と高まっていった。
(糊塗り作業)
「染色の道具はどれも高いですから(笑)」と、糊を伸ばす工程にかかせない網は家庭の網戸に使われるものを代用。宮入作品の味わい深さは、そんな手作り道具もひと役買っているのかもしれない。
インタビューの最中に宮入さんの口から頻繁に発せられたのが「無作為」という言葉。 どうすれば面白い作品になるのか、それについて宮入さんが辿り着いた答えのひとつがカッコつけないこと。例えばパソコンの正確無比なツールで宮入さんの作風を再現しようとするとどうしても狙いが生まれてしまう。「まるで失敗したかのような線の歪みや色のにじみも、それがわざとだと絶対にバレるんですよね」。だからこそ宮入さんは無作為で作品と向き合うことを大切にしている。型染めは完成までに型を抜く、糊を塗る、乾かすなど7つの工程を必要とするが「作業工程を経るごとに、いやらしさがどんどん浄化されていくような感覚がある」と型染めに対する考えを話してくれた。
宮入さんが染色家としての大きな転機だったと話すのが、世界的なグラフィティアーティストであるバリー・マッギーさんの来日作品展で、お友達コーナーに作品が飾られたこと。インタビューに同席した<パシフィカ コレクティブス>の貴島さんは当時のことをよく覚えているそうで「フレンズルームに集められた作品はバリーさんが気に入った若手アーティストばかりでした」。そこで天井から吊り下げられていたのが宮入さんの手拭い。「自分はほとんどのアーティストを知っていましたが、ただ一人だけ自分も周囲も「あれは誰だ?」とざわついたのが宮入圭太さんでした(笑)」。
(色塗り作業)
宮入さんの初期の作品には多色使いも見られるが「柚木先生から基本の8色だけでやりなさいと言われてからはそれを心がけています」。染色の基本から技術的なこと、道具のことまで柚木先生の教えはずっと守り続けている。
Interview Part2 作品には感情、人柄、
さらには生き方まで投影される
伊勢丹新宿店本館3階の新春を飾る宮入さんのイベントだが、2023年の初売りである「新春祭」のメインビジュアルも手がけることに。モチーフとなっているのは縁起のいい鶴と亀だ。ただ生き物を型染めの図案にするのは避けていたという。「もともとは生き物を描くのは好きなんです。でも顔があるとどうしてもキャラクター感が出て、それが自分の作品イメージのように取られてしまうのが心配でした」。それでも自分は生き物を描くのが好きだから、それならその気持ちに従ってみようと。「単純に年を取ったから、自分に素直になれたのかもしれないですね(笑)」。人柄、さらには生き方までも投影されるのが民藝というものだと宮入さんは語る。
民藝とはこうあるべきという風潮も少なくない中で、異彩を放っているような 存在でもある宮入さんの作品。「民藝の概念をぶっ壊してやろう、なんて考えはまったくないですよ」と宮入さんは話すが、時にはストリート風と表現されることもあるように、民藝の枠組みからは逸れているように思われることも多いという。しかし「答えはさまざまな書籍に書いてますし、民藝の思想をできる限り守っているつもりです」と決して異端などではない。それでも独特の世界観といわれるのは「グラフィティアートに傾倒していた時期もあって、それを隠していたんですけどルーツのようなものは作品に現れるんでしょうね」と思い当たるところはあるよう。
伊勢丹新宿店でイベントを開催することになり、宮入さんは初めて新宿のお店を訪れたという。「会場になる本館3階は黒が基調になったフロアなので、自分の明るい色の作品を展示販売するのはどうなんだろうって最初は感じました」。それでも工人(何かを作る職人)にとって三越伊勢丹からオファーがあることはすごいことだと思い直し「一気にやる気になりました」と。自分のことを本来は百貨店での作品展とは無縁の人間と話す宮入さん。「だから本当に光栄だと思っています。ありがとうございます」とあらたまったお礼の言葉まで、無作為のピュアな響きが感じられた。
Gallery
宮入圭太 型染め制作MOVIE
Profile
宮入圭太
(ミヤイリ ケイタ)
染色家。1974年生まれ、東京都出身。
型染を生業としています。
いつのころからか柳宗悦の民藝思想に惹かれるようになりました。
模様について柳はこう書いています。
"模様を見よ、多く描き早く画く時、それはいやが上にも単純に帰る。終りには描くものが何なるかをさえ忘れている。自然なこの「くずれ」は模様を決して殺していない。かかるものに、か弱き例があるであろうか、勢いに欠けた場合があるであろうか。よき省略は、結晶せられた美を現してくる。ある者はそれを粗野と呼ぶであろう。だがそれは畸形ではない。粗悪ではない。自然さがあり健康がある。疲れた粗野があろうか。ある者はこれを稚拙とも呼ぶであろう。だが稚拙は病いではない。それは新たに純一な美を添える。素朴なものはいつも愛を受ける。ある時は不器用とも云われるであろう。だが器用さにこそ多くの罪が宿る。単なる整頓は美になくてならぬ要素ではない。むしろ不規則なくば、美は停止するであろう”
「工藝の道—工藝の美一四」より抜粋
型染という制約された表現を通して、柳の説いたこの道に沿うような仕事をしたいと念願しています。
Pacifica Collectives
(パシフィカ コレクティブス)
「アートをインテリアに」をコンセプトに九段坂上に店舗兼ギャラリーを構えるインテリアブランド。主にラグやクッション、時計などのインテリアグッズにアーティストのイラストや作品を落とし込み、アート作品のような「コレクションしたくなる」インテリアグッズをメイドインジャパンにこだわり製造販売している。今回のイベントでは、全体のアートディレクションからラグやアパレルアイテムなどの制作を手がける。
Event
宮入圭太さん、Pacifica Collectives、伊勢丹新宿店本館3階がコラボレートし、年の口火を切るイベントとして開催される『宮入圭太の型染展 “tea room" Curated by Pacifica Collectives』。宮入圭太さんの型染め作品として新しい図案を含んだ染布、型絵を展示販売いたします。また、ライフスタイルアイテムとアートの融合を得意とするPacifica Collectivesからは宮入さんの図案を落とし込んだアートラグや手ぬぐい、新年にふさわしいエクスクルーシブカレンダーなどをラインアップ。 そして、民藝もファッションのひとつと感じさせてくれるスウェットやTシャツも。本館3階が考える「見たことあるけど、見たことないもの」に、ぜひ触れてみてください。