機械式時計に欠かせない「オーバーホール」とは|ウォッチコンシェルジュに聞くVol.4

機械式時計に欠かせない「オーバーホール」とは|ウォッチコンシェルジュに聞くVol.4

一生モノの大切な時計を手に入れたら、長く愛用するためのメンテナンスが欠かせません。「オーバーホール」という言葉は知っているけれど、実際どんなことをするのかわからない、それって本当に必要なの?というギモンに、ウォッチ&ジュエリーコンシェルジュの青木美恵がおこたえします。今回は、高い技術力で伊勢丹が信頼を寄せ、時計修理業務を委託している「共栄産業株式会社」のオーバーホール工房におじゃましました。

「共栄産業株式会社」のオーバーホール工房

そもそもオーバーホールって?

別名「分解掃除」とも呼ばれるオーバーホールは、その名の通り、時計を分解して部品ひとつひとつの汚れを取り除き、ベストなパフォーマンスを出せるよう調整を行うこと。このオーバーホールを行わずに長期間時計を使い続けると、内部の部品や潤滑油が劣化し、正確に時間を刻めなくなったり、故障を引き起こす原因にもなってしまうんです。人間でいえば、定期健診のような役割ですね。不具合のもとを早期に発見するためにも大切なオーバーホール。どのような工程で行われるかを実際の作業現場からご紹介したいと思います。

技術者の井原康介さん

約50名の技術者が在席している「共栄産業株式会社」には、月におよそ1万本もの時計修理・オーバーホールの依頼が。今日は技術者の井原康介さんに現場を案内していただきます。

【ステップ①分解】数百をこえるパーツをすべて取り外し、ひとつひとつ点検

まずはお預かりした時計の状態をチェックし、ブレスレットやケース、裏蓋を外していきます。さらに、ムーブメントの地板からすべての歯車やパーツを取り外し、問題がないかをチェック。クロノグラフ搭載モデルで約150〜200程度、ものによっては300以上のパーツがあるといいますので、ひとつひとつを点検しながら分解していく作業は、非常に高い集中力を要する工程です。

時計の状態をチェック ひとつひとつを点検しながら分解

繊細な部品を傷つけないよう、さまざまなツールを使い分けて作業が行われます。部品の素材や用途にあわせて、既成のツールに技術者が独自の加工を施して使用しているものも。

分解した部品は専用のカゴに入れて、次の洗浄の工程へと進んでいきます。

部品は専用のカゴに入れて次の洗浄の工程

■オーバーホールの技術者は名探偵!?
時計修理の世界では、ベテランの技術者になると、時計に残された痕跡から持ち主のライフスタイルや仕事までわかってしまうこともあるそう。どんな風に時計を使っているか、着けているのは右腕か左腕か、さまざまな条件を「推理」しながら、その人にとってベストな調整を行います。まるで推理小説に登場しそうなエピソードですが、実際刑事ドラマの題材として取り上げられたこともあるんだとか!

【ステップ②洗浄・研磨】超音波と手作業ですみずみまで洗浄し、磨きあげる

さきほど分解してカゴに入れられた部品は、専用の機械に入れて超音波洗浄。

専用の機械に入れて超音波洗浄 専用の機械に入れて超音波洗浄

ケースやブレスレットは、手作業で丁寧に汚れを落としていきます。

ケースやブレスレットは手作業で丁寧に汚れを落とす ケースやブレスレットは手作業で丁寧に汚れを落とす

洗浄したケースやブレスレットは研磨の工程へ。光らせたい部分はポリッシュ仕上げ、マットな部分はヘアライン仕上げと、時計のデザインに合わせて最適な研磨を行い、美しさを蘇らせます。

洗浄したケースやブレスレットは研磨の工程

ポリッシュ面とヘアライン面を分けるため、保護テープを貼ってマスキング

保護テープを貼ってマスキング

【ステップ③組み上げ・注油】

洗浄された部品は、潤滑油を差しながら再び元通りに組み上げられます。この注油の作業がオーバーホールの肝となる工程のひとつ。油を差す箇所によって数種のオイルを使い分け、縫い針よりも細い専用の道具を使ってごく僅かな量の油を差していきます。技術者の豊かな経験によって、時計のポテンシャルが最大限に引き出されます。

潤滑油を差しながら再び元通りに組み上げられます 潤滑油を差しながら再び元通りに組み上げられます 潤滑油を差しながら再び元通りに組み上げられます

注油は細心の注意が必要な工程。たくさんの技術者が作業する工房ですが、シンと静まりかえっています。

【ステップ④タイミング調整】

部品の組み上げが終わったら、歩度測定器を使って時計の精度を調整します。進みすぎないよう、遅れすぎないよう、最適なところを探り当てて調整をする作業です。

歩度測定器を使って時計の精度を調整 歩度測定器を使って時計の精度を調整

タイミング調整を行った後は、研磨を終えたケースに文字盤を収め、元通りの姿に。その後も防水検査などさまざまなチェックを経て、お客さまのもとへと送り出されます。

研磨を終えたケースに文字盤を収める

オーバーホールはどれくらいの周期で必要?

今回は実際の作業工程をめぐりながらオーバーホールについてご紹介しましたが、いかがでしたか?
機械的に調整作業を行うのではなく、使う方のライフスタイルを想像しながら最適な状態を模索するというエピソードの中にも、技術者の想いを感じていただけたのではないでしょうか。

使う方のライフスタイルを想像しながら最適な状態を模索する

時計の定期健診といえるオーバーホールは、3〜5年に一度行うのがよいとされています。目安としては、購入して10年の間は5年に一回、20年経ったら4年に一回、その後は3年に一回といった具合です。
きちんとしたメンテナンスを行えば、一生モノどころか、代々引き継いでいけるほど長く愛用いただける機械式時計。最後に、日頃の取り扱いで気を付けていただきたいポイントをまとめましたので、日々のケアと定期的なオーバーホールで、大切な時計と長くお付き合いしていただければ幸いです。オーバーホールや修理のご相談は、伊勢丹新宿店本館5階=ウォッチ/ウォッチリペアにて承っております。どうぞお気軽にお問い合わせください。

■日常の取り扱いで気を付けたいこと
時計が苦手とするのは、①衝撃、②湿気・水分、③磁気の大きく3つ。これらを避けて使用・保管することをおすすめします。

①衝撃
ぶつけたり、落としたりしないように、保管するときはボックスの中に入れるなど工夫しましょう。

②湿気・水分
防水仕様なら大丈夫と思いがちですが、レザーストラップが剝がれてしまったり、劣化の原因に。また、湿度の高いところに保管していると、時計の内部に水分が入ってしまうことがあるので注意が必要です。

③磁気
使用中も保管中も意外なところで影響を受けてしまうのが磁気。テレビやオーディオなど大きなスピーカーがある近くに置いたり、ノートPCの上に置いておいてしまうと磁気帯してしまいます。家電からは30センチほど離れたところに置くことを心がけてください。

ウォッチ&ジュエリーコンシェルジュ 青木 美恵
ウォッチ&ジュエリーコンシェルジュ 青木 美恵
日本時計輸入協会認定 CWC ウオッチコーディネーター、日本ジュエリー協会認定 ジュエリーコーディネーター。お客さまのお好み、ファッション、ライフスタイルからお似合いのウォッチをお選びいたします。

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