日比野克彦展 Xデパートメント 2020

3月18日(水)〜30日(月)※最終日は午後5時閉場 日本橋三越本店 本館6階 コンテンポラリーギャラリー

Xデパートメント 日比野克彦インタビュー

日比野克彦プロフィール
東京藝術大学在学中の1980年代前半に彗星のごとく登場し、領域横断的な作風で高く評価される。 デビューから現在に至るまで日本のアートの最前線で活躍を続けている。近年は地域性を生かしたアート活動を展開。 「明後日新聞社 文化事業部/明後日朝顔」(2003年~現在)、「アジア代表」(2006年~現在)、 「瀬戸内海底探査船美術館」 (2010年~現在)、「種は船 航海プロジェクト」(2012年~現在)など。

2014年より異なる背景を持った人たちの交流をはかるアートプログラム「TURN」を監修。 現在、東京藝術大学美術学部長、先端芸術表現科教授。岐阜県美術館館長、日本サッカー協会 社会貢献委員会委員長を務める。

さまざまな価値観が同居する百貨店を舞台に、「領域横断」という切り口で展覧会を構成したのが「Xデパートメント」でした。 約30年後の今、2020における「領域横断」ということ、「デパートメント」という存在など、日比野克彦氏にインタビューを通して語っていただきました。

「領域横断」
「デパートメント」の現在。

考え方というか方向性というのは、当時と基本的には変わりません。 脱領域というのはその頃も現在もそうなので、同じ事をやっていると思うんです。 1991年より前、1982年にパルコ主催の「日本グラフィック展」で大賞をもらいましたが、現代美術というものをいち早く日本に紹介していったのは百貨店だと思います。 すごく特徴ある80年代の現象だと思う。デパートメントが美術を発信していったという、海外にはない特徴ですよね。 日本は流通とミュージアムというものが独特の融合をしていった文化だと思うんです。 西武百貨店には西武美術館があり、伊勢丹には伊勢丹美術館があるというように、流通業の中がアートの拠点になっていったというのが東京の、日本の特徴ですよね。
1991年の「Xデパートメント」の頃というのは、デザインとアートの違いは何だとか、そういうような話はよくされていました。 海外では、デザインというのはプロダクトやグラフィックで、アートはアートマーケットというのがあり、はっきりと分かれているんです。 でも日本では、一般的な生活様式というスタイルの中に、美というものが存在している。 器とか襖、装いとか、ファッションデザイン、プロダクトデザイン、建築など、その中に美の様式があるというのが、我々日本人の特徴ではないですか。 浮世絵だって、江戸時代はそれこそ1枚今でいうと100円ぐらいで売っていた。だから、デザインとアートを日本人は分けにくいと思う。 アート、美術というものは西洋の考え方ですよね、「術」という。アートという一つの学問に仕立てたのが西洋の分け方です。 百貨店の中でアートを発信していく、消費されるものの中に美が存在する、それらは日本においては無理なく、普通だと思うんですよね。

新しいプロジェクトのきっかけ、
そして持続力とは。

当たり前のことから何を抽出して、何に見立てていくかですね。 そこにあるもの、例えば色でもそうだけど、色を作るっていうけども、例えば顔料にしたって、岩を砕いて色を作るとか染料を作るとか、草木染めで草をどうこうして汁を出すとか。 まったく0からではなくて、すでに在るものから作っていく。 自分で見立てて、自分で手を加えて作る。で、色が出てきたらその色を何かに塗るとか、この色とこの色を組み合せた色合いで絵を描いていくとか。 全部、在るものをどう抽出して、組み合わせていくかということの連続かと思う。例えば、山の中に行きました。海に行きました。 じゃあそこだからこそ、在るものとか、そこだからこそ際立つものを見つけて、見立てて、それに対していろいろな人が関わって、関わりの部分をしっかりと声高に発信していくこと。
持続力については、最初から何か一つ持続していくことを目的にしています。そのポイントは何かというとスケジュール。 例えば朝顔だと、冬に種を植えたって育たない。やはり自然の時期に合わせて植えないといけない。 人間の都合じゃなくて、植物の自然の成り立ちに、人間が合わせてアクションを起こすということが大切。 人のスケジュールに合わせてしまうと、今年はやめようかとか、みんな集まれる日にしようとかになっちゃうけど、自然の方に人間が合わせていけば止まらない。 それが持続の秘訣だと思う。岐阜でやっている「こよみのよぶね」というプロジェクトは、一年で一番夜が長い冬至の日に、 美濃和紙と提灯作りの技術を使った竹の枠で作った船を川面に浮かべるプロジェクトです。 お正月とか祭事とかお盆とか、年中行事や歳時記に合わせて行なうというのが多いですね。

「MITSUKOSHI CONTEMPORARY
GALLERY」について

現代アートとは一線を画す、例えば、藝大の日本画や油画、工芸の先生たちの作品が中心の三越が現代アートを扱うというのは、新しい客層の獲得。 百貨店なんだから、商業なんだからそれは当たり前のことだけど。三越の伝統は守りつつ、現代アートにチャレンジするってことですよね。 三越のアートギャラリーできっとそのうち、マンガだとかアニメなどの展示を遠からず行っていくと思うんですよ。 英国の大英博物館でマンガ展が開催されたように、どんどん時代も動いているわけだから。 三越が現代アートをとらえることによって、マンガやアニメも日本の文化として、あの三越も認めたみたいな(笑)。 そうなると、若い、今まで三越に来なかった客層が来る。今の10代の人たちが、三越って現代美術やってるとこでしょ、 という認識の人たちもあっという間に生まれますよ。令和生まれの人たちは、生まれたときからコンテンポラリーアートは三越にある、という認識でしょう。

グラフィック対象の作品展に、
立体作品で応募したという逸話。?

『イラストレーション』という雑誌主催の「ザ・チョイス」展です。グラフィックの展覧会なので、普通に考えると平面作品。 そこに段ボールの作品を出したんです。べつに特別な理由があったわけではないんです。 段ボールも紙、まあ、ちょっと厚みのある紙、っていう程度で、立体という意識はなかった。 でも主催する側は、これは立体なのか、厚さ5ミリは平面ではない、これはグラフィックか、などの意見が審査員の中ではあったらしいです。 その時の審査員でイラストレーターの湯村輝彦さんが、基本的には平面の作品だけれども、まあ、立体もちょっと誌面に載せようかって感じで、 「立体は受け付けません」っていう悪い例として掲載されましたね。
イラストレーションやグラフィックは平面という意識はありましたが、僕の中では、立体も平面もそんなに区別していなかった。 単に自分の好きな素材が段ボールなんです。段ボールっていうのは、剥がしたらちょっとへこんで、中には穴が空いていたり。 そこには厚みがあり、凹凸があるわけですけど、それは、自分の中では平面の延長線上。 段ボールって素材が平面なのか立体なのか、中間の存在だから、段ボールを素材に描きはじめたら自然に、平面だけども立体的だしという話なんですよね。

作家を育てるという精神と
デパートという場所。

“関わっていく”…
出会いと、そして持続。?

僕は、プロダクトデザインをやったり、テキスタイルをやったり、他にも舞台美術、コマーシャル、映像、役者、司会者…。 自分のやりたい世界感を表現できるならば、文字でも言葉でも、素材や媒体を選ばない。 例えば、演出家と組めば、僕の世界感が舞台美術になるし、コマーシャルディレクターと組めば僕の世界感がコマーシャルになっていく。

メンズファッションや呉服も同じ。例えば筆で線を描く対象が段ボールならば段ボールアート、呉服ならば帯やきものになる。 僕の世界感を表現するだけ。自分のやりたいことを、素材や媒体に合わせて器用に変えられない。 逆に言えば、どんな素材にのっかっても、変わらないものを自分の中で確信的に持っているので、まっ、何でもやるよ、みたいな。 何にでも、自分の味はそこにのっけられるし、できるっていう感覚はあります。

アートっていうのは物じゃなくて、関わり合い方。例えば、子どもがお母さんの顔を見てお絵描きするのも、母との関わりの中の愛情の表現だから、アートといえる。 僕だから何でもアートにできるっていうわけじゃなく、誰でも何かで表現したらアートになっていく。

2003年からはじまった「明後日朝顔プロジェクト」は、朝顔を作品にしています。それはもう画材ではないし、物でもない。 行為であったりとか、関わりを持つということですよね。 「明後日朝顔プロジェクト」の取材を受けても、エコなプロジェクトですねえみたいな、グリーンカーテンみたいなことになっちゃうと、僕のプロジェクトとは違ってくる。 明後日とは明日の先、花が咲いて種ができて、その種を次の年にまた繋げていくっていう、“関わっていく”という出会いとそして持続なんです。

価値を変えていくっていうのが
アートの特性。

三越が画廊でやっている、伝統工芸の職人の技の展示や、ビッグネームの美術作品もたくさんある中で、僕がやっているのは段ボールだし、 洋服に落書きしているしで、そこには違和感ていうものがあると思う。

でも、その違和感に対して、やはりギャップ、差異のあるところにエネルギーは動くし、変化は出てくる。 段ボールやジャケットなど見慣れたものに、何で差異が起こるのか、みたいなところがアートのおもしろさで、価値を変えていくっていうのがアートの特性ですよ。
先入観とか、価値観とか、既成概念とか、思い込みとか、差異をおもしろがる、そこに新しい発見がある。そういうのがアート。
さっき関わりっていったけど、デパートの中に、三越の中に、日比野の作品があって、通りかかった人がそれに関わったときに、 どんな引っかかり方があるのか、違和感があるのか。アートって物じゃなくて出来事だから、関わった出来事を、エッとか、ワッとか、ナニっとか、 思ってもらえればいいかな。人との関係性がアートになっていくので。

今、岐阜県美術館で館長の仕事をしていて、その美術館でのキーフレーズは「ナンヤローネ」。岐阜の言葉で「何だろうね」なんです。 アート分かんないから美術館行ってもつまらない、と言う人に対しても、「いや、なんやろうね」って言いに来てよ、という考えで、 美術館に来る人を増やそうという試みなんだけれども。「何だろう」と思うところから、自分でいろいろ悩んだり、読み取ろうとしたり、感じたり、 そういうところからアートははじまるので、ぜひ、そんなところを体感しに来ていただければと思います。

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